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わたし達、冒険者始めます  作者: 遠ノ守
第四章 過去から呼ぶ声
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5 ボス部屋調査 5       


 魔獣たちが一斉に突入してきた。

 四ヶ所の通路すべてからだ。

 それぞれの通路に魔獣の一匹が入ると、一歩入り込んだところで“腰高の壁”により前へ進めなくなって足が止まる。そこを上から攻撃する。という手筈になっている。


 前衛それぞれの腰高に壁を張ったので、足下あしもとを抜かれる心配は無くなった。後ろを気にする必要はなくなったが、やはり少々やりにくそうだ。

 だがこれでもだいぶ改善されているのだ。


 外周を囲む岩壁へ、単純に“腰高の壁”を築いた場合、攻撃の種類バリエーションが“突き”の一択いったくになる。

 “見えない盾”による腰高の壁と、岩壁にさえぎられて剣を振り回せないからだ。

 そこで腰壁を、鳥かご(ケージ)の水飲み器や餌鉢えさばちのように、岩壁からり出させてみた。

 これで斬撃ざんげき八種のうち“上段からの切り下ろし”と“左右の袈裟けさ斬り”が“突き”に加わり、合わせて四種類の攻撃が使えるようになった。


 それでもゴブリンのような二足歩行で多少上背(うわぜい)がある魔獣が相手なら、同じ状況でもさらに“左右のはらい”が使えたので、いまは転移罠(トラップ)でゴブリン広場へ飛ばされたときより攻撃を出しにくい条件だ。

 もっともあのときは剣よりも、シルィーと月那るなのブーメラン二十連による突貫攻撃に頼るところが大きかったのだが、今回は閉ざされた空間の内側で籠城戦(ろうじょう )の形を取るため、シルィーの精霊術による殲滅せんめつ力には頼れない。



 前回ダンジョン未踏領域から帰還するとき、同じく第五層で使えるようになった“一方通行の壁(ワンウェイウォール)”は、今日は使っていない。

 別に正々堂々を気取っているわけじゃない。

 そんなことを言えば射撃や魔術などの遠隔攻撃は、充分に卑怯ひきょうな攻撃手段ということになる。

 それが出来るというのなら、理不尽りふじんではあっても物理や術理など、世界の法則に含まれた手段なのだろう。


 “一方通行の壁(ワンウェイウォール)”を使えば、魔獣をさらに奥まで引き込み、一方的に壊滅できるだろう。

 ならば何故使わないのか?

 なんというか、馴染なじまないのだ。


 戦いの中、思いつきで発動させてしまった経緯があるし、あれから機会がなくて一度も使っていないこともありそうだが、そうだな。“不安”というのが一番近いか。


 職場の先輩に誘われて始めたMMORPG「七国( Seve(セブン)n Nation(ネイション) Fantasy(ファンタジー) Online(オンライン) )」

そこにあったのは、それまで見聞きしたゲームと比べて、格段の現実感リアリティーをもった仮想ヴァーチャルの世界だった。

 このゲームの現実感リアリティーとは、画面グラフィックスの細密さのことではない。世界のそこここに“ことわり”があったのだ。

 能動性アクティブの魔獣がもつ知覚範囲センシングレンジに始まり、広い世界と多様な移動手段、手段ごとに異なる移動速度、そして移動に要する時間。 つまり距離と速度と時間、そこに確かな空間の広がりが感じられ、人と人、人と魔獣の地政学ジオポリティクスなんてものまであった。

 もちろん幻想世界ファンタジーワールドなので、現実世界リアルワールドにはない“魔術”があり“精霊”がいて“魔獣”がいた。

 それらのすべてがちゃんとその世界の“ことわり”に沿って存在していたのだ。


 だがあの便利すぎる“一方通行の壁”は何だろう? とても現実リアルの現象とは思えない。

 “パイル”や“ウォール”ならまだ分かる。

 シルィーの魔術剣(防御)というか、“静止”の魔術? ああいったものが凝集ぎょうしゅうして薄い板状の“フィールド”になったとでも考えれば収まりはつく。

 たとえ現実リアルで実現されていないとしても、想像はできるのだ。


 “一方通行の壁”は、この世界の写し絵のようなゲーム「七国」内で、レベル86だった俺でも聞いたことがない“スキル”だ。

 限界レベルが99だったので十分上級と言えただろうが、それでもこんな技能に聞き覚えはない。

 というか、こんな技能スキルが実装されたら、ゲームバランスが取れずに、すぐ駄目ゲーム(○○ゲー)認定される仕様ギミックと言える。


「現実の方がゲームよりも自由フリーダム驚き(ワンダー)性質ネイチャーを持っているのだ」と言われたら返す言葉がないが、じゃあこれがどんな“ことわり”で成立しているのかと言えば、まるっきり想像がつかない。

 そこが問題だ。


 正体が不明なこともだが、あまりに便利な“一方通行の壁(ワンウェイウォール)”に寄りかかってしまう(●●●●●●●●●)ことに不安をおぼえる。


 自分がなにを使えているのか“想像できない不安”がぬぐえない。だから当分の間この“一方通行の壁(ワンウェイウォール)”は極力封印するつもりでいる。

 身内に対しても、“一時的な効果”ということにしておこうか。

 もちろん誰かが危ないときにまで封印を続けようとは思わない。不安はあるが、それはそれこれはこれだ。

 でもなるべくこっそり使えるといいかな。


 仮にこの“技能スキル”がおおやけになったとき、俺は凄いと賞賛しょうさんされるか? ひょっとしたらそうかもしれない。

 羨望せんぼう眼差まなざしを向けられるのか? まああるかもしれない。

 嫉妬しっとされるか? ありそうだ。

 自分の利益になるようかこもうとされるか? 間違いなくあるな。

 それは全力で御免被ごめんこうむりたい!

 元の世界へ戻る手段を探すためには、自由に動ける環境が必須だ!

 力不足で身動きが取れないのは問題だが、世間のしがらみで身動きが取れないのもやっぱり問題なのだ。



 さいわい今、仲間たちは堅調けんちょうに戦っている。


 隣で刀を振るうルーシーさんは、相変わらず体内魔力を瞬か(ブリンクさ)せながら、コマ落としのような動きで魔獣をほふっている。

 俺より頭半分小柄なルーシーさんの持久力スタミナが心配だが、この世界では“筋力”は男性に、“魔力”は女性に有利に分布しているらしい(リディア談)ので、魔力による“身体強化”を使いこなすルーシーさんは問題ないのかもしれない。

 だが、いちおう気にかけておこう。


 その向こうで大剣を振っているノルドは、やや手間取っている感がある。

 魔獣の方も、見えない腰壁の向こうでおとなしくしていてくれている訳じゃない。こちらの攻撃を避けたり自分の攻撃を届かせようと飛び上がったりするのだが、その動きをさばいたあと攻撃へ転ずるのにややもたつきが見える。

 だが攻撃力が高いので、一撃(はい)れば相手が沈黙ちんもくするため、戦列の維持に問題はなさそうだ。

 こうして他の大剣使いの戦いを見ると、月那るなは実に器用に相手に合わせ、両手剣一本でなしから攻撃に繋げていたんだなと感じる。


 俺はと言えばいつものように、盾でさばいてできたすきに片手剣を差し込んで痛手ダメージを与えている。

 いちど腰壁と盾で魔獣をはさんで固定したところ、姿勢が低くなった魔獣の上を、後ろの魔獣が無理矢理乗り越えて来そうになったため、いまは壁を乗り越えようと伸ばしてきた前肢まえあしを頭ごと盾で押し上げ、後肢あとあしは壁に任せて後ろの魔獣への盾として使いつつ、伸びた腹を片手剣で突く方式スタイルに変えた。


 後ろの通路を担当しているリカルドのことは、さすがに振り返って見ている余裕はない。

 だが聞こえてくる戦闘音と、俺が腰壁を回り込んだときにチラリと見える様子を勘案かんあんするだけでも、意外なほど詳しい状況が判る。

 戦いは安定しているものの、やや決定力に欠けるといったところで、一匹にかける時間が長い印象だ。

 だが防御を抜かれそうな様子がまるでないのは、流石だし非常に安心できる。


 中列の三名は、後方のリカルドと左翼のノルド兄弟への援護をしている。

 シルィーはこの程度の状況では俺に援護をくれないし、スレインとルクスの兄弟は俺の盾側にいるため物理的な援護は出しにくい。

 ルーシーさんはまたたきの間に位置を変えるため、中途半端に手が出せない。

 そもそも前側の三名がわりと近いため、間に入っての援護が難しい。

 必然のこる二名への援護えんごとなるわけだ。


 そんな事情でシルィーは、主に反対側にいるノルドの相手にすきを出させるような援護している。

 ルクスは後ろのリカルドの脇へ入り、槍での加勢と二匹目への牽制をしている。

 スレインは得物が短剣と短弓なので、無理をせず監視ウォッチ主体に弓での牽制が出せるよう準備スタンバイしている。

 よく分かってらっしゃる。


 欲を言うなら、俺とノルドの位置を入れ替える。あるいは、シルィーとスレインが入れ替われるならその方が良さそうに感じる。

 Cランク冒険者パーティー“怒濤の山津波”は、リカルドが魔獣を押さえてノルドが損害ダメージを与える。ずっとそういうスタイルでやって来たのだろう。

 だから今回のように別れざるを得ない状況では、殲滅せんめつ効率が低下する。

 別れた今の状況で、ノルドにいちばん有効な援護を出せるのは、シルィーの精霊術だ。

 だがまあそれも、本当に欲目の話だ。

 もろさをさらしているわけではないし、いまから変更できるものでもない。



 そうして結構な数の魔獣を減らしたころ、転機がやって来た。




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