29 調査隊3 sideルーシー
「そういう訳だったんだね」
目の前にいるのは、Bランクパーティー緑の旋風の副代表、ナティアだ。
代表のスルハはいない。
そしてCランクパーティー紅牙のリンディ、サハティ、ミルス。
もともとはこの四人姉妹でCランクパーティー紅牙を構成していたのだけど、Bランクソロ冒険者だったスルハが次女のナティアを娶り、B-ランクパーティー緑の旋風となった。
末っ子のミルスがまだDランクであるため、全員を同じパーティーに入れると、Bランクパーティーで居られなってしまうため、敢えてパーティーを二つに分けた格好だ。
それでも姉妹仲は良く、今回も緑の旋風の支援を受けながらダンジョンへ潜った帰り道で、件の擬態宝箱を倒して、D・Eランクの冒険者証を手に入れたというわけだ。
「そういう可能性が出てきたので、調査人員を増強することになったのよ、行政依頼でね。お願いできる?」
今は紅牙に正式な依頼を出し、人員を増強することになった経緯を聞いてもらい、追加の依頼を緑の旋風に出しているところだ。
「案内役って言うDランクパーティーが心配だけど、期間は大丈夫だし、収納があるならいつもより身軽に動ける。スルハもいるから問題ないでしょう。いいよ」
「ありがとう。よろしくお願いするわ。明日はラピスが案内役と引き合わせて砦まで送るから、北門前で待ち合わせしてね」
「分かった。そちらも気をつけて」
「ええ、ありがとう。あなたもね」
でもその案内役のDランクパーティーが、三層でCランクの紅牙以上に稼いでると知ったら、きっと驚くでしょうね。
言わないけどさ。
悩ましのは“またり”さんと“白き朝露”さんを、第五層と第六層のどちらへ振り分けるか? というところだ。
収納は三人が持っているから何とでもなるとして、地図作成は“またり”の二人だし、風の探知はシルィーさんとルナさん、でも脱出行を主導したのはタツヤさんだったそうだから、彼はぜひ第五層の探索に欲しいのよね。
考えて見れば、ずいぶん贅沢なことで悩んでいるわね。
駄目元で、入れ替わってもらえないか頼んでみようか。
嫌だと言われたら六層へ行く第二班へは、ルナさんが描いてくれた地図を渡して、“またり”さんは五層行きかな。
“怒濤の山津波”には斥候職のスレインがいるから、狩人のハンナさんと被ってしまうけど、六層組には専業の斥候職も支援職も居ないから、ハンナさんとリディアさんには六層へ行ってもらった方が良さそうだものね。
†
「ルーシーさん、お疲れさまです」「姉さん、お疲れさまです」
お昼ごろ、Cランクパーティー“怒濤の山津波”二兄弟の兄二人がやってきた。
スレインとリカルドだ。
「姉さん言うんじゃないってば。今ので一気に疲れたわよ……」
さすがに年上のスレインは「姉さん」呼びをしてこないけど、他の三人はいくら言っても一向にやめようとしない。
「それで組合依頼の件はどうなりました?」
「あんたたち、ホントめげないわよね。組合依頼が確定したわよ」
奥の間仕切りへ移動して、詳しい話を始める。
「明日朝2鐘(9時頃)北門から出発、目的はダンジョン・ヤグト第五層の探索。期間は往復にそれぞれ一日、調査に二日、予備日を含めて全体で五日を予定。構成員は、組合職員として“私”、案内人としてDランクパーティー“またり”か“白き朝露”から数名、貴方達はその護衛で、戦闘がある予定よ」
「「うおおおぉぉぉぉぉ!!」」
突然、二人が大声を上げた。
「ちょっ、騒々しい!」
冒険者としては、普通に暑苦しくて普通に騒々しい連中だけど、今日は一段と声が大きい。
「ルーシー、復帰おめでとう!」「姉さん、この日をずっと待ってました!」
「静かになさいっ!」
「痛いよルーシー」「姉さん、なんでアイアンクロー……」
私は二人を黙らせた。強制的に。
鉄の爪にしたのは、口を塞ぐよりもマシな気がしたからだ。
もちろん身体強化ありで。
だって女の細腕なんだもの。
「静かに話を聞く? それともこのまま帰る??」
「聞きます、静かに聞きます……」「同じく……」
・
・
「なんてこった」
「理解できた?」
「ああ、たしかに大事だね」
“緑の旋風”と“紅牙”が拾ってきた事件と、“またり”“白き朝露”が巻き込まれた件について、報告書の摘要を読ませての感想だ。
最初からこうしておけば良かったわね。
「それで緑の旋風と紅牙の第二班は、六層の偽装宝箱がいた場所を起点に探索をして、五層未踏領域の“転移部屋(仮称)”までを調査する。私たち第一班は、第五層の入口らしき場所を外側から確認するのが主目的ね」
「俺たちは未踏領域へ行けないんですかい? そんな殺生な」
リカルドが情けなさそうな顔をして、そんなことを言ってくる。
「最良な展開は、五層のその入口から未踏領域へすんなり入れること。それで“ボス部屋(仮称)”に出てくる魔獣、彼らのときは害猪だったそうだけど、それを倒して奥へ進み、“宝箱部屋(仮称)”を通って“転移部屋(仮称)”で第二班と合流して、一緒に第六層経由で帰還することね」
「それにしましょう。是非ともそれで行きましょう!」
一転してリカルドが嬉しそうに叫ぶ。
静かにしなさいって言ったのはつい先刻なのに。
スレインは斥候の職業柄か、静かに話を聞いている。
先刻のように、歓声を上げることの方が珍しい。
「まあ無理をしなくても未踏領域へ入るだけなら、表の様子だけ確認してから第二班と同じ径路で第六層から入っても大丈夫だから」
「何てことを言うんですか。入りましょうよ。是非とも五層の入口から、未踏領域へ入りましょう!」
なんだか随分と前のめりね。
「そんなに行きたい? 未踏領域」
「そりゃ興味ありますよ。だって未踏ですよ、未踏」
「害猪くらい、貴方達なら珍しくもないでしょうに」
「そうじゃないんですよ、そうじゃ。分かんないかな、この男の浪漫が」
「私、女だからね」
うん、付き合ってられない。
「それと、今回は収納があるから、予備の装備品とか持ち込んで大丈夫だからね」
「へぇ、Dランクの案内人は収納持ちですか。羨ましいな。“またり”と“白き朝露”でしたっけ? パーティー名に聞き憶えがないから、他所から来た連中ですか?」
スレインはそちらに興味を持ったようで、案内人のことを訊いてきた。
「確かに他所から来た人たちね。でも登録はここ冒険者組合タルサ支部だし、あんた達も面識があるわよ。ほら先々週、Dランク昇級試験でリカルドとノルド、ルクスに勝った人たち。つまりあの審査の後でパーティーを結成したということよ」
「ああ、組合長が『すこし煽ってやれ』と言ってきた…」
スレインはすぐに思い出した。
スレインの弟ルクスはルナさんに倒され、目の前のリカルドは、ハンナさんに勝ったもののシルィーさんに倒され、リカルドの弟ノルドはタツヤさんに倒された。
普通はないことなので、印象はさぞ強かったでしょう。
リカルドが静かになっていた。
目の光が薄くなっているのが不気味だけど、普段からこのくらい静かな方がいいわ。
「あいつらには、俺たちの本気を見せてやらんと……」
依頼手続きを終えると、リカルドがそんなことを呟きながら、“怒濤の山津波”の二人は帰っていった。
†
そして夕方と言うには少し早い時間に、彼らがやって来た。
ほわわんとした、力みの抜けた貌をして。
Dランクパーティー、“またり”と“白き朝露”の五名だった。




