24 呼び出し sideルーシー
忙しい日が続いている。
主にタツヤさんのせいで……。
森精族の探知魔術“風の探知”。
現在、冒険者組合王都支部を経由して、セル族の族長宛に書簡を送ってある。
“白き朝露”のシルィーさんの祖母殿だ。
組合長からは「君に事情説明に出向いてもらうかもしれん」と言われているが、いっそ本人たちに行ってもらった方が良いかもしれない。組合依頼を出して……。
ああ、でも誰も騎乗免許を持ってなかったわね。
いまレベル二十前後にいる“白き朝露”はまだしも、“またり”の二人はレベル一桁だし!
レベル詐欺だ!
勘弁してほしいわー。
早くレベルを上げてもらって、早いうちに騎乗免許を取ってもらおう。
あれだけの強さなのだから、レベル二十になるのに然程時間はかからないでしょう。
ダンジョンで採れる魔石を大きくする方法。
これも王都支部へ送って検証準備中だ。
とは言っても、検証の実施はこっちへやってくるんだけどね。
魔石を使った“術具”は、使う魔石の重さ、つまり大きさによって最大出力や稼働時間が決まる。
だから大きな魔石は国や領主たちから引っ張りだこだ。
同じ総重量でも、小さな魔石が沢山より大きな魔石が少数の方が、はるかに価値が高くなる。
それを踏まえると、タツヤさんの考案した方法は、収納や整理箱の持ち主に限定になるものの、市場の要求に合致したものといえる。
周囲の期待感がとても高い。
石鹸の話は、商業ギルドに丸投げすることになった。
冒険者ギルドの業務内容と懸け離れ過ぎて、うちが深く関わっても旨味が少ない。それよりも商業ギルドに貸しを作っておこうということだ。
ドレイク冒険者組合長は、欲の皮を突っ張らせることなく、無難な決断をした模様だ。
タツヤさんたちは、自分が使える安価な石鹸が欲しいだけのようだし、この流れで文句ないらしい。
私も稼業の事があるので、これはぜひ実現して欲しい。
商業ギルドとしては、薬師ギルドを巻き込むつもりのようだ。
武具防具の価格帯情報を共有する“目録化”については、関係する各組合と折衝を始めている。
商業組合を通して、鍛冶組合、木工組合などに、順位付けの叩き台を作ってもらっているところだ。
商業組合が乗り気なので、話は進むだろう。
冒険者組合員を守るための仕組み作りとも言えるため、タルサ支部としてはここに一番注力しているというのが現状だ。
気懸かりがあるとすれば、これらすべての件に関する冒険者組合の窓口が私だということだろう。
おかげでここのところ、窓口対応していない時間はずっと書類仕事をしている有様よ。
書き上がった書類は複製可能だけど、書類を作るのは手作業でするより他ない。
誰か私に休みをちょうだい!
繁忙の元凶であるタツヤさんはと言えば、五日前に二度目のダンジョン・ヤグト攻略をして、大銀貨四百枚を稼いだ上で、三日前から西の森へ合宿へ出かけていった。
最初の攻略より稼ぎが減っていた(それでも第十層近くまで潜ってきたCランクパーティー並みなのだけど)ので、なにか問題でもあったのかと思ったら、お互いの役割を入れ替えて攻略をしていたのだそうだ。
何をやっているんだか。
その五人が今行っている「西の森」は、タルサ市から北北東へ半日ほど駆けたところにある───駆けたところから始まる広大な森だ。
北にも北西にも広がっているのだけど途中に崖があって、タルサ市からだと北北東方向からか、王都へ向かう街道から脇道へ入る道程で大回りしないと辿り着けない。
その「(王都の)西の森」で、採取と討伐、そしてダンジョンで溜まった憂さを晴らす“合宿”をするのだ。
と、おもにハンナが楽しそうに話していた。
いいな“野営”!
城壁の外は魔獣が跋扈する危険な世界だけど、森の外なら小型の魔獣が指を齧りに来るぐらいだし(そんなことはありません)、広々した場所で伸び伸びするのは良いことよね。
私も書類仕事なんて放っぽって、森歩きしながら稼ぎたい気分だ。
最後に“西の森”歩きをしてから、もう五年経つのか。
修行の旅から師匠と一緒に戻ってきた時だったよね。
そういえば、私はなんで修行の旅に出たんだっけ……。
予定通りなら、五人は明日帰ってくる。
魔石と素材をいっぱい持ち帰ってねっ!
†
帰還予定日を過ぎても五人は帰ってこなかった。
一日遅れただけだし、冒険者が気儘なのは不思議でもなんでもないのだけど、有言実行のタツヤさんがいてなお予定が変わるのは、予定を変えても益のある事があったか、そうでなければ……予定通りに行動できない厄介事に遭遇したか……。
何れにしても、いま出来ることは何もない。
明日に備えて眠ろう。
コンコンコンコン────。
部屋の外窓を叩く音がした。
まだ夜明け前だ。
鎧戸の隙間から、外の光が漏れていない。
「誰──?」
「ザルクです。ダンジョン砦から、うち所属の冒険者五名が保護されたと伝令がありました」
「分かった、すぐに行くわ」
「お願いします」
急いで身支度を整える。
冒険者ギルドは、夜になれば受付けこそ閉まるが、組合自体は昼夜を問わず動いている。
魔獣の脅威は昼夜平日休日を問わないからだ。
この辺りの事情は、騎士団やダンジョン砦など行政でも同じだが、昼夜を問わず動いている組織だからこそ夜間対応要員というのはちゃんと居る。冒険者が保護されたというだけならそちらで対応するのが普通だ。
つまり、普通じゃないことがあった?
保冷庫の中から家族用に取り分けてある、お惣菜を摘まんで頬張る。
腹が減っては何とやらよね。
うちが…、姉のミリアが宿屋兼食堂をやっているので、うちの保冷庫は闇属性化した魔石が使える業務用だ。
義兄のクルトが作り置きのお惣菜を常備してくれているため、ちょっとしたとき摘まめるのが地味にありがたい。
受付けの時計を見ると、朝の三刻。
姉に手紙を書いて外へ出る。
伝言を持ってきたザルクはもういない。ギルドへ戻ったか他へ伝言に回ったのか。
昼間は人目があるからやらないけど、今ならまだまだ日の出前。
スカートだって大丈夫。
商業区の高台を目指して、私は“跳んだ”。




