6 タルサ到着
街道へ出ると、歩いている人や騎乗している人たちが見られるようになった。
剣や槍、鎧で武装した人が八割以上か。
故郷でならお巡りさんが飛んできそうな格好だが、これなら武装したまま進んで問題ないだろう。
ゲーム内では見なかったが、これが現実の世界だというなら、物流の要となるはずの馬車が少ない。代わりに騎馬の数と種類が多かった。
そして馬もいるんだが、他にもダチョウっぽい大きな鳥や、トカゲ、二足歩行の竜までいるのが、見ていて飽きない。
だがその光景は、ここがゲームそのままの世界と言う訳ではないという事でもあった。
七国に馬は出てこなかったんだよね。
たぶん脚を四本描画するが手間だったのだろうが……。
櫓の立っている低い丘を回りこむと、少し先に壁と堀で囲われた白い街が見えてくる。白い塔がひときわ高く立ち、いい目印になりそうだ。
やがて門に着き、徒歩での入場の列に並ぶ。
前で手続きをしている人たちのやり取りに耳をそばだてると、だいじょうぶ、日本語じゃないけど意味がちゃんと分かる。
よかった。意思疎通ができるかどうかって、異境の地で無事に暮らしていけるかどうかの結構上位にくる要素だからね。ナルさんを見ると、彼女もホッとしたのか、ずっとこわばっていた表情にほんのりと笑みを浮かべてこちらを見ていた。
そして俺たちの順番がやってきた
「一応訊きますが、それは魔獣の返り血ですか?」
開口一番そう尋ねられた。
二人とも血塗れなのだ。
それでも顔と手の血は拭ってあるし、倒れそうな様子もないのでここまで何も言わなかったのだろう。
そうだ、と答えると、
「改めて、ようこそタルサ市へ。来訪の目的は?」
おっと、タルサの街はタルサ市だった。
「冒険者登録をしに来ました」
「なるほど、市民証かなにかはお持ちかな?」
ないと答えると、それではこちらへと小部屋に案内されて、それぞれ箱の前に座らされた。
「この箱の板のところに手をかざしますと、名前、年齢、性別、称号が確認されます。犯罪歴がなければ仮入市証を発行します。仮入市証の有効期限は五日間。五日を超えて滞在すると罪になりますから、期限が切れる前に市を出るか、市庁舎で滞在延長の手続きをするか、正式な市民証や各種ギルドのギルド証を得てください。冒険者ギルドへ登録する予定なら冒険者ギルド証で通用しますよ」
入市税は銀貨一枚、仮入市証の発行にも銀貨一枚が必要で、本日は二人で銀貨四枚の支払となる。
タルサ市に限らず、クワン神国内の正規の市民証やギルド証があれば入市税は免除されるが、仮入市証の場合は入るたびに銀貨一枚がかかり、紛失した場合の再発行にも銀貨一枚がかかるうえ、再発行では有効期限は延びないとのことだ。
早いところ冒険者登録をしてしまおう。
俺はもちろん問題がないので走査してもらう。というか何だろうね、この無駄に高度な技術は。どこの何を走査するって言うんだ?
電気設備エンジニアを生業としている身としては、場所柄も忘れてむくむくと興味が湧き上がってくるのを押さえられずにいた。
だって個人の社会情報を生体走査で読み取るっていうんだから。
保安設備にも関わったことがあるが、これを故郷でやろうとしたら、情報素子を埋め込みするくらいしか手段がないのに、なんだろうホント。
自分の職業方面の好奇心を刺激されて、ここがゲームによく似た別の世界なんだろうと、俺は受け入れつつあった。
収納一覧もそうだが、地図表示のような、視覚器官を媒体にしない拡張現実技術とか、埋め込みによらない社会情報読み取りとかは、いいところ高画質画像でネットゲームがせいぜいの故郷の現実では無理な技術だ。
凄いぞ異世界!
これが仮にゲームだとしたち、完全没入型の、それも神経伝達に介入して五感を偽装できるレベルの仮想現実技術ということになる。
ずいぶん遠い先にしかない、本当に夢の技術だ。
すこし場違いな興奮を覚えながらも、どんな情報が出てくるのか楽しみに感じながら、俺は読み取り装置と思われる透明な板の部分に手を置いた。
ぺた──。
板が光って文字が浮かび上がった
「問題ないですね。女性の方もどうぞ」
文字を読んだ衛兵氏に言われて、今度はナルさんが手をかざす。
あ。手は置かなくても、かざせばいいんだった。
「こちらも問題ありません。それでは入市税と仮入市証の発行を二人分で、銀貨4枚の支払をお願いします」
言われて収納から銀貨を4枚取り出して支払う。
収納から出したのはわざとだが、傍目には手品のように握って開いた手へ銀貨が現れたようにしか見えないだろう。
衛兵氏は一瞬ピクッとしたものの、黙って銀貨を受け取った。
よし、銀貨使えた。
冒険者をするのに収納を隠す気にはなれなかったので、言い訳の効きそうなレベルで軽く使ってみたのだ。
聞く、話す、読むが問題なく出来たからって、調子に乗ってますかね。
でも早晩確認しないといけないことだから。
そして衛兵氏が箱の上に紙を置いてなにか操作をすると、驚いたことに表示された内容が置いた紙に転写された。
印刷出力できるんだ。
見ると
「仮入市証」
【名前】 タツヤ アツモリ
【年齢】 27
【性別】 男
【称号】 雑魚狩りの達人 流され人 ミユキの兄
発行 1821年4月1日 クワン神国タルサ市東門
有効期限 1821年4月5日
とある。
何だこのミユキの兄って、実際そうだけど。
ナルさんも
「仮入市証」
【名前】 ルナ サハシ
【年齢】 18
【性別】 女
【称号】 雑魚狩りの達人 流され人 ミユキの友
発行 1821年4月1日 クワン神国タルサ市東門
有効期限 1821年4月5日
となっていた。
というか今日は4月1日なのか。わざとやってるんじゃないだろうな。
名前や年齢、性別は自分たち自身のものが記されていた。【能力値】の項目はない。
【称号】の「雑魚狩りの達人」っていうのはバルニエ大草原でのことが原因だろうし、「流され人」というのはなんとなく俺たちのいまの状況を表している気がする。
衛士氏に質問すると、犯罪歴があるとこの【称号】の欄にそれが載るのだそうだ。山賊とか盗賊とか殺人者とか詐欺師とかね。
そうか、「身分」とか「地位」とかいった本来の意味での【ステータス】がここに来るわけだな。
それにしても一体自分のどこにそんな情報が書き込まれていたのだろう?
実際に体験してみてもまったく見当がつかない。
まさかこちらから申告することが何もないとは思わなかったよ。
「家名もちね」とつぶやくのが聞こえたので、「なにか問題が?」と尋ねると、「問題ありませんよ。家名持ちは少ないですが、珍しいというほどでもないので」と言う。
ともあれ二人とも問題がなかった。
帯剣していてもいいが、市内で抜剣するのは緊急時以外は違法となるなどいくつかの注意を受け、冒険者ギルドの場所を訊いて、俺たちは無事タルサ市へ入った。
また明日




