27 調査隊1 sideルーシー
「君が調査隊を率いてくれないか?」
言われそうな気がしてた。
女の勘?
「私、冒険者は休業していますが」
「そうだな、だが休業であって登録抹消はしてないだろう?
いやそうじゃない。そう言うことじゃないんだ。順番に話すとだな……。
このあと君が作る報告書は、タルサ市行政府に回る。もともと行政府から調査を依頼されていた、“ダンジョンに於けるDランクEランク冒険者遭難事件”に絡んでいる可能性が高いからだ。
そして今後の調査規模は、未踏領域の発見に伴い拡大されるだろう。
ここタルサ市が国の直轄ということもあって、国から学者などの調査団が送られる可能性が高い。
それはいい。
そこに文句はないのだが、調査が始まってしまえばそれが終わるまで何の手出しも出来なくなる。そして調査が終わった後、すべてがそのまま残っているとは限らない。
だから第一印象をだな……いやいやいや、それで調査隊を現場へ案内することになったとして、周辺状況が詳らかにされていないというのは、現地の冒険者組合としては、忸怩たるものがある」
第一印象とか言ってるし。
でもまあそうよね。
このダンジョンに人が入るようになって、記録によればもう千八百年。
鉱山と違って掘り尽くされることがないから、どうみても歴史の領分に突入している。
より深く潜ることで拓かれる、新層以外の未踏領域って、何百年ぶりかっていう話なんじゃない?
しかもこんな浅域で。
「第六層からの径路については、予定通り“紅牙”と“緑の旋風”に任せればいいだろう。問題は、“またり”と“白き朝露”が通れなかったボス部屋とやらの“外側の様子”だ。階層深度としてはCランク冒険者でおつりが来るが、中央岩塊の東側は開けていて、冒険者に人気がある場所じゃない。つまり浅い割に、情報が少ない場所だ」
日帰りの難しい深度だからDランクは来ないし、馴れたCランクはもっと実入りのいい深い層へ行ってしまう。昇級したての“C-”ランクパーティーが腰掛けとして使う、言ってみれば端境の階層よね。
「第五層探索の主目的は、あくまで未踏領域外側の様子確認ということになる。首尾良く扉が開けられたとしても、中で出てくるのが害猪なら、C-を脱したパーティーであれば、倒すのに問題はなかろう。むしろ君に頼みたいのは害猪を倒した後だ」
あと?
「オレもそうだったし君も覚えがあるだろうが、冒険者という輩は稼ぎのために魔獣と闘っている。もちろん人類の脅威を取り除くという意識はあるが、それだけで冒険者をやっている奴はほとんど居ない。だから心配なんだよ、お宝を見つけてちょろまかすとか、お宝を探し回って現場を荒らしちまうとか事故に遭うとかいう奴がな」
あー、それはありそうね。
「普段ならそれでも構わんのだが、今回は後で本調査が入る。害猪の討伐報酬の宝箱程度なら問題ないだろうが、それ以上となると後で問題になる。
調査を頼む緑の旋風がBランクなのでな」
「それに睨みを利かせるとなると、個人でBランクの私以上……ですか」
「わざわざ睨みを効かせる必要はないが、釣り合いを取るという意味ではそういうことになる。君が気を配っていてくれれば盗掘の抑止になるだろう。大手を振ってダンジョンに入れる組合職員で、かつBランクに対してそう言う気を回せる人材というと、あとはオレしか居ないからな。君の過去は承知しているが、今回向かうのはずっとずっと浅い第五層だ。君にはギルド職員として調査を主導してもらいたい。だから闘いは、連れていくCランクパーティーに任せて、君は物見を決め込んでくれていい。
頼む。護衛役のCランクが戦っている間の、案内役の安全確保を兼ねて、行ってもらえないか」
“またり”さん達の稼ぎ方を見ると、あの人たちに第五層で護衛が必要とも思えないけど、確かに経験は足りていない。
放っておくのも気持ち悪いか。
まあいいわ。
「分かりました。そうするといま私に付いていラピスは、私がダンジョンに入っている間どうしましょう? あと“武具防具の目録化”の話は進捗報告や問合せがちょくちょくあります。“石鹸”と“風の探知”、それに“魔石を大きくする方法”の三件はこちら側の処理を一段落させていますので、すぐにはどうこうはならないと思いますが」
ふだん受付けにいる私が、数日間ダンジョンに入るのだ。抱えているあれこれに、できるだけ滞りが出ないようにしておく必要がある。
「ラピスは連れて行ってくれ。ダンジョンの中にではなく、砦の組合分室で君らの後衛として待機だ、砦の施設や周辺地理にも馴れてもらおう」
騎獣を連れていったら、運動もさせないといけないしね。
「商業組合絡みの二件はうちの売店へ回してくれ。オレが後ろに付く。“探査魔術”と“魔石”の件は、確かに暫く動きはないだろう。君が戻るまでの間、なにかあればオレの所へ直接回してもらっていい。以上かな」
「分かりました。その内容で調整します。それでは」
こうして五年ぶりに、私はダンジョンへ潜ることになった。




