28 調査隊2 sideルーシー
早朝に呼び出しを受け、“またり”さんと“白き朝露”さんの五名を砦から受け出し、組合長に報告し、朝の戦場を乗り切ったあと、早速各種の手配に取りかかる。
最初に、受付を統轄しているレヌアに、ラピスを交えて話をする。
「タルサ市行政府からの依頼と、関連した組合依頼を出すことになったのよ。内容は、ダンジョン・ヤグト第六層の探索、担当は“緑の旋風”と“紅牙”の予定。彼らがネタを拾ってきたの。
日程は明後日か明明後日くらいから、期間は四~五日。本日中に行政府から正式依頼が来るから、内容確定はその後になるわね。組合依頼の方は同じ日程で第五層の探索。どちらの組にもDランク冒険者パーティーの“またり”か“白き朝露”が案内役として同行します」
「第六層の探索にBランクを駆り出すのね。組合依頼の編成は、六層組と同じ?」
レヌアが訊ねてくる。
「そうね」
「Cランクパーティーはいくつか声をかけられそうな所が思い当たるけど、Bランクは何処も予定が詰まってないかな? Aランクって訳には行かないんでしょう?」
「Bランクの方は、私が行くわ」
「は?」
「Bランクの方は、私が行くと言ったのよ」
「冒険者に戻るの?!」
「違うわよ。今回は組合長の要請で、組合職員として参加するの。戦闘は同行するCかC+ランクたちに任せるわ」
C-ランクは除外する。
さすがに第十層に届いてない人たちに、この依頼は出せない。
できればC+ランクが望ましい。
このランクの+-というのは、組合内部での隠語だけどね。
「そんなこと言って体が疼くんじゃないの? むふ」
「変な笑い方をしないでよ。どこの戦闘凶?」
「お祝いしてるのよ。あなた組合へ来てからすっかり一般人だったじゃない。元が冒険者であの変わり様は普通じゃないわ。それがともかくもダンジョンへ入ろうって気になったんだから、おめでたい話よ」
「そ、そう? ……ずっと訓練は続けてたのよ」
「そうなの? その間、ラピスはどうするの? それにいくつか外部の案件を抱えてたわよね、ルーシーは」
さすがレヌア、話が早くて助かる。
「ラピス、あなたこれから一週間ほどの間、外せない用はある?」
「いえ、特にありません」
「じゃあ私たちがダンジョン入りするのに合わせて、ダンジョン砦の分室で後衛を担当してちょうだい。基本日勤で、日に一度の定時連絡と、騎獣の運動を名目にしてタルサへ戻ることはできるけど、夜は砦にある組合分室の宿舎に寝泊まりすることになる。詳細は後でね」
「はい」
ラピスは兎族の元Cランク冒険者で、獣車で移動しながら仕事を受けていたパーティーの斥候職を務めていたが、タルサでいきなりダンジョン第十層へ挑み、パーティーが大きな損害を被って、解散した。
此処は此処、他所は他所なんだけど、ダンジョン入りの条件は満たしているため、入場するのに問題はなかったのだ。
ちょっと慎重さを欠いていたみたいね。
ラピスはそのときの圧力で心に傷を負い、宿屋に引きこもっていたところを、組合長に拾われたそうだ。
特殊技能のこともあって、優秀な斥候だったらしいけど、この時ばかりは聞こえ過ぎるのが仇になったらしい。
「外部案件だけど、四件あるうち商業ギルドが絡む二件は組合の売店を窓口にするので、こちらの手を離れます。残りの二件、冒険者組合王都支部からと、森精族のセル部族から来る私宛ての用件は、組合長が直接対応するのでそちらへお願い」
「わかった」
さて、まずは報告書の作成か。
……だれか報告書を書いてくれる“術具”を作ってくれないかしら……。
書き上げた今回の“またり”さんと“白き朝露”さんについての報告書と、“目録化”“魔石と収納”、“風の探知”の経過資料を、まとめて組合長の決裁箱へと放り込み、ラピスに、この先一週間ほど予定が空いていて、二~三日中に動き出せる、ダンジョンで討伐・護衛・探索が出来そうなCランクパーティーを選び出しておくように頼む。
“緑の旋風”と“紅牙”へ、「進展あり、以前打診していた“紅牙”への調査依頼は、“緑の旋風”を加えてのものになる見込み。本日中に確定。明日組合へ来られたし」という書き付けを作り、いつも組合に数人待機しているFランクの子に、親展で届けてもらうよう手配する。
“武具防具の目録化”の複製資料と“石鹸”についての経過資料を持って売店を訪ね、話を通して席へ戻ると、見知った顔が待っていた。
「姉さん、お疲れさまです」
何度言ってもやめない「あねさん」呼びをするのは、“怒濤の山津波”の槍士で、代表者の弟のルクスだった。
“怒濤の山津波”
タツヤさん達“またり”とハンナさん達“白き朝露”のDランク昇級審査で試験監督と講師を務めた、四人組Cランク冒険者パーティーの一人だ。
「姉さん言うんじゃないってば。……何やってるのよここで。あんた達、護衛に出てたんじゃなかった?」
こめかみを押さえながら、私も答える。
「先ほど戻って依頼達成報告をしたところですよ。それより姉さんが組合依頼でCランクパーティーを探していると聞きまして」
あら?
なんで知ってるのよ? って思って横を見る。
まあ他にないわよね、ラピス。
「すみませ~ん先輩。この先一週間の予定を聞いたらバレちゃいました~」
そりゃあ目の前に、依頼から戻ったばかりの、条件に適うCランクパーティーがいれば、訊くわよね。
恐縮しているのか、背側に流れている耳が頭にぺたんと伏せている。
仕方ないわね。
「探しているけど、あんた達はこの間Dランク昇級審査の監督をしたばかりじゃないの。(選び出しの結果はどうなった?)」
と、普通の台詞に続けて、唇を動かさずに小声で呟くと、あ、耳がピクンとした。聞こえたようね。
ラピスが黙ったまま覚書を、私から見えるところへ滑らせてくる。
素速く目を走らせると、あらら、C+パーティーが一つも無いじゃないの、普通のCランクなら三組いるのに。
「あれは地元のCランク冒険者が、輪番で引き受けている組合依頼じゃないですか。外へ出る訳でもなし、数に入りませんよ、ノーカン」
“Dランクパーティー”が、もはやDランク魔獣では相手にならないというほど強くなると、パーティー限定でCランク向けの依頼が受けられるようになる。
その状態で、構成員の誰か一人が、個人としてCランクと認められたとき、そのパーティーは“Cランクパーティー”となる。
組合内部で“C-”と呼ばれる状態だ。
順調に実力を付け、構成員の複数が個人でCランクと認められたとき、そのパーティーのランクから“-”が外れる。
名実ともに“Cランク冒険者パーティー”というわけだ。
さらに力を付け、構成員全員が個人でCランクと認められるまであと一人となったとき、そのパーティーのランクに“+”が付いて、全員参加のパーティー限定で、一つ上のランクの依頼を受けられるようになる。
“怒濤の山津波”は、四人全員が“個人として”Cランク冒険者を名乗っている、現在C+ランク。
次のステップ、Bランクパーティーを目指せる位置にいるわけだ。
「まだ本決まりじゃないのよ。暫定登録しておくから、明日の昼ごろ顔を出してくれる?」
「分かりました、姉さん」
「姉さん言うんじゃないってば……」
私と“怒濤の山津波”は、どちらも地元タルサで生まれ育っていて、お互いを子供の頃からよく知っている。
ぶっちゃけ幼馴染だ。
周りの者もそれを承知しているから、余計な勘繰りをされないよう、仕事では極力事務的に接してきたけど、個人的な拘りで“C+パーティー”を外して、ただの“Cランクパーティー”を選ぶようでは、本末転倒だものね。
午後になり、ダンジョン砦のレナド氏は、約束を違えることなく使いを寄越してきた。
これで調査に向けて動き出せる。




