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わたし達、冒険者始めます  作者: 遠ノ守
第二章 冒険者パーティー始めました
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19 月那 vs 達弥   sideルーシー


「きゃあっ!」


 隣にいるラピスが突然悲鳴を上げ、耳を押さえてカウンターした。

 なにごと!?


 私は何も感じなかったけど、この娘は魔力の伝搬を音として感じ取る特殊技能スペシャルスキルの持ち主だ。

 私には分からない、なにかの異常を感じ取った可能性は高い。


「ルーシー先輩! 訓練場の方から魔力爆発の音です!」


 やっぱりーっ!


 ラピスと一緒に屋内訓練場へ出てみたが、そこに“異常”は見られない。

 またりと白き朝露が訓練しているのは、この奥にある射術訓練場だ。


 ───コンコンコンコンコン


「“またり”さん“白き朝露”さん、ルーシーよ。ちょっと開けてもらってもいいかしら」

「はーい、いま開けるよー」


 “白き朝露あさつゆ”の代表リーダーで、昼前に天井にさった模擬剣を弓で射落としたハンナさんからいらえがあり、じき扉が開けられた。


「ひい、ふう、みい、よう、五人(そろ)ってるわね…ふう」

「どうしたの? ルーシー」


 回復術士のリディアがそうたずねてくる。


「リディアは知ってるわね。この子、ラピスって言ううちの職員なんだけど、この子が大きな爆発音が聞こえたって言うから、様子を見に来たのよ」

「大きな音? そんなの聞いてないわよ」

「正しくは音じゃないです。魔力が爆散ばくさんした音が聞こえてきたんです。特大の火の玉(ファイヤーボール)が爆発したくらいの大きな音でした」

「ラピスは魔力の動きを音として感じ取るのよ。なにか心当たりはない?」


 入口近くにいたリディア、ハンナさん、それにルナさんはそろって、奥からこちらを見ているタツヤさんとシルィーさんの方を見た。

 背中にシルィーさんをくっつけたまま動こうとしないタツヤさんを見て、ちょっとムッとするものを感じながらそちらへ向かう。


「五体満足、元気そうでなによりね。それで何があったの?」

「なにって、昼前に話したとおり、俺と月那るなの魔術適性(てきせい)をみていましたよ」

爆発ばくはつは?」


 その質問に答えてくれたのは、タツヤさんの背中にいた、森精族エルフのシルィーさんだったのだけど、そんな所にくっついて何してるのよ。

 見るからに()よ。


「それは、たぶん、タツヤ、が、魔術、を、打ち、出した、残り、滓」


 やっぱりここか!

 残りかす


「そこをもう少し詳しくお願いできるかしら」




「結局、タツヤさんが魔術射出(しゃしゅつ)の手前までできるようになって、められるだけ溜めた魔力で何でもいいから打ち出そうとしたと。それで何か打ち出せたの?」

「ええ、何か出した感触はあったんですが、それが何なのかよく分からなくて、確認のためにまとを見に行くところだったんですよ」

「そう。それじゃ的を見に行きましょうか。それでシルィーさん、あなたなんでタツヤさんにくっついているのかしら?」

せい調ちょう


 シルィーさんがボソリと答えてくれたけど、帰ってきたのは聞きおぼえのない単語だった。


整調せいちょうって、体内魔力を外から調整して、その人に適正な色合いに合わせるという技術のことですか? 聞いたことはありましたけど、見るのは初めてです」

「それ、は、調ちょうりつ。ボクの、してた、のは、強化、点の、ズレや、肉体と、魔力、径路の、調和、を、整え、る、さい調ちょう。初めて、なのに、あつかった、魔力、量が、多かった、から、念の、ため、ね」


 ラピスは知っていたのか、興奮した様子で話していたけど、少し違ったらしい。

 それにしてもタツヤさん、そんな特別な処置が要るほど危ない状況だったの?


「タツヤさんが込めた魔力の量って、そんなに多かったの?」

「特大火の玉(ファイヤーボール)クラスの魔力音でしたからね。初めてでそれは多いですよ」


 ラピスが興奮したまま答を返してくる。


「あれ、は、タツヤ、が、努力、した、成果。もともと、込め、た、魔力、は、あの、三倍、以上。チキン、な、タツヤ、は、身体、強化や、弱体化、を、駆使、して、用意、した、魔力、を、半分、以上、消費、した」


 なにそれ。

 無駄に消耗させた魔力の残りかすで、特大火の玉(ファイヤーボール)クラスだったってこと!?


「三倍以上って、どれだけの魔力を込めたのよ?」

「“テンペスト”、が、使える、くら、い、だったね」


 天候改変ウェザーコンバートなんて属性魔術の上級じゃないの!


「ちょっと! 制御コントロールしくじっ(ファンブルし)組合ギルドを吹き飛ばさないでよ」

「だい、じょうぶ。その、ために、ボク、が、いる。ここ、まで、魔力、量が、増えた、のは、想定、外、だった、けど」

「それ、大丈夫って言えるんでしょうか…」


 まったくよ。

 というか、ルナさんの魔術剣疑惑に続いてタツヤさんもなの!?

 タツヤさんって前衛盾戦士(シールダー)じゃなかったの?!

 何なんだろう、この二人。

 “流され人”ってみんなこう(●●)なのかしら?!


「それで、タツヤさんにはまだ問題があって、シルィーさんがってるっていう事?」

「タツヤ、に、問題、は、ない。初めて、体験、する、魔力の、香り、なの、で、めずら、しくて、堪能たんのう、して、いる」


 この森精族エルフがとっても残念ポンコツだった件……。




 結局けっきょく、射出したと言う魔術の痕跡こんせきは見つけられないまま、今日のくくりとして、ルナさんとタツヤさんで、対戦をすることになったらしい。

 “白き朝露”の三人が、すごく期待した様子を見せている。

 そんなに?

「このさいなので私たちにも見学させてもらえない?」と頼んでみると、構わないということなので、ラピス共々(ともども)見せてもらうことになった。


「いいんですか? こんな所で油を売っていて」

「まだ買い取りでむ時間じゃないから大丈夫だいじょうぶよ。それにせっかく様子を見に席を立ったんだから、ここにいた方が報告書のネタひろえそうじゃない? せっかくだし昼前の再現でもしてもらえたら、すごく助かるわ」


 タツヤさんったら、やれやれと言わんばかりの身振り(ジェスチャー)で、対戦場所へとあゆっていった。

 まっ、失礼しちゃう。


 月那るなさんが、両手剣を(まる)を横にならべた形に一振ひとふりして、正面に構えた。

 あら、上手うまいわね。

 タツヤさんも盾を前に出すと、対戦が始まる。


 ルナさんが積極的にめている。

 何よこれは。

 ほんの四日前につたな剣捌けんさばきで、なのにCランクのルクスに勝ってしまったあのときと違う。

 今ならルクスに勝っても不思議はない。と思える剣(さば)きを見せている。

 受験者に怪我をさせないよう加減していたDランク昇級試験の時とは違い、実戦経験で圧倒的にまさるルクスが、本番でそうそう遅れを取ることはないはずだけど、それでもきっかけ一つでルナさんの勝ちに転んで不思議ふしぎじゃないくらいの力量を見せていた。


 ラピスも一言もしゃべらず、食い入るように立ち合いを見ている。

 彼女には何が聞こえて(●●●●)いるのだろう。

 私には何も聞こえないけど、不思議なプレッシャーは感じる気がする。


「三戦目を再現してる…」


 リディアがそうつぶやいた。

 そうか、本当に“魔術剣”を発動させたという立ち合いの再現をしてくれてるんだ。

 それにしても、午前中もこの技量レベルで立ち回りしていたのなら、“轟雷”の三人ではルナさんには勝てないだろう。

 いまだに信じがたいのだけど、Eランク冒険者(そうろう)な立ち回りをしていたのは、ほんの四日前のことなのだ。

 なんていう成長速度。

 でも不思議ふしぎなつかしいにおいのする剣筋けんすじ……。



師匠ししょう───)


 思わず口からこぼれそうになった言葉を飲み込む。

 ししょう──?!

 ああそうか、ルナさんが諸刃もろはで真っ直ぐな両手剣を使っていたから気付かなかったけど、斬撃ざんげきを主体にした剣の振り方が師匠と似ているんだ。


 リリア師匠───。

 もう何年も封印ふういんしてきた記憶に触れた感触は、意外なほど甘い香りがしていた。



 私の追憶ついおくとは関係なく、立ち合いは進んでいく。


 うようにりかかるルナさん。

 それを受け、流してはじき反撃するタツヤさん。

 次第しだいに高まっていく圧力プレッシャーに、いきが苦しくなってくる。

 そしてルナさんがたたみかけた。

 決めにかかるつもりだ。


 ルナさんが一際ひときわ強い左袈裟斬(けさぎ)りを放つ。

 タツヤさんが、剣を持つ右手をたてえて、それを受け切る。

 そのまま右手の剣をばしてせまるタツヤさん。

 距離が近すぎて両手剣が振れず、体ごと回転させて片手剣をはじいたルナさん。

 回転して背中を見せたルナさんに、タツヤさんの盾鎚撃シールドバッシュが近づく。

 するとルナさんが盾に押されるように、浮いた!?

 回転したことで体が伸びていたルナさんは、地面を蹴って跳ぶ(ジャンプする)ことができない。

 それなのに、まるで体重などないかのように、盾に押されたルナさんの体が浮かび上がった。


 何か技能スキルを使ったの?


 そのまま回転を続けたルナさんは、回転に落下の勢いも乗せて、盾ごと切り裂く勢いで袈裟懸けさがけにり下ろした。



 パンッ!─────


 両手剣と盾がぶつかる音に重なり、頭の中にも衝撃がひびいた。

 耳でく音とはちがう“音”。

 ラピスが普段()いているのは、こんな感じなのかしら……。


 タツヤさんの盾は切り裂かれていた。

 ルナさんの“魔術剣”は確かに発動したらしい。

 でもルナさんの両手剣は、切り裂かれた筈の盾に止められていた!

 タツヤさんのほう技能スキルが発動したという事?

 “遮断インターセプト”の技能スキル!?


 立ち合いは、ルナさんの剣を止めたタツヤさんが、自分の剣をルナさんの首筋くびすじに持って行って、結着けっちゃくした。



 本当にこれが“め”だったようで、五人は訓練を終えて宿へ帰っていった。

 私とラピスは訓練場を閉め、本館へと戻りながら考える。




 これ、どうやって報告書にしよう────。




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