3 ボス部屋調査 3
魔獣を釣りに出たスレインの方向から、これまでと違う空気が流れてきた。これは…。
「連鎖しましたかね」
俺がそう言うと、
「数は…三……四匹?」
「…五匹ね」
リカルドが数を数え、ルーシーさんが訂正する。
やがてスレインが、正面の通路から戻ってきた。
「連鎖した! 五匹だ!」
姿を現わしたスレインが第一報を入れる。
スレインのすぐ後ろに、狼の魔獣が一匹ついて来ていた。
後方にいるシルィーから魔獣に向けて、横打ちの空気槌が飛び、魔獣をスレインから引き剥がして、左翼のリカルド(盾)へと転がす。
ころがった魔獣は、起き上がろうとしたところをルクスの槍に処理された。
俺たちはいま、俯瞰して見るとおよそ「W」字の配置になっている。
空間の前側に 通路が三つ、
「W」字の上の頂点に左から、
ノルド(大剣)とリカルド(盾)、ルーシー(刀)、俺(盾)。
下の頂点に ルクス(槍)、シルィー(術)。
そして奥側にも 通路が一つ だ。
スレインと魔獣は前側中央、つまりボス部屋入り口に最短の方向から入ってきた。
そのあと続けて残りの魔獣が突入してきたので、俺はこっそりと“見えない盾”で“壁”を張って道を作り、魔獣三匹を三名の前衛、俺、ルーシーさん、リカルドへと振り分ける。
リカルドはいつものように魔獣を押さえ込み、ノルドが止めをさした。
ルーシーさんは、相手と接触する直前まで静止して正眼に構えていたが、接触の一瞬に魔力が全身を駆け巡り、次の瞬間には相手の右側を抜けながら逆袈裟に切り上げて戦いを終わらせていた。
たぶん身体強化の一種なのだろうけど、俺たちが使うものとはレベルが違う。
あれがルーシーさんを若くしてBランク冒険者にした“技”なんだろうな。
俺は“見えない盾”の“捕獲”で相手を止めて、片手剣を刺し込んで仕留めた。
シルィーからの援護はない。
シルィーは、というかうちの後衛陣には、相手の数が多くなったときは戦闘より監視を優先してもらっている。なので今のような場合では、相手が一匹のときのように熟練度目的での牽制は出してこない。
もちろん先ほどのスレインのように、誰かが危なければ手を出すのだが、五層の狼一匹なら俺にまだ余裕があるため静観しているのだ。
そのシルィーはと見ると、短丈を両手で握って自然体に立ち、首を左へめぐらせていた。
シルィーの視線の先を視ると、五匹目の魔獣が後ろの入り口へ回り込もうとしている様子だった。
「一匹後ろから来ますね」
「なに!?」
後列のルクスが槍を後方へ向け、後方入口への注意を増す。
そのとき、その入口から狼の魔獣が飛び出してきた。
ルクスが迎撃の槍を突き出すが、槍がとどく前に魔獣が進路を変える。
変えた進路の先にはシルィーがいた。
いちばん鉄臭さのない相手を最初に狙うあたり、やはり犬だな。いや狼か。
俺から見ると、ちょうどシルィーの向こう側に魔獣がいて、前列からの援護は届かない。
後列のルクスは、外した槍の立て直し中でこれも動けない。
遮るもののない状況で、魔獣は一直線にシルィーへと駆け寄る。
だがシルィーはその場を動かず、両手で握っていた短丈を左手一本に持ちかえて腰の横に置く。その短丈と左の爪先を開いて魔獣へ向けると、左足を踏み出す動作と同時に腰を落とし、上半身の中立を保ったまま両腕を左右に開くようにして、短丈を魔獣へと突き出した。
空気が鳴り、シルィーの喉元に噛みつこうと、大きく開いた魔獣の口から頸にかけてが吹き飛び、風穴が開いたあと全身も消えて、魔石が残った。
シルィーがこちらを向き、小さく微笑む。
俺もシルィーに小さく頷いておく。
シルィーと組んで潜った“西の森”での探索初日、魔術剣を発動するときに短丈を剣の柄に見立てて両手剣として振っていたシルィーに、それを片手剣として使うことを教えることになった。
継承の確認で、教えてみること自体が目的だったため、あまり有用な効果が得られるとは考えていなかったのだが、“風の魔術剣”が防御に回ったときの特性などを聞き取った後で相談を持ちかけられた。
聞けば、「“風の剣身”を長く伸ばすと、今のような森の中では辺りの木を傷つけてしまう。そのため剣身を短くして使えば、そのぶん魔獣との距離は近くなってしまう。狭い場所でもう少し効果的に剣を振るうのに良い方法はないだろうか」という話だった。
そこでその日の片手剣講座として教えることにしたのが、片手剣の“突き技”だ。
森や林で長物を振り回すのが難しいのは槍などと同じだが、短丈の取り回しが問題になることはない。
両手剣というのは、片手では扱いきれない長さと重さを持つ剣だが、シルィーが使っていたのは、両手剣の柄に見立てた短丈なので、片手での使うことに何ら問題はない。
そして“突き”であれば、気にするのは前方だけでよく、相手との間合いも周辺の様子もまとめて視界に収まる。
ということで教えるのは、“突き”に特化した“細剣術”となった。
と言っても俺自身“細剣術”を習ったことがあるわけじゃない。せいぜい「七国」内のFPSへの参考に、四年に一度おこなわれる世界スポーツ大会でのフェンシング競技を見たことがあるくらいだ。
それで良いので教えて欲しいとシルィーが言うので、立ち方と動きの型だけ教えてみた。
幸い“細剣術”と、詠唱を体の動作で行うシルィーの術とは相性が良かったようで、その成果が目の前のアレというわけだ。
なお本来の“細剣術”は決闘目的の歴史を持ち、その後スポーツとして発達した経緯があるため、攻撃のときは乾坤一擲。上体も相手に向けて傾けぎりぎりまで射程を伸ばすのだが、冒険者の場合は相手が単体とは限らず、体勢を崩してまで攻撃するのは問題があるため、そこは再構成が施してある。
一対一が前提で、規定によっては攻守交替制をとる細剣術と、冒険者が行う実戦との違いだ。
さらにシルィーの場合、射程を延ばすだけなら魔術で調整した方が手っ取り早いという事情もある。
“風の魔術剣”の剣身は伸縮自在なのだ。
「なんだ!? なにが……起きた?」
槍を引き戻したルクスが、茫然としてつぶやく。
襲われたと確信していた後衛職のシルィーが立っていて、短丈を向けただけの魔獣が倒れたのだ。
「まさか魔術剣? ……剣もないのに? …術だけの剣身??」
「嘘だろっ! あいつ後衛じゃないのかよ!!」
後衛だよ、ノルド。
スレインは気付いたようだが。
「頼もしいでしょう?」
「お前は知ってたのかよ」
俺が口を挟むと、ノルドが聞き返してきた。
「それはまあ、日頃から一緒に行動しているわけだから…」
「タツヤ、に、教えて、もらった」
「なに!?」
「片手突きの型をね!」
慌てて言い添えた。
あーびっくりした。
紛らわしい言い方をしないでもらいたい。俺が魔術剣を教えたみたいじゃないか!
「そろそろいいんじゃないの」
「ですが姉さん」
「姉さん言うんじゃないの!」
あれ? 獣車の中でも感じたけど怒濤の山津波の面々、妙にルーシーさんと親しげだよな。
「それよりスレイン、連鎖の報告は?」
「そうでした。周辺の魔獣は片づいたんですが、その内側に四~五匹ずつ固まっているのが何組かいて、今のはその一つです。あいつら塊ごとに連鎖しそうですよ」
「そう。それを片付けたらお終い?」
「いえ、壁の真ん真ん中に一番大きな十匹ほどの群れが控えていて、そいつが最後です」
「…集団ごとに相手をするならなんとでもなるでしょうけど、一気にまとまって来られたらちょっとまずいかしらね」




