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わたし達、冒険者始めます  作者: 遠ノ守
第四章 過去から呼ぶ声
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2 ボス部屋調査 2       


「けっこういるな」

「問題ないでしょう。タツヤさん、場所はあの壁で間違いないのね?」


 スレインさんがつぶやくと、ルーシーさんがそうこたえ、俺に確認を求めた。


 到着した場所はダンジョン・ヤグト第五層、中央岩塊の前に開けた広場で、かなりの数の魔獣がたむろしていた。

 一匹一匹の間はそこそこ離れているのだが、広場中に満遍まんべんなくいるため、総数はかなり多い。


 目の前には何種類かの中型魔獣がいるわけだが、それぞれが争うこともなくたたずんでいるのを見ると、やはりこいつらは自然の生き物ではないのだなと改めて思う。


「間違いありません。あの平らになった岩壁の中央が目標です」


 “地図作成マッピング”スキルの“踏破済み領域表示”機能は、中央岩塊の一部が切り落とされたような平らな岩壁の奥に、先日通ったボス部屋の壁と、扉のついた通路を表示していた。


「そうか。それじゃあずは掃除そうじだな。

 俺たちで一匹倒してみるんですこし下がってください。警戒を忘れずに」


 スレインさんがそう言った。後半はルーシーさんへの呼びかけだ。

 隊長リーダーへの上申じょうしんだね。


「そうね。大丈夫とは思うけど、前に連鎖リンクの報告があった場所だから気をつけて」


 隊長ルーシーさんの了承を得て、スレインさんが駆けていく。釣りに出掛けたのだ。

 俺たちの場合ならハンナが行くのと同じだ。


 いま居るここは、目標から少し離れたいくつかの巨岩に周囲を囲まれた場所で、外への接続アクセスは岩と岩の細い隙間すきま四箇所に限られている。

 連鎖リンクした場合に立てこももれて、多数の魔獣への対処がしやすい場所だ。

 五層で狩りをするときに、拠点ベースとして使われることのある場所のひとつでもあるのだとか。


 俺も気息きそくを整えて、精霊眼を発動する。

 第五層に入ったころから、生命力の強いものだけ感知出来る程度に使っていた精霊眼だが、改めて戦闘対応で発動しなおす。

 広く見渡せた方が都合がいいので、精細表示はなしだ。

 岩を通してスレインさんが進んでいくのが見える。

 ぐるりと周囲を見回し、目標以外の生き物が近くにいないのを確認してから、俺も待機する。


 少し待つと、スレインさんが中型のネコ科動物のような魔獣を引き連れて戻ってきた。小柄なひょうのような感じだ。

 盾の覆い(カバー)を外し岩を背にして立つリカルドの横を、スレインさんが通過する。


「リンクはない」


 通過しざまにそう報告を入れたスレインさんの後を追ってきた豹のような魔獣に、リカルドが片手剣で盾を叩きながら“うらうら”と叫ぶ。

「ここにも敵がいるぞ」というアピールだ。

 覆い(カバー)を外した盾が高明暗比ハイコントラストに塗装されているのも同じ目的だろう。闘牛のマントと似たような扱いだ。

 ゲームなら“挑発ちょうはつ”のスキルを放つ場面だが、そういったスキルは聞いたことがないので、一般的なのはこちらなのだろう。


 当初の目標スレインから近場のリカルドへと目標を切り換えたひょうの魔獣は、目立つ塗装をした盾に向かって飛びかかる。

 おおいてるよ、派手な盾!


 大剣(大型の両手剣)使いの巨漢ノルド。その兄である盾使いのリカルドは、ノルドを頭ひとつ分小さくしたような体型だ。

 縦にも横にも前後にも大きく分厚いノルドを、縦方向だけ頭ひとつちぢめてやると、もの凄く安定した形になる。

 その安定した体型で、リカルドは左手に握った盾を自在に操り、豹の魔獣の攻撃をめ、なし、翻弄ほんろうして、最後は頭を地面に押さえつけた。


「ノルド」

おう!」


 リカルドに押さえつけられた豹の魔獣に、ノルドが大剣で突きとどめを刺す。

 非常に安定している。

 他人が盾を使う実戦を見るのは初めてだが、上手うまいものだ。

 猫をじゃらしているようにさえ見えた。


「問題ないな。次を連れてくる」


 そう言ってスレインさんが再び出て行く。

 そんなことが三度繰り返されたあと。


「良さそうね、少しペースを上げましょう。スレイン、こっちへも頂戴」


 出番だ。


 俺が盾役タンカー、シルィーが後衛攻撃役バックアタッカー。二人だけでは手子摺てこずるようなら、ルーシーさんが前衛攻撃役フロントアタッカーとして加わる。

 これは事前に打ち合わせてあったとおりの流れだ。


 スレインが次の魔獣を連れてきて、俺の横を通り後ろへ抜ける。

 あとを追ってきた魔獣は俺に標的ターゲットを変え、接触直前に跳躍ジャンプ。その瞬間にシルィーの空気槌エアハンマーが下からあごをカチ上げる。

 勢いを殺せないまま胸と腹をさらして近づいてくる魔獣。その前肢まえあしを盾でさばきつつ片手剣を腹に突き込み、そのまま収納ストレージへ収納する。


「あの空気槌エアハンマー、下からの打ち上げもあるのかよ」


 そうつぶやいたのは、俺たちのDランク昇級試験のときに、シルィーの空気槌エアハンマー三連で倒されたリカルドだ。

 あのときはリカルドの右手側、上から、最後が左から飛んできた。


 シルィーの空気槌は、以前は上からの打ち落としが多く、それで決めてしまうか、倒しきれず地に伏した魔獣へハンナがとどめを入れるスタイルを主にしていたそうだが、最近は少し様子が変わってきた。


 飛びかかろうとする魔獣には、ぶ瞬間下から打ち上げて、防御の薄い腹や胸をさらさせる。

 低く構えたまま足下あしもとを狙ってくる魔獣には、上から打ち下ろして地に伏せさせ、突進力や左右への機動力をぐ。

 左右に回り込もうとする魔獣には、遠心力を相殺するために地を蹴っている後肢あとあしを、すくうようして外向きに打ち地面を滑らせる。


 つまり空気槌エアハンマーの一撃で仕留めるよりも、魔獣の出鼻をくじいて仲間が仕留めやすくなるような術の打ち方をするようになったということだ。

 言うまでもなく、後者の方が難度なんどが高い。

 術を打つ方向と機会タイミング。とくに機会タイミングを精密に選ばないとこれは実行できない。


 こうすることで術の難度は上がるが、魔力リソースの消費は大幅に少なくなるらしい。

 魔術ならともかく、精霊術に魔力量という概念が当てはまるのかはよく分からないが、熟練度はこちらの方が上がりそうだ。

 これはたぶん月那るなの影響なんだろうね。

 彼女は剣を振り始めた当初から、相手の攻撃を助長することで相手の体勢を崩す傾向があったから。


 そうして俺たちが三匹ほど狩ったあとは、スレインが二匹ずつ引き連れてきて、並行して狩りをするようになった。



 順調に狩りを続け、外周りの魔獣が片づいて一息ついた頃、


「私もそろそろ体を暖めるわ。こちらは大丈夫よ。スレイン、よろしくね」


 ルーシーさんがそう宣言した。

 こちらというのは俺たちのことだ。

 ここまでルーシーさんの手をわずらわせていない。


「人使いが荒ぃ……」とぼやきなから、スレインが魔獣を釣りに出ていく。


 スレインを送り出すと、ルーシーさんがこれまで背中に背負ったままでいた剣を抜き放った。

 刃に厚みがあって幅は狭い、直刀の日本刀のように背側に刃のない真っ直ぐな刀身。ただし背側もまったく刃がないわけではなく、先端の十五センチほどは背と腹の両方に刃がついている。

 日本刀のようにも見えるから、十五センチじゃなくて五寸(ごすん)とでも言った方がいいのだろうか?

 段平の直剣(ブロードソード)が多いこちらの世界はおろか、元の世界でも見たことのない種類の両手刀だったが、業物わざものであることは目利めききでない俺にも一目で分かった。



 ルーシーさんがゆるやかに剣を振り始める。

 太極拳のようなゆったりとした動き。それを途切れさせることなく、体も刀もぶれさせないまま、宙に軌跡をきざんでいく。


 これは美しい。


 やがて足捌き(ステップ)まじえ始めたそれは、美しい舞踊のように見え、こんな場所に居るのだということを忘れ、いっとき見惚みほれてしまった。



 あ───。


 何かあったようだ。

 スレインか?───





おおぅ。

今週になって、▽ールドニュースの「国営□シアTV」枠が「▽クライナ公共放送」に差し替えられている。

時勢ですね。



先端だけ背側にも刃のついた日本刀は鎌倉以前はよくあったそうです。

刺突性能が上がるのだとか。

しかし資料はあっても現物が殆どないうえ、製造法が失伝しているらしい。



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