21 騎乗講習 1
転移罠で跳ばされたダンジョン・ヤグトから、なんとか無事に帰還した俺たち五人は、事情聴取と身柄引き受けにやってきた、冒険者ギルド受付嬢のルーシーさんが操る獣車で無事タルサ市へ帰還した。
厩舎に残っている騎獣たちが興味津々にこちらを見ている中、獣車をそのまま厩舎へ乗り入れると、ルーシーさんは言った。
「お疲れさま。今日は一日ゆっくりと休みなさい。
で貴方たち、騎獣免許を取りなさいよ。明日の講習に出られるように手配しておくから。
それで明後日からなんだけど、ダンジョン・ヤグトの調査に付き合ってもらいたいわ。
これはギルド依頼よ」
なんですと!
「えーと、ギルド依頼というのは確か、Cランク以上で付いてくる義務だったのでは?」
「そうよ。義務になるのはCランク以上の場合。でもDランクでも組合からの依頼はあるわよ。
さっき話した、バルニエ大草原の岩場の調査にしてもDランクパーティーに頼んでいるでしょう?」
そういえばそう言ってたな。
「もちろんDランクの貴方たちには組合依頼を断る権利があるわ。いえ、Cランク以上でも冒険者組合と決別する覚悟があれば断れるわよ。
戦いそのものを生業とする兵士じゃないんだから、命を天秤に乗せる謂われはないわ。
Dランク冒険者の貴方たちだと、組合の功績得点が引かれるだけで、組合依頼が断われるわね。
でもこの組合依頼を断る利点って貴方たちにある?
組合依頼は報酬も獲得点も通常より高い。
それは依頼の引き受け義務があるCランク以上の冒険者に配慮したもので、依頼を引き受けたDランク冒険者にも同じ比率が適用されるわ。
逆に相応の理由もなく組合依頼を断った場合は、同じ高い比率で功績得点が引かれるから、既に先約があるとか、特段の理由がないなら組合依頼は受けておいた方がお得よ。
冒険者組合としては、話に聞いた程の突発事故から、一人も欠ける事なく生還した貴方たちの実力を見込んで、是非とも協力して欲しいのよ。
少なくとも協力を要請しないという選択肢は組合にはないの。何しろ現場を知っている唯一の人たちなんだから。
どうかしら?」
ぐぅ、この女性バリバリのキャリア組だ。
どこかの公務員試験Ⅰ種とかじゃなくて、積み重ねた実務経験で叩き上げた方のキャリア。
優秀だとは思っていたけど、被っている猫が特大じゃないか!
せっかく生還したというのに、またすぐダンジョンに逆戻りするのは有り難くない。だがギルドがこの話を放っておけないのも理解出来る。
むしろ話をきちんと聞いてもらえているという面ではあり難いし、俺と月那は実績が増えるのも助かる話だ。ハンナたちは?
ハンナを見るとウンと頷いている。三人は問題ないようだし、月那も頷いている。
「分かりました。Dランクパーティー“またり”と“白き朝露”は、そのギルド依頼を引き受けます」
「よかったわ。組合と組合員はお互いに良い関係で居たいものね。
なんと言っても同業者組合なのだから」
ギルドに報告を入れたら後の調査は丸投げ。という野望は、帰還早々あっさりと潰えてしまった。
話はそんな風にまとまり、ルーシーさんは獣車を返却して、俺たちの明日の騎乗免許講習の手続きを済ませる。
そして商業区への帰り道。
「ねぇルーシー」
「なに?」
リディアがルーシーさんに声を掛けた。
これまでの事があるとはいえ呼び捨てか。勇者だなリディア。
「騎乗免許の事も組合依頼なの?」
「まさか、違うわよ」
「違うの!?」
違うのか!?
「タツヤさんとルナさんには説明したわよね。冒険者登録の時」
「輸送担当冒険者のことですか? そうですよ、レベル20くらい必要って言ってましたよね。確か」
「そう。輸送専任冒険者の話はさておき、貴方たちも今後は機動力が必要でしょう? それで何故レベル20が必要なんでしたっけ? 憶えているかしら?」
「えー、それくらいのレベルが無いと騎獣に舐められる。でしたね? 確か」
「そう。でタツヤさん今のレベルは幾つ?」
「12です。昨日までの訓練とダンジョンで上がってました。月那も同じです」
ダンジョン出口の身上鑑定器でレベルが確認できた。
「それで先刻の騎獣に舐められた?」
「いや…懐かれましたね。おもいっきり」
「そう言う事よ。
騎獣資格を取る最大の関門が、騎獣との気分の相互伝達なの。これがないと始まらないのよ。
だからさっきの様子を見て“これなら大丈夫”って思ったの。
ルナさんは動物は嫌い?」
「いえ、好きです。ただトカゲだけは苦手で」
「大丈夫よ。騎乗ギルドには、トカゲの他に鳥とか馬なんかも居るから。
明日はそこらの適性を見ることもするからね」
あそこは“騎乗ギルド”という組織なのか。
いろいろなギルドと提携して足を提供しているのかな?
ああ、それで……。
「それじゃ私はこのまま仕事に入るわ。
今日明日のうちにいろいろ手配をすませておくから、明日の講習が終わったら帰りに組合に寄ってちょうだい。
そこで明後日からの予定を伝えるわね。
魔石や素材の買取りもその時でいいでしょう?」
「はい。朝早くからありがとうございました」
ルーシーさんは手を振りながら、冒険者ギルドの建物へ入っていった。
逞しいな。
†
そんな事があって一日が過ぎ、今日は騎乗免許の講習会だ。
天気は良好、穏やかな午前の日射しを受けながら、朝2鐘まであと1刻という頃合い(朝8時頃)。
タルサを発つ騎獣や獣車はほとんどが出発済みで、北門周辺は静かなものだった。
──のだが。
チュチュチュチュ────
ケッケッケッケッ────
ピュルピュルピュル────
グモー、グモー、グモー────
騎乗ギルドの敷地内に入ると、あちらこちらから動物の鳴き声が聞こえてきた。
昨日ルーシーさんが獣車を返却した棟よりも少し奥に入った建物に差し掛かったときのことだ。
「なんだ騒がしいな、どうした?──」
目指していた建物から、帆布製の上下を着た女性が現れた。
「ん? そこの五人は冒険者組合から来た、騎乗免許講習の受講者かい?」
「そうです。騎乗講習はこちらでいいでしょうか?」
「ああここだよ。入ってくれ。
そうか、エルフが居たんだな。それで騎獣たちが騒いだのか。それにしても今日は一段と……」
ん? エルフが居ると騎獣が騒ぐのか?
シルィーを見やると、“白き朝露”の三名全員が、「またいつものことだね~」というような、半ば諦めた平常運転という顔をしていた。
なんだ?
まあいつもの事だというなら問題はないだろう。
建物に入ると先客が三名、お下げ髪の女の子が二名と銀髪の男の子が一名だ。年齢はハンナやリディアと同じくらいに見える。
「遅くなりました」
もう一人きた。
細かいカールのかかった黒っぽい髪で、月那やうちの妹の同級生と言われて違和感がない年頃の女の子だ。
妙に女子率が高いな。
「よし、全員揃ったな。それでは講習を始める。
講師のダナンだ。ここ“騎獣組合”に所属している。
まず大本の話をするが、騎獣に乗るのに免許は要らない」
なんだそれは?
「家が家畜を飼っていて、そこに騎獣が含まれている場合があるし、中には遊牧しながら暮らしている者だっている。
そういう連中は子供の頃から騎乗の技術を覚えるから、成人前の子供でも一人前に騎乗をこなす連中が多い。
それを一律に規制している国はない。少なくともここ最近この近隣ではない。
だから騎獣に乗ること自体に“騎獣免許”は必要ない」
居るのか遊牧民。魔獣が出る世界で大変そうだな。
しかし全部がぜんぶ騎乗の素人とは限らないか。そりゃそうだな。
騎士団上がりなんてこともあるだろうしね。
「ではこの免許にどういう意味があるかというと、主に“騎乗組合”の騎獣や、厩舎その他の施設を利用するための基礎的な知識や技量、知見を持っているということを認められて、それを表明するための手段として“騎乗免許”がある」
ああ、何となく話の行方が見えてきた。
たぶん大きな図書館のフィルムライブラリーのようなものだろう。あれは確かフィルムを借り出すのに取り扱い講習があった。
16ミリフィルムの取り扱いと映写が正しく行えるように講習を受け、取り扱い資格ありと認められれば許可証がもらえ、許可証を持つ者だけがその責任に於いて所蔵されたフィルムを貸し出してもらえるという制度だ。
妹がその資格を持っている。あれも妙なものに興味を持ったものだ。16ミリフィルム映写機の取り扱いにはそうとう苦労させられたらしい。
「今日の予定だが、最初に座学で“騎乗組合”の主な利用法、主な騎獣の種類とそれぞれの特性、各種騎獣に共通する付き合い方や注意点などを学ぶ。
次に騎獣との顔合わせを行い、騎獣に気に入ってもらえるかを見る」
「騎獣に気に入ってもらうんですか? 騎獣を決めるんじゃなくて」
「そうだ。お前たちが騎獣に受け入れられるかどうかと言い代えてもいい。
どの騎獣にも受け入れられなかったら、今回はそこまでだ。
また一から出直しという事になる」
銀髪男子が質問していた。
それにしても、騎獣に気に入られる必要があるのか。
昨日の獣車を引いていたトカゲ君が居れば、そこはクリアできるんだがな。
「いずれかの騎獣に気に入ってもらえたら、騎獣の種類ごとに分かれて騎乗訓練を行なう。複数の種類から気に入られた場合は、今日の所は一種類を選び、必要なら他は別の機会に追加訓練を受けることになる。
昼1鐘(12時)まで騎乗訓練をしたら、騎獣の手入れをして、ここで終わりたい者は終わってもらって構わない。午後も騎乗訓練を続けたい場合は昼食を摂ってくれ。
午後は最長でも昼2鐘(15時)で訓練を終わる。訓練終了後はまた騎獣の手入れをしてから解散する。
合否は各所属組合へ三日以内に知らせる。
何か質問はあるか?
それでは講義を始める」
延びた(汗)




