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わたし達、冒険者始めます  作者: 遠ノ守
第三章 遭難しましょう?
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2 地力向上計画    中編   


 そして二回目の“ダンジョン・ヤグト”第三層へ入る。

 ここまでは前回も到達した、いちおう既知の領域だ

 余裕があるのは分かっているし、不意のトラブルに見舞われたとしても、対処は出来るだろう。

 ここからなら、たとえ分断されたとしても、一人で出入り口までたどり着けそうだ。

 ………リディアがちょっと心配かもしれない。


 そんな風に、パーティーの泣きどころ(ウィークポイント)を洗い出しながら、俺たちは狩りを続けていった(汗)。


 余計なことをしながらの狩りだったので、さすがに狩りの効率は前回よりも低下して、魔石の買取り価格は合計で、大銀貨四百枚程度に留まった。

 想定内、想定内。


 翌日はギルドの訓練場で軽く体を動かし、あとはゆっくりと明日からの準備に費やす。

 そう、「地力向上計画」の第三段階は泊まりがけでピクニック(魔獣狩り付き)なのだ!



    †



 ギルドの訓練場でリディアの様子を見ていると、最初の柔軟体操のあと、各々(おのおの)が剣や弓の練習を始めるころになると、日陰にはいって本を読んだりすることが多い。

 リディアの立ち位置はゲームで言うところのヒーラー兼バファーなので、知識を蓄え味方を強化し敵を弱体化して怪我の回復をするのが役割、だからそれ自体は否定するようなことではない。

 だがハンナに聞くと、リディアの体力は、故郷の村にいた頃にくらべて下がっているという。


 起伏に富んだ山間やまあいでの日常生活は、そこで活動しているだけでそれなりに体力がつちかわれていたのだろうが、今は安全な街中で、宿屋暮らしの上げ膳据え膳。“白き朝露”がEランク冒険者として活動していたバルニエ大草原は、起伏のない真っ平らな土地で、他の二人は一番足の遅いリディアに合わせて移動していたそうだ。


 ちょくちょく先行偵察などしていたハンナの運動量は問題なし。

 完全にリディアに合わせて行動していたシルィーはというと、各自任意の訓練時間になるとひたすらジョギングをしている。

 速度はゆっくりだが、ひたすら走る。疲れると、止まることなくスタスタと歩き続ける。

 剣や弓の所作しょさは美しく、技量も高くて、動く速度は大したことないが、体力というか持久力スタミナは意外なほどあるのだった。


 ここまで言えば分かっただろう。「地力向上計画」目標の三段目。

 第一段は、誰かが出来て、できない人が居る技能の(なるべく楽な)継承(継続事案)。

 第二段は、妙に楽な“継承”が起こる原因の特定。

 そして第三段が、リディアの持久力スタミナ増強である。


 もちろん俺たちのやることだ。

 スパルタなんてとんでもない。

 成果だって「上がった方がいいな」くらいのものである。

 だがここは、精霊がみ魔術がある世界「ウィア」だ。形而下フィジカルな地球とは違った方法アプローチがいろいろとれそうじゃないか。


 パーティーの生存確率を上げるために、出来ることをしっかりとやろう!



    †



「いい天気だなあ」

「お出かけ日和ですね」


 俺の呟きに、月那の台詞がニッコリマーク付きで返ってきた。


「ひさしぶりの街の外だからね。気分が盛り上がるよね」


 ハンナがことのほか嬉しそうだ。


「わたしはとくに…」


 リディアは嬉しくはないが、嫌と言うほどでもないという程度の様子かな。


「うふふふっ…」


 どうやらシルィーは嬉しいらしい。

 なにしろ行く先が森だからね。

 故郷の森ではないといえ、何ヶ月かぶりの森らしいから。


 これから行くのは、タルサ市から見て北にある「西の森」という名の森だ。

「西の森」の名前の由来は、王都から見て西にあるからだとか。

 ありがちな話だね。東海とか西海さいかいとか南海とか北陸とか。


 俺と月那がこの「ウィアの世界」へ来て、最初に目を覚ましたバルニエ大草原の端っこから、すこし東へ行くと北にある「西の森」へ通じている。

 それより西では高台へ昇ることになり、その先は断層崖だんそうがいで通れない。

 断崖だんがい絶壁というやつだ。

 そのまま視線を西へ向けていくと、次第に高度を上げていく高台の木々が唐突に途切れ、“ダンジョン・ヤグト”の裏山にあたる「魔の山」が視界を占める。


 富山県の富山市街から見える立山連峰が、北海道の昭和新山のようなごつごつした煉瓦れんが質で出来ていると言えば想像できるだろうか?

 あまりにけわしくあまりに見通しが良いため誰も登れない。傾斜が急峻な上に手掛かりがひどくもろいので、手足を乗せている岩が崩れたら、ふもとまで数百メートル一直線に滑落することになる。

 そういや「魔の山」のおかげで、夏場の日暮れが早いと、地元の人に愚痴られたことがあったな。

 ゲームのときここは不可侵領域だったので、この場所について俺も詳しいことは知らない。


 まあそれはいい。

 今は「西の森」だ。

 こちら側から入った森の浅い領域は、“ダンジョン・ヤグト”に換算すると第二層から第四層。少し奥なら第五層から第八層相当の魔獣が生息しているらしい。

 その先には川が流れ、川を渡ったさらに深い領域は第九層以上。上は西の森を踏破した者が居ないために、魔獣の強さの上限が不明という広大な森だ。

 ドイツの黒の森(シュヴァルツヴァルト)みたいだな。いや、そのまま森ダンジョンと呼んだ方がいいのか。

 俺たちはその「西の森」の南で合宿をしようという心積もりをしていた。




 いつもダンジョンへ出かける朝1鐘に、いつもとは反対の東門から出る。

 開門の時間に東門こちら側へ来るのは初めてだが、徒歩で旅立つ人たちで賑わっていた。

 騎乗で出かける人々は北門から出るのでここにはいない。

 数台の乗合獣車だけは東門から出発するので、それらは車両専用の門に集まっている。

 獣車を引いている四足の蜥蜴とかげらしきものがしきりにこちらの方を気にしているようなんだが、何かあるのだろうか?


 やがて時間が来て開門すると、人々が冒険者証に似たギルドプレートを箱にかざしては次々と旅立っていく。


 色も形も様々だし、腕輪ブレスレットのようにしている人も居れば、懐中時計のように服からチェーンで繋いでいる人もいる。

 だが程度の差こそあれ、殆ど全員が剣や槍で武装しているのが新鮮だ。

 これがこちらの標準スタンダードなのだと改めて思い知らされる。


 たまに()入市証を出している人が居て懐かしさを覚えたりしていると、前方から「ピー」というブザー音が聞こえた。何事? と思って見ると、何処かのギルド証を持った人が隅の区画ブースへ移動して、衛兵と何やら話をしていた。

 そうこうしているうちに自分の順番が回ってきて、冒険者証を手に持ったまま身上鑑定器ステータスチェッカーに手をかざすと、問題なく出立許可が出た。

 担当した衛兵氏に先ほどのブザーのことを聞いてみると、ギルド証などに登録された情報と、その場で読み取った本人情報に食い違いがあるときに鳴るそうで、食い違いが認められた場合は改めて上位の身上鑑定器ステータスチェッカーで読み取りし直すのだそうだ。

 なるほどね。


 冒険者ギルドで預貯金ができると聞いたときには、何かしらのオンライン接続がされているのかと思い、「異世界技術(テクノロジー)あなどがたし」と驚いたものだが、少なくとも市壁門レベルでは独立仕様スタンドアローンでエラーチェックしかしてない様子が見られて、ちょっぴり安心したのは内緒だ。


 そして五人全員が出立審査を終え、「西の森(浅域)」に向かって出発した。



    †



 物見櫓ものみやぐらのある丘を回り込んだら街道を外れ、最初の目的地はゴブリンが大量発生していたあの(●●)岩場だ。


 ここバルニエ大草原で、最初に目覚めた草原と高台の境界点は、地図作成マッピングスキルによる踏破とうは済み領域表示で分かるので、そちらへ直行すればいいんだが、“白き朝露”の三人から「ゴブリンの大量討伐をした現地を見たい」という要望リクエストがあって寄り道をすることになった。

 なんであんなところをわざわざ。とは思ったが、ハンナが興味があるとのこと。

 験担げんかつぎと言われればそれ以上言うことはないし、そもそもの行程の途中にあるのだから、わざわざ断る理由がない。

 そんな訳で、俺と月那るなの始まりの地へ向かって、草原を歩き出すのだった。



 リディアの持久力強化作戦が歩行開始と共に始まった。

 まずは現代日本でならなんて事のない、有酸素運動領域での行進を続けることだ。

 普段と異なり、先頭を月那るなが、最後尾を俺が務める。

 月那にリディアの呼吸・心拍・血圧を感知センシングしてもらいながら、リディアに対して適度な負荷をかけつつ、無理にならない範囲に進行速度を調整してもらうためだ。

 上限は、シルィーのジョギング程度までと決めている。


 月那るなは先週の“轟雷”との三連戦と、俺との立ち合いを通じて、身体強化精霊術を会得えとくしたわけだが、その一環として、風の精霊術で呼吸を、水の精霊術で血流やリンパ流を把握し、過負荷をやわらげる能力も手に入れていた。

「体の中を流れる水が感じられて、体を動かすのがとっても楽で思い通りにできました」と言っていたアレだ。

 その力で他人の呼吸や心拍を感知できる? と尋ねた所、その場でやってみて出来た。

 場合によっては面倒を呼びそうな力だが、幸い能力は自分で調整可能なようだし、今回はこれを使わせてもらうことにした。


 スポーツトレーナー月那るなの誕生である。




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