6 西の森 探索二日目 前編
うふふ。
うふふふふふ───。
かわいいわ。
この子とってもかわいいわ。
この子を放つと風の子たちが、我もわれもと集まってくる。
誰がこの子を作ったのかしら。
「この地」のヒトではないわよね。
もしこの地のヒトなら、風の子たちが噂してないはずがないものね。
この子を作ったヒトはきっと風の子が感じられたのね。
ブー…メラン?
タツヤは自分の世界に魔術はないといったけどウソね。
あの子たちがいない世界で、風の子をこんなに喜ばせるものが生まれるなんて考えられない。
タツヤやタツヤのまわりがあの子たちを見たことがないだけだよね。
タツヤもルナも、あんなにあの子たちを感じとれるのに、それはとても不思議なこと。
ブツリの世界とジュツリの世界。
ブツリの世界を見ていれば、ジュツリの世界が目にはいらない。
ジュツリの世界を見ていれば、ブツリの世界は見えてこない。
この地はちょうど釣り合いのとれた世界なのだと、むかしおばあさまから聞かされた。
ヒトは、ウシロが見えるようにはできてなく、見えている方へ進むのだそうだ。
三年前、リディアと出会ったのは偶然だったけど、リディアの幼馴染のハンナは、意識せずに風を読むヒトだった。
自分でも知らずに大きな風に吹き寄せられていく。
風に流されていく。と言った方がいいかもしれない。
もともとボクは世の中を見てまわる旅をしてたから、この出逢いは都合が良く、彼女らが村を出て冒険者になろうという時に、ボクも彼女らと行動を共にした。
若いエルフがひとりで街に入るのは問題が起こり易いから、これまで大きな街は避けてきた。けれど彼女たちも似たような問題をかかえていて、お互いちょうど良かったの。
そしてタルサ市へやってきて三ヶ月。
出会ったのは、異世界から来たという二人だった。
なんてこと。
里をでてたった三十年で、こんなに大きな事件に出会うなんて。
やはりボクは運がいい。
「夕食の支度ができましたよー」
「はー、い」
岩棚から降りて、ずっとブーメランで風の子と遊んでいたボクに、ルナが夕食の時間を告げてきた。
ブーメランもだいじだけど、ラヌー鳥の夕食もだいじだ。
ボクは文字どおり飛んでもどった。
ボクは涙を流していた。
おいしい。
前に食べたときより一段とおいしい。
みんなも涙を浮かべて食べている。
でも、辛い。みんな汗を浮かべながら食べている。
次があれば、あまりば辛くないのを…と依頼したところ、「お米があれば水炊きや鳥飯が出来るのですが…」といっていた。
お米…。
どんな味だろう。
穀物のことなら調べられるかも。
こんど里へ帰ったときに聞いてみよう。
あしたのお昼は「ラヌー鳥のてりやきばーがー」というのが作ってあるという。
楽しみ。
†
夜番の二番手を始めました。
相方は、昨日に引き続きリディアさんです。
もっともリディアさんは、昨晩は筋肉痛のことがあって早く寝て、自動的に夜番は最後の三番手。今日はくじ引きで夜番の一番手を引き当てて、二番手と続きなのでだいぶ眠そうです。
筋肉痛の方は、【体力継続回復】で痛みが軽くなることが分かってからは、悲鳴も収まりました。
リディアさん、丁度いい術を持っていてよかったです。
ちなみにこのくじ引き、森の中でリーダーを務めるハンナさんとシルィーさんは、対象から外れています。
それと二晩続けて夜番が当たらないようにしてますから、昨夜はわたし、達弥さん、リディアさんの三人でくじを引き、昨夜夜番を二回した達弥さんは今日のくじから外れてわたしとリディアさんの対決、明日の夜はリディアさんが外れてわたしと達弥さんの対決になります。
達弥さん、こういうことを考えるとそつがないです。
昨日の夕食はおいしかったです。
ふだんモノに執着をみせないシルィーさんが、あれほどの拘りをみせたラヌー鳥。
さぞや格別なものだろうと思われましたので、自重を捨てて腕を振るわせていただきました。
血抜きや解体、下処理も収納の内で行ない、衛生と鮮度の維持に最大限気を使いました。
血や肝や羽も素材になるそうなので、とても具合が良いです。
ですが収納の真骨頂は、その内部で合成ができることにあります!(断言)
購入してあった、市場で手に入る多数の香辛料を、挽いて粉末にし、調合する。
血を抜くのと同様に脱水もできますので、ハーブや一部野菜も乾燥させて素材にし、香辛料と調合します。
もちろん調合割合も自由に指定できます。
収納の恐ろしいのはその先で、調合したものの出来がよくなかったとき、調合を無かったことに出来るのです。
復旧できるのです。
素材に戻してやり直せるのです。
覆水が盆に返るのです。
塩水と真水を混ぜたあと、元の塩水と真水に戻せるのですよ!
細かくした材料をもとの塊の素材に戻せるわけではありませんが、調合は完全に元に戻せます。
つまり失敗なしに、何度でも、調合を試せるのです。
なんて有能な収納。
この機能を使って挑戦と失敗、そして復旧を繰り返し、この世界の調味料について識りました。
現物があるなら、収納物鑑定で詳細が知れるのも、とても助かりました。
多くの地球産香辛料をこの世界の香辛料で代用して再現することにも成功しましたし、その中には味噌、醤油、味醂すらあります。
ですが……日本独自の調味料って、お米がないと出番が半減するんですよね。
いえ、なんでもありません。
無い物ねだりをしても始まりませんものね。
今日、わたしはそれらすべてを傾けて調理しました。
それはもう刻が見えそうなほどの開放感でした。
そしてラヌー鳥の実食は感涙にむせぶ代物でした。
美味しゅうございました。
ああ、言葉づかいがおかしくなっています。
残りを朝ご飯用にと思っていましたが、なにも残りませんでした。
朝はなにか別に作らないと。
一緒に本日のお昼用の「ラヌー鳥照り焼きバーガー」を、作っておいて正解でした。
†
探索二日目の開まりです。
昨日わたしは、ハンナさんリディアさんとご一緒しましたが、リディアさんがハンナさんに自己身体強化を教えた所、ハンナさんがこれを習得しました。
おめでとうございます。
元から視覚強化が使えていたハンナさんですから覚えやすかったのだろう、とリディアさんが仰しゃっていました。
ただ【体力継続回復】は継承されなかったようで、全力の強化が必要なときは、リディアさんに【体力継続回復】をかけてもらう事で、すぐ話がまとまりました。
このあたりの遣り取りは馴れたもので、付き合いの長さを感じさせます。
わたしも教えてもらいましたが、どうやらわたしは身体強化精霊術を覚える以前から身体強化魔術を習得していたようで、継承の前に身体強化魔術が使えないことを確認しようとしたところで、じつは使えるということが判明してしまいました。
つまり身体強化精霊術を使えるようになる前は、自前の膂力と身体強化魔術で両手剣を振っていた。ということらしいです。
ただ身体強化魔術だけを使うと、風の精霊さんが寂しそうなので、わたしの場合は身体強化精霊術を主体にして、もう一段階強化を積み増す必要があるときにだけ身体強化魔術を使うことにしました。
そう、身体強化は魔術と精霊術の重ね掛けが可能でした。
すごいです身体強化術。
それに身体強化魔術は、剣の技量を向上させてくれませんから、へたっぴいなわたしはまだ精霊さんが頼りなのです。
ハンナさんには継承されなかった【体力継続回復】は、わたしの場合水属性の精霊術や魔術で使えます。
精霊術と魔術の違いは、とりあえず精霊さんにしてもらうか自前の魔力を使ってするかの違いで、術を発動させるための手順は違いますが、効果に違いはないと思い定めています。
一方でリディアさんの支援魔術は光属性だそうですから、同じ効果の魔術を二人別々の属性で使っていることになります。
これはどういうことなのでしょうか?
よく分かりません。
わたしも熟練すれば、【回復】や【加速】、【気力継続回復】なんかが使えるようになるのでしょうか?
よく分かりません。
そして今日はシルィーさんとご一緒です。
昨日から暇があるごとに、お気に入りとなったブーメランで遊んでいるシルィーさんですが、じつは今日、是非とも覚えたい術があります。
そう、【風の探知】です。
お返しも考えています。
それはさておき、出発です。
ハンナさんはリディアさんと達弥さんを伴って、昨日のハンナさんより百メートル東へずれた場所から森へ突入します。
わたしは、昨日より百メートル東寄りに陣取ったシルィーさんと一緒に森へ入ります。
昨日わたしとハンナさんたちが森に入った場所から見ると、五百メートル東にずれた場所からの突入という事になります。
これで、ハンナさんとシルィーさんが昨日と同じ調子で行動すれば、昨日南北に通った場所と重なることなく探索ができるという訳です。
この森は豊かで、魔獣もいますがそれ以上に普通の獣が多くいます。
草原の近くでは主に野兎と角ウサギが二対一の割合でいました。
昨日のラヌー鳥は別ですが、人を見ると逃げる普通の獣は放置して、魔獣を優先して狩っていきます。
植物の採取もします。
草原では見ることのなかった鳥の魔獣もいましたが、シルィーさんのブーメランの敵ではありませんでした。
たしかブーメランって円い軌道で飛ぶものだったと思ったのですが、シルィーさんのブーメランは獲物に擦り寄っていきます。
風の精霊が寄って集ってブーメランの軌道を変えているのが感じられます。
たしかに風精霊の様子がたいそう楽しそうなので、休憩のときに見せてもらいました。ブーメラン。
そして、わたしもやってみることにしました。
────ブーメラン。
〈西の森探索行程〉
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