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わたし達、冒険者始めます  作者: 遠ノ守
第三章 遭難しましょう?
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20 ギルド依頼          


「いい天気だねぇ」

「お出かけ日和ですね」

「いい天気だよね」

「お日様が嬉しいわね」

「いい、てんき…」


 昨日きのうはほぼ一日寝て過ごしていた。

 寝たり眠ったりといろいろで、シルィー以外の誰かが、ときには全員が俺たちの部屋に居たが、誰も居ないということはなく、ともかくぐだぐだと腑抜けて一日を過ごした。


 俺たちは一昨日おととい、西の森を出てバルニエ大草原に入るあたりで転移(トラップ)とらわれ(あれが罠だったのかどうか確証はないんだが、俺たちがそれらしきものに引っ掛かってしまったことは事実だ)、ダンジョン・ヤグト第五層の未踏領域に跳ばされ、第六層を経由し丸一日かけてダンジョン入口まで戻る羽目になった。


 一人として欠ける事なく戻れたのは幸運だった。

 先日来、訓練だ合宿だとパーティー各人の能力向上を図っていたのが、ずいぶんと助けになったと思う。

 あれがなければ、そして地図作成マッピングスキルやギルドで調べた資料がなければ、誰かが今ここに居ないか、誰もここに居ないという事態になっていたかもしれない。



    †



 深夜零刻(れいじ)近くにダンジョン・ヤグトの入口を出た俺たちの周りは、少々騒ぎになった。

 ダンジョンの出口門( ゲート)で冒険者証を確認したところ、入場記録が無かったのだからそりゃ砦の係員も戸惑うだろう。

 入場記録があるのに退場記録がない冒険者は一定数いる。それらは魔獣との闘いに敗れてダンジョンに吸収された者たちだ。

 俺たちだって他人ひと事じゃない。明日は我が身というやつだ。

 だが入場記録がないのに退出してきたなんていう冒険者は俺たちが初めてなんじゃないか? しかも以前にも入場記録のある、地元所属のDランク冒険者パーティーが二組だ。

 身元(?)がはっきりしているから見なかった事にもできない。


「冒険者ギルドの職員が来るまでここに居るように」


 そう言って案内された部屋は、テーブルと椅子があるだけの簡素シンプルな場所だった。だが文句などない。

 ここに魔獣は出ない。それだけでも安心できる。

 それにしても、ちゃんと冒険者ギルドにしらせが行くんだな。

 タルサ市への早馬が出たようだ。

 首実検くびじっけん事情聴取じじょうちょうしゅのためだろうが、ダンジョン自体はタルサ騎士団の所轄しょかつだったはずだ。

 てっきり騎士団の聴取を受けるのかと思っていたが、共棲きょうせいが上手くいっているのか、冒険者が意外に厚く信頼されているのか……。

 なんにしてもこれで一休みできる…な………。





「起きなさい。起きなさいってば」


 声がした。

 聞き慣れた声だが、朝起きるときに聞く声じゃなかったような…。

 誰だ?


 あ───


「おはようございます、ルーシーさん。今日はひときわ綺麗ですね」

「なっ──」


 お世辞じゃない。見慣れたきれいな顔を見て、本当に日常に戻ったのだと感動したのだ。

 目の前には、冒険者ギルドの受付嬢で元Bランク冒険者らしい、俺たちの常宿“もりの下亭”の女将おかみの妹、ルーシー・リューが居た。


「四時……。ずいぶん早起きですね」


 睡眠不足はお肌の敵だよ。

 立ち上がろうとしたが、身動きできない。


「時間が分かるの? …と、それは後で聞くとして、なんで貴方あなたたち猫饅頭(まんじゅう)になってるのよ?」


 周りを見渡すと、壁を背にして床に座り込んだ俺を中心に、月那るな、シルィー、リディア、ハンナが俺にもたれかかって一塊(ひとかたまり)になっていた。


「うる…さ…い……」


 リディアが寝ぼけている。

 他の三人は目を開けて、黙って話を聞いているみたいだ。

 いや、三人とも目を覚ましたのなら起き上がろうよ。


「ああこれは、害猪イビルボアを倒した後で一休みしたときがこんな感じだったもので……」

害猪イビルボアですって! 貴方たち、十一層まで行ってたの!?」

「いえ、五層の未踏領域ですね。ボス部屋です」

「五層で害猪イビルボア! 未踏領域!? ボス部屋?」

「慌てなくてもちゃんとぜんぶ話しますよ。

 でもその前に一つだけ確認したいんですが、俺と月那るなが最初にゴブリンの大量討伐をした場所の調査、どんな結果になりました?」

「あれね、場所を特定出来なかったのよ。

 Dランクの冒険者パーティーに確認を頼んだのだけど、同じような岩が並んでいる場所だからなのか見つけられなかったようね。

 討伐したゴブリンの屍骸は紛れもなく本物だったから、貴方たちの昇級審査に影響が出るような話にはならなくて、ギルドもとくに問い直すことはしてなかったのだけど」

「なるほどね」


 ともかく立ち話もなんなのでと、リディアを起こして全員(テーブル)に着いた。

 俺たち五人の他に、ルーシーさんとここの責任者の人だ。入口の歩哨は数に入れなくていいだろう。


 西の森での合宿訓練を終えて、タルサに戻る途中で寄った岩棚の様子が、きと違っているのを不審に思い、確認のため踏み込んだところで転移が発動、出た先でゴブリンの群れとの遭遇そうぐう戦になった。

 その後その一帯エリアを調べる途中で第五層には現れないはずの上位魔獣と闘うことになり、魔獣を下したあとは六層を経由してここまで戻ったという話をした。


 話の節目ふしめ節目で、手に入れた魔石を見せて信憑性を補完しながら話を進めていったが、害猪イビルボア以上に驚かれたのが六層で遭遇した洞窟蝙蝠ケイブバット巨大蝙蝠ハンガーバットだった。


「大抵は天井に近いところにいるから、六層では距離があって静かにしていれば害の少ない洞窟蝙蝠ケイブバットがこんなに……。いったい何をしたのよ?」


 うっ、どうやら俺たちはやぶつついてしまったらしい。

 前に話した探知魔術のせいだと言ったら、ルーシーさんが微妙な顔をしていた。


「貴方たちよく無事だったわね」


 そして呆れられた。


 十三匹の魔狼の群れにはさらに驚かれた。

 魔狼ダンガーウルフの群れは、五層ではたいてい四~五匹程度で、その倍以上の群れを上位個体が率いていたという事例は聞いたことがないそうだ。

 仲間の魔石を食った二匹の事も、ルーシーさんの記憶では今回が初めての事らしい。

 俺たちが倒したし魔石もあるので、信憑性は高いものの急いで警報を出す必要はないのだが、今後の資料には希少例として載せておく必要があるということだった。


 頑張って、ルーシーさん。


「これを……」


 と言って横から出てきたのは、月那るながギルドの資料室で複写コピーしてもらった地図に、自分で書き込みをしたもの、もちろんダンジョン・ヤグト第五層と第六層のものだ。

 先ほどから隣で作業をしていたのだが、本当に手だけで描く(フリーハンドの)画が上手いんだな。

 画には中央岩塊の中にある部屋と通路と出入り口が書き込まれていた。

 これがあると先ほどの説明がさらに分かり易くなるので、さっそくテーブルに着いていた砦の責任者が、歩哨に複写コピーを命じていた。


 暫くして戻ってきた地図が、原物オリジナルだったことに少し驚いた。てっきり複写コピーの方が戻ってくるかと思ったのだが、意外と行儀が良いんだな。ちょっとこっちの行政への好感度が上がったよ。

 そういえば一番最初にタルサに着いたときの衛兵氏の対応も丁寧だったね。

 科学文明という尺度スケールでは元の世界より遅れているが、民度は案外高いのかもしれない。

 魔術文明という尺度スケールを持ち出せば、あちらは石器時代からさらに後退中だしね。


 事情聴取はこれで終わりだそうで、自由に帰って良いとの事。

 やっと帰れるな。

 意外とすんなり終わった気がする。


「今日は組合ギルド獣車じゅうしゃで来ているから、貴方たちも乗って行きなさい」


 そうルーシーさんが誘ってくれる。

 いなやはない。喜んで乗せてもらおう。


 ギルドの獣車は、一頭立てで飾り気がほとんど無く、天井も壁もない小型の荷馬車だった。

 オープンカーだ、わーい。


 獣車を引いているのは、四つ脚で尻尾の短い蜥蜴トカゲのようなけものだ。近寄ると頭をこすりつけて甘えてくるので、撫でてやると意外に可愛い。

 女の子たちは軽く胴体を撫でてやって、ささっと荷台へ乗り込んだ。

 月那るなはトカゲが苦手なので、荷台の最後部へ直行だ。可愛いのに。

 しきりに頭をこすりつけてくる獣を撫でていると、ルーシーさんがじっとこちらを見ている。

 なんだ? と不思議に思っていると、「タツヤさんはココね」と御者席の隣をしてきた。

 待て、御者席では御者が中央に座るから、その隣の空間は荷台に乗るより狭くなるんじゃないか? しまった。女の子四人はそれが分かっていてさっさと荷台へ乗り込んだのか。


 荷車に近づくと、車軸は本体フレームじか付けで懸架装置サスペンションはない。

 乗り心地は決まったな。

 女の子たちは荷台に乗ってるのかと思ったら、左右の立ち上がりから折り畳まれていた補助席が出てくる貨客両用車両のようで、ちゃんと座席に腰をかけた状態でいる。

 ナニカを諦めた俺は、おとなしく御者席の端に腰をおろした。

 尻は半分座席から出て、片脚は踏み板(ステップ)へ置いて体が傾くのを防いでいる。


「それじゃあ出すわよ」

「「よろしくお願いします」」「「「願いします」」」


 獣車が発進した。

 おお、意外といな、乗り心地。

 馬よりも一歩の歩幅ストロークが大きいのだが、獣との連結部に工夫があるのか前がぶれる事もなく、道が整備されているせいか乗り心地も心配したほど酷くなかった。

 速度は時速十キロくらい、遅めのママチャリ程度かな。


「タツヤさん、今何時ごろ?」

「間もなく朝一鐘ですね」

「ありがと。ちょっと道を外れるわね」


 そう言ってルーシーさんは進路を変えて、獣車を脇道へ乗り入れた。


「どうかしたんですか?」

「あのまま進むと、西門からダンジョンへ行く人の列と鉢合わせするでしょう。

 どのみちこちらの向かう先は獣車用の北門だから、先に道を変えたのよ」


 なるほど、確かにあのまま進んでいたら、ダンジョンへ向かう冒険者の波に呑まれて進めなくなる。それに止まっていても邪魔だしな。


 畑の中を通って行くのも長閑のどかでいいな。


「こんな道もあったんですね」


 俺が言うと、


「畑の収穫物を運ぶのにも道は必要でしょう?」


 と答えられた。道理だ。

 だが本道を外れて間道に入れば、さすがに道の整備が行き届いているとは言い難くなり、話をしていると突然窪みにはまって舌を噛みそうになる。

 その後はみんな黙って運ばれた。


 獣車に揺られて二十分ほど、以前にも見たタルサ市の北門が見えてきた。

 前のときは、月那るなと二人で徒歩だったな…。


 遠くに北門を見ると、獣車の列が次々と出て行く。

 壮観だ。

 その車列も、俺たちが北門に到着する頃には途切れ、静かになった北門からそのままタルサへ乗り入れた。


 厩舎きゅうしゃに残っている騎獣たちが興味津々にこちらをうかがう中、そのまま厩舎へ獣車じゅうしゃで乗り入れると、ルーシーさんは言った。


「お疲れさま。今日は一日ゆっくりと休みなさい。

 で貴方たち、騎獣免許を取りなさいよ。明日あしたの講習に出られるように手配しておくから。

 それで明後日あさってからなんだけど、ダンジョン・ヤグトの調査に付き合ってもらうわ。

 これはギルド依頼ミッションよ」



 なんですって!





2022(R4)年 初春

今年もよろしくお願いいたします



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