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わたし達、冒険者始めます  作者: 遠ノ守
第三章 遭難しましょう?
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25 帰還    sideルーシー   


「おはようございます、ルーシーです」

「おお来たか。入ってくれ」


 冒険者ギルド、二階の一番奥にある「組合長ギルドマスター室」

 ドレイク・シノハーグ冒険者組合(ギルド)タルサ支部支部長の執務室オフィスだ。


 受付けカウンターに沿った吹き抜けに面するこの部屋は、玄関広間エントランスホール側にも窓があって、開ければ受付周辺の声がひろえる。

 それを知っている受付嬢どうりょうたちが座りたがらないため、この真下ました区画ブースは私が担当することが多い。

 この話が、組合長ギルドマスターと会う機会のあるCランク以上の冒険者から伝わったのか、冒険者たちも奥の受付けを避ける傾向があって、私は忙しいということが少なかった。

 最近は受付対応をしていた方が気が休まるのだけどね……。


「ザルクから、うちの冒険者がとりでに保護されたと聞きましたが」

「そうだ。うちのというか、君の所のだな。Dランク昇級試験で“怒濤の山津波”を破っちまった連中だよ」

「“またり”と“白き朝露”ですか?」


 私の所のって何よ。そりゃ確かにうちに投宿とうしゅくしているけど……。


「彼らは“西の森”へ探索に行っている筈です。帰還きかん予定日は昨日でしたが、戻りませんでした。ダンジョン砦で保護というのはどういう状況なのでしょう?」


 冒険者たちの宿泊場所ねぐらを、組合ギルド把握はあくしている。

 これは緊急依頼や、大量動員が必要な場合に、すみやかに連絡を取るための措置そちだ。

 届け出は義務ではないが、強く推奨すいしょうされている。



「日付が変わる頃にダンジョンから出てきた五人組の冒険者に、ダンジョンに入った記録がなかったそうだ。身元は明らかなのだが、本人たちはバルニエ大草原にいて、気がついたらダンジョン・ヤグトの中でゴブリンの集団と戦闘になったと言っているらしい。話が荒唐無稽こうとうむけいなんだが、万が一“(とりで)”以外にダンジョンの出入り口があるようだと厄介やっかいだ。他にも少々気になることがあって、数日中にこの件の調査を行なうつもりでいるので、彼らに案内を頼みたい。とりでからは、地元の冒険者で、問題を起こさずダンジョンへ入っていた者たちなので、組合ギルド職員立ち合いで事情聴取をしたいという話なんだが、五人の協力を取り付けるついでに頼めるか」

「わかりました。砦へ行ってきます」

「獣車の手配はできている。騎乗ギルドで受け取ってくれ」

「はい、行ってきます」



    †



 “跳躍ちょうやく技能スキルを使って北門まで行き、騎乗ギルドで獣車を受け取る。

 蜥蜴とかげ一頭立ての貨客かきゃく獣車。あまり速度の出ないものだ。

 早く行きたいのなら、単独で騎乗した方が早い。

 私に限れば“跳躍ちょうやく”で行けばなお早い。

 それでも獣車で行くのは、歩けない者や歩かせない方がいい者がいた場合、荷物や装備だけでも別に運んだ方がいい場合などがあるからだ。

 獣車をく騎獣の選定には、緊急度の意味合いが含まれる。

 速い騎獣や牽引力の強い騎獣は費用コストがかかるからだ。

 速度も牽引力も程々(ほどほど)蜥蜴とかげが用意されていたということは、緊急きんきゅう性は然程さほどでないということね。

 まあいいわ。

 気になる事は多いけど、どれもこれも五人の顔を見てからよ。




 ダンジョンとりでへ着いて、砦の責任者であるレナド氏と情報交換し、みんなに話を聞こうと待機している部屋へはいってみると誰もいない。

 部屋の中央に置かれたテーブルの向こうを覗き込むと、壁を背にしたタツヤさんを中心に、全員が床でかたまりになって眠っていた。

 テーブルを回り込んで五人を起こす。


「起きなさい。起きなさいってば」


 肩を揺すると、タツヤさんが目覚めた。


「おはようございます、ルーシーさん。今日はひときわ綺麗きれいですね」

「なっ──」

「4──。ずいぶんと早起きですね」

「時間が分かるの? …と、それは後で聞くとして、なんで貴方たち猫饅頭ねこまんじゅうになっているのよ?」


 言われて、自分が周囲の子たちで身動きできなくなっているのに気付いたようだ。


「うる…さ…い……」


 リディアさんはまだ寝呆ねぼけているわね。他は目がめたようだけど。


「ああこれは、害猪イビルボアを倒した後で一休みしたときがこんな感じだったもので……」

害猪イビルボアですって! 貴方あなたたち、十一層まで行ってたの!?」


 完全にCランクの領域じゃないの!

 なんだってそんな所に。

 というか、よく帰って来られたわね。


「いえ、五層の未踏領域みとうりょういきですね。ボス部屋です」

「五層で害猪イビルボア!? 未踏領域!? ボス部屋?」


 何だかよく分からない話になってきた。


あわてなくてもちゃんとぜんぶ話しますよ。でもその前に一つだけ確認したいんですが、俺と月那るなが最初にゴブリンの大量討伐(とうばつ)をした場所の調査、どんな結果になりました?」

「あれね、場所を見つけられなかったのよ。Dランクの冒険者パーティーに確認を頼んだのだけど、同じような岩が並んでいる場所だからか見つけられなかったようね。討伐とうばつしたゴブリンの屍骸しがいまぎれもなく本物だったから、貴方たちの昇級ランクアップ審査しんさに影響が出るような話にはならなくて、ギルドもとくに問い直すことはしてなかったのだけど…」


 “地図作成マッピング技能スキルを持つタツヤさんに、ギルドの地図へ印を入れてもらっていたけれど、頼んだDランク冒険者パーティーは依頼クエスト不達成で、ちょっと残念な結果になった。


「なるほどね」

「ともかく立ち話もなんなので、テーブルに着いて話しませんか」


 責任者のレナド氏がそう言ってくれた。

 そうね、ともかく話を最初から聞きましょう。



    †



 それにしても転移罠てんいトラップとはね。

 そんな話は、むかしゼーデス王国のダンジョンにはあったらしいけど、文献ぶんけんに残っているだけで、もうずっと確認されていないはずだ。


 前回のゴブリン大量討伐に匹敵ひってきするゴブリンのれ、未踏領域みとうりょういき探索に、第十一層からしか確認されていない害猪イビルボア、第六層へ出た洞窟蝙蝠ケイブバットの群れ、巨大蝙蝠ハンガーバット害狼イビルウルフひきいた魔狼ダンガーウルフの群れ。


 話の途中途中でそれらの魔石を出してくれたので、“害猪イビルボア”の魔石が出たところで砦の身上鑑定器ステータスチェッカーを使って確認してもらったのだけど、それらは確かに彼らが言う通りのものだった。


貴方あなたたちよく無事だったわね」


 話が終わったとき、最初に出た言葉がそれだった。


「これを……」


 そう言ってルナさんが出してきたのは、第五層と第六層の地図だった。

 ギルドで複写コピーした地図に手描てがきで追記ついきしたものだけど、これはまた細密さいみつね。

 先程から話に加わらずに描いていた物だけど、とても手描きとは思えない出来で、き加えたのが中央岩塊ちゅうおうがんかいの内側(!)だけなので、範囲がとても狭いのよ。

 中央岩塊ここだけの拡大図なんて、需要がないからうち(ギルド)だって持ってない!

 レナド氏も感心しながら複写コピーを取ってくれた。

 冒険者ギルド(うち)の分もだ。


 そんな風に事情聴取は順調に進み、お開きとなって五人とも帰れることになった。


 帰り際にレナド氏から、「例の調査依頼ですが、こちらもからめてお願いすると組合ギルド長におつたえ願います。正式な手続きは今日きょう中に進めておきますので」と言われた。

 出がけに組合長ギルドマスターが「他にも少々気になることがあって」と言っていた奴ね。それもやっぱりダンジョンがらみか。


「承知いたしました。必ず組合ギルド長へ申し伝えます」


 何かいろいろあるみたいだけど、にもかくにも帰りましょう。




「今日はギルドの獣車じゅうしゃで来ているから、貴方あなたたちも乗って行きなさい」


 外へ出て獣車のところへ行くと、蜥蜴とかげ騎獣きじゅうがしきりに気にしている。

 何をかと思ったら、タツヤさんとルナさんとシルィーさんだった。

 それをじっと見ていると、ルナさんは大回りしてそそくさと車に乗り込んでしまった。

 シルィーさんは他の二人と同じく、さらっと撫でてやり獣車に乗り込んだ。

 タツヤさんはと言うと、しきりに甘える蜥蜴とかげにつかまって、でさせられている。

 ふむ──。


「タツヤさんはココね」


 そう言うとタツヤさん、何故なぜだか荷台の下をのぞき込んだあと、力なく隣へ腰掛けた。

 なによ、私の隣はそんなに嫌?


「それじゃあ出すわよ」

「「よろしくお願いします」」「「「願いします」」」



 獣車はバルニエ大草原にひらかれた道を進み、タルサ市北門を目指した。




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