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わたし達、冒険者始めます  作者: 遠ノ守
第三章 遭難しましょう?
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12 ボス部屋は?         


 推定“転移陣ワープポータル”を調べるのはこれくらいで充分だろう。

 “陣”が生きているのは確認できたし、作動条件も一つわかった。

 あとの詳細は、俺たちから報告を受けた冒険者ギルドに任せればいい。


 次は、壁の上方三メートルにある扉だ。

 この三メートルの高さをどう埋めるか。


 最初は俺の肩にハンナを立たせてみたのだが、少し足りない。

 扉の下側には届くんだが、体勢が不安定で扉を開けたとき何かあっても機敏な対応は望めない。

 何より扉の上半分を調べることが難しい。


 しかたがないので一旦自由にして、各人で手を考えてみる。

 月那るなとシルィーが、風の精霊術でハンナを浮かせようと試みたが、自分が浮くようには安定させられなくて諦めた。


 へえ、自分が浮くのと他人を浮かせるのでは勝手が違うんだな。

 やはり足場がないとだめか、梯子はしご一本あれば済む事なのにな。そう考えていて思いついた。

 梯子はしごは無理でも傾斜路のようなものなら作れるのではないか? と。


 盾を頭上にかかげ、扉のある壁に向けて“パイル”を打ち込む。

 いつもながらまったく反動を感じないのだが、ちゃんと固定されているから不思議だ。

 そして“ウォール”を転移部屋の横の壁まで伸ばす。

 懸垂の要領で体重が支えられるのを確認してから、盾を手放す。

 盾が床へ落ちた。

 手を離すと消えるんだよね、この“見えない盾”。


「なにを遊んでるのよ?」


 リディアがそう言ってきた。

 失礼な。


「遊んでいるんじゃない。“見えない盾”を足場にできないか考えてるんだ」

「へー。それで出来そう?」

「出来そうだけど、この足場で作業が出来るかどうかだな」


 もう一度同じように“ウォール”を横向きにして出して、こんどはハンナに上に乗ってみてもらう。

 ちゃんと乗れるね。


「乗るのはハンナだけでいいんだけど、なんで四人とも乗ってるんだ?」

「いいじゃないの」

足下あしもとが空中って変な感じですね」


 楽しそうだな。

 高層ビルで、足の下が硝子ガラス張りになっている展望台の感じかな?

 高さは低いけど、窓枠フレーム手摺てすりもない分こちらの方がひやひや感は強いかも知れない。


「この足場、先の方だけ水平にできないかな?」


 ハンナがそう尋ねてきた。

 斜めでは作業がし難いようだ。そりゃそうか。


「やってみるから一旦降りてくれ」

「このまま消してよ」


 出したまま曲げてみるつもりだったんだが、まあいい。

 上に向かっている傾斜を消すと、


「「「「きゃーっ♪」」」」


 と嬌声きょうせいをあげて四人が落ちてきた。

 月那るなとシルィーなど、ご丁寧に落下制御フォールコントロールまで使っている。

 もちろん風魔術でだ。

 遊園地や公園の遊具なんて見たことのない三人が喜ぶのはよく分かる。

 いや、河原の大きな岩や大木のうろにも遊びを見つける、自然児か。

 何処どこにでも楽しみを見つけられるというのは凄いね。


 俺も自由落下フリーフォールで遊ぶ四人をただながめていたわけじゃない。

 四人の着地を確認したら、上向きの壁を再度伸ばして、目測で曲げてみる。

 曲がった気はするな。見えないからはっきりとは言えないが。


「傾斜路を曲げて張り直したぞ。確認してくれ」


 四人してまた傾斜を登っていく。ハンナは扉に取り付き、他の三人は足下を探りながらハンナの周囲をうろうろしている。


「罠はないよ。それどころか鍵もかかっていないみたいだ。どうする?」


 しばらくしてハンナがそう報告してきた。


「開けよう。気をつけてやってくれ、他の三人はハンナの補助フォローを。

 もし戦闘になったら足場を消すから、床で決着しよう。

 足場が消えたときに、姿勢バランスを崩さないよう気をつけて」

「「「「はい」」」」

「開けるよ。リディアは扉が開いたら“照明ライト”を」

「うん」


 ハンナが言いリディアがうなずくと、ハンナが扉の隙間にナイフを差し込み隙間を大きくする。

 少し広くなった隙間に指をかけて、扉を大きく開く。

 開かれた扉が百八十度になる寸前、反対側にいたシルィーが開く扉を止める。ハンナの後ろにいたリディアが、用意しておいた“照明ライト”の魔術を放つと、扉の奥で光が強く輝き、数秒でほんのりとした明るさになって落ち着いた。


「それほど広くない部屋だね。縦横高さが“転移陣”の(この)部屋のそれぞれ半分くらいだ」


 ハンナが扉の枠から順に調べて奥へと進んでいく。

 四人とも部屋に入ったところで、シルィーに扉を押さえていてもらう。


 俺は傾斜路を解除してから扉の真下に立ち、盾を顔の横へ立てて、床と天井に“パイル”を打ち込んだ。

 盾の握りにぐっと力を込め、下の“パイル”を伸ばしながら、上の“パイル”を同じ長さだけ縮めていく。

 即席の昇降機エレペーターだ。

 決して四人の自由落下フリーフォールがうらやましかった訳じゃない。ないよ……。



 “遮断”スキルを使った即席昇降機(エレペーター)で扉の高さまで上がり、右足右手を扉枠にかけて“パイル”を解除し、俺も部屋へ入る。

 なるほど。たしかに小さくてなにもない部屋だ。

 小さいと言っても、一辺が七~八メートルありそうな立方体の部屋だ。畳にすると三十畳から四十畳ほどか。

 先程の“転移陣”部屋と較べると、一辺が半分くらいなので小さく感じられるんだな。部屋の面積は四分の一、容積としては八分の一になる。


 しばらくして、部屋を調べているハンナから声がかかった。


「壁にも床にも罠はないよ。反対側は下り坂になってる」

「分かったありがとう」


 部屋の外周をまわって、地図作成マッピングスキルに部屋を記憶させると、すぐに反対側の開口かいこうに向かう。

 穴から奥を覗くと、ハンナの言う通り緩やかな下りになっていた。

 通路の幅はわりと狭く、二人で並んで歩けるが、二人並んで剣を振れるほどには広くない。

 ハンナ、俺、リディア、シルィー、月那るなの順で下り坂を進んでいく。

 二番手なので、もしものときは片手剣では攻撃距離リーチが足らなくなる。だから何か出たときには、“見えない盾”で殴り飛ばすつもりで進む。



 道のりは何事もなく進み、下り終えて左へ曲がると今度は広い部屋に出た。

 部屋の大きさはゴブリンたちがいた部屋と同じくらいで、三十メートル四方ほど。天井もゴブリン広場や転移部屋と同じで十五メートルほど。床は固い土で壁は自然の岩に見える。

 反対側の壁は“地図作成マッピング”スキルの踏破済み領域表示に掛かからないので正確には分からないが、ギルドの資料室で複写した大雑把な地図によれば、反対側の壁の向こうは、ダンジョン・ヤグト第五層の空間らしい。


 やっとここまで来たか。


「反対側に扉のようなものが見えるよ。そこ以外はすべて壁に見える」


 とハンナが告げてくる。


「床の中央にも、“陣”のようなものが描かれているように見えるな。

 右から大外回おおそとまわりで扉まで行こう。

 あの扉の外が、多分ダンジョン・ヤグトの第五層だ。慎重にいこう」

「はい」「うん」「ええ」「わかっ、た」


 ハンナから順に、慎重に広間に出る。

 全員が出たら、ハンナを先頭にして罠に注意しながら進んでいく。

 恐ろしいほど静かで、土を踏む自分たちの足音と、自分の心臓の鼓動しか聞こえない。

 薄暗い室内は距離感を失わせ、時間の感覚が曖昧になる。

 曲がり角はまだかな?


 後ろから鎧を引かれたような感じがしたので、歩きながら振り向いてみると、すぐ後ろのリディアが俺の鎧の裾をまんでいた。


「なにか人の心を怯えさせる仕掛けでもあるのかもしれないな…」


 小声でそう言ってみる。


「闇属性魔術の?」


 とリディアが反応する。

 闇属性魔術ってそういう系統なんだな。

 人を怯えさせたり興奮させたり静めたり。


「そこまで、しなく、ても、雰囲気、は、出せる」


 リディアの後ろにいるシルィーがそう続けた。

 そうだな。

 演出ってやつだ。

 自然に出る雰囲気の場合もあるのか。まさか演出家は居ないよな。


 ほんの少し声を出しただけで、ずいぶんと気が楽になった。

 リディアも同じなようで、鎧を摘まんでいた手が離れている。


 だからと言ってお喋りしながら進む訳には行かないけどね。

 何かが動く音を聞き逃す訳にはいかないから。


 そうして最初の角へ到達した。

 角を曲がって進み続けると、来た。

 “踏破済み領域表示”の端が、正面の壁の向こう側を表示し始める。

 やはりあの壁の向こうは“外”だ。

 ダンジョンの中なのに“外”とはこれ如何いかにだが、まあいいじゃないか。

 左腕でガッツポーズをして先へ進む。

 少し進むと、後ろで月那るなが同じように力を込めている気配がした。


 そして扉に辿り着く。



 ハンナに扉を調べてもらったが、目に見える罠はなかった。

 だが、精霊眼の詳細表示で見ると、扉から部屋の中央にある“陣”に向けて繋がり(パス)があるのが見て取れた。

 やはり“ボス部屋”だよな、ここは。


 扉を開けてから、閉めた後にボスが出るなら安全に脱出できる。

 扉を開けただけでボスが現れるなら、まあこれも許容範囲だろう。相手の姿だけ確認して逃げ出すまでだ。

 扉を開けようとしただけで中に閉じ込める仕掛けが作動するようなら、この扉には手を触れない方がいい。


「ボスが出るかもしれない」


 俺は精霊眼(詳細)での調査結果をみんなに告げた。

 ボスが現れるシステムなんて分からないが、これは出るだろう。と、ゲームをしてきた五年の月日が言っている。


「それでタツヤは、三つのうちどれが最善だと思うんだ?」


 ハンナがそう問いかけてきた。


「三つ目だ。扉には触れずにゴブリン広場まで戻って、細道の先を探したあと第六層へ出る」

「わかった。あたしはそれで良い。三人はどうする?」

「私もハンナと同じね」「同意(どう、い)

「わたしも達弥たつやさんの判断を支持します」


 全員一致か。欲のない連中だな。

 ボスの強さは不確定だが、第六層の魔獣が弱いって訳じゃないんだから。


「わかった。ゴブリン広場までもどろう。

 隊形は同じ、来た方向へ戻って傾斜路まで行こう。

 “転移陣”部屋まで戻ったら一休みだ」


 先程までと同じ反時計回りに進んで、この部屋の“詳細表示”を埋めてしまいたい気持ちはあるが、それ以上に今はゲーム感覚で気力体力を消耗させたくない。

 来た径路ルートを戻るなら、罠を確認済みのぶん気を使わずに進める。

 まだ先は長いのだ。たぶん。



 ハンナを先頭に、来た道を戻り始めて少ししたころ、後ろで「カチャッ」という音がした。まるで扉に鍵がかかる音のようだ。

 続いて「ゴリゴリ」という音が聞こえて、傾斜路の入口が壁で閉じられた。


 そして中央の“陣”に魔力が注ぎ込まれ、何かが姿を現わす。



 ボスが出た────。




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