18 事情聴取 sideルーシー
お昼が近づいた頃、訓練場の方から歓声やら拍手やらが聞こえてきた。
「………、なんだか賑やかね」
「立ち合いで、Dランクパーティーの“轟雷”を三人抜きしそうな、両手剣の女の人がいるみたいですよ」
隣で受付けをしている、ラピスがそう教えてくれた。
新人の彼女は兎族で、とても耳が良い。
おまけに特技、つまり特殊技能持ちであるため、私に預けられている。
「立ち合いで三人抜き…?、両手剣の女の子…?」
「はい」
なにか嫌な予感がした。
今日、屋内訓練場では“白き朝露”と“またり”が訓練している筈だ。
いつもおっとりした風のルナさんが、両手剣を抱えてふわふわ微笑んでいる姿が浮かんだけど……、気のせいであって欲しいわね。
「ちょっと様子を見てくるわね」
そう言って屋内訓練場へやって来ると、“轟雷”の両手剣使いが模擬剣でルナさんに斬りかかり、割って入ったタツヤさんが盾で弾き飛ばし、飛ばされた模擬剣が天井の梁に突き刺さった(!?)ところだった。
なんで模擬剣が刺さるのよ!
木造の建物とはいえ、刺さるんじゃ模擬剣の意味無いじゃない!?
この出来事によって、周囲の喧噪は一段と大きくなった。
あれどうやって取るんだろう?
梁に突き刺さった両手剣を見上げながらそう思う。
いえ、私の技能を使えば取れるんだけど、今は騒ぎがさらに大きくなりそうでちょっと、スカートだしね…。
人気がなくなってから私が取るかと思っていると、“白き朝露”代表のハンナさんが、それを弓で狙いだした。
刺さった模擬剣を弓で射落とそうとしているらしい。
先端に柔らかい鏃が付いた模擬戦用の矢なので、この矢まで刺さって取れないものが増える! なんて心配はないけど…ないわよね? 打ち上げで天井に刺さった剣を射落とすのは難しいんじゃないかな? などと考えながら見ている。
びゅん、と音をたてて飛んだ模擬矢は、刺さった両手模擬剣の柄へ見事当たって、剣を動かした。
上手いわねぇ。
今でも一流と言える腕だから、もう少し体が出来てくれば、射手として超一流になりそうだ。
それはともかくとして、この騒ぎの顛末を聞かせてもらいましょうか。
「つまり轟雷の三人がルナさんの訓練に付き合ってくれて、ルナさんが三人抜きした上、めでたく両手剣の使い方を憶え、そのうえ魔術剣に開眼した挙げ句に、鉄の盾を切り裂いた。と、こういう話ですか?」
冒険者になって一週間もたたない人が“風の魔術剣”を使えるようになったですって!?
冒険者登録した日が初の実戦と言っていたけど、剣の稽古はずっと続けていたとかかしら……?
違うわね、Dランク昇級試験のときの立ち回りは、速かったけど明らかに素人の拙さだった。それこそ立ち回りは、なり立てのEランク冒険者相応だったと思う。
それでもルクスに勝っちゃったのよね。
まったくなんの冗談よ!?
魔術剣についてはシルィーさんがいるから、教えてもらった可能性はあるけど、それにしても三日やそこらで覚えられるものじゃないはず。
これでタツヤさん共々レベル7なのよね。
タツヤさんもノルドに勝っているし、レベルが目安になってない!
レベル=強さとは限らないけど、目安として有効なのは長い歴史が証明している。
……その筈なのだけど、よく分からなくなってきたわ……。
ああ、分からないっ!
「さすがルーシーさん。見事な状況把握ですね」
「おだてても何も出ないわよ」
そう言って、タツヤさんに据わった視線を向けると、
「いやいや本心ですよ。それで壊した盾を弁済するつもりなんですが、鉄の盾ってどれくらいが相場なんでしょうか。……」
と返してきた。
「達弥さん、それはわたしが壊したのでわたしが出しますよ」
「いや、“またり”としての訓練中に起きた事だしね。今回はパーティー口座から出そう」
こちらはこちらで、言い分が至極真っ当だ。
高ランクパーティーか優良派閥の代表みたいな鷹揚さなのよね。
育ちがいいのかしら?
「そんな事言ってると、ぼられるわよ」
「よくあるんですか?」
「たまに話は聞くわね。“轟雷”は悪質な方じゃないと思うけど。それで相場だけど、ふつうの鉄の盾なら金貨2枚から5枚といったところね。だけどあそこのは鉄芯が入った特注品だから、金貨4枚から9枚くらいってことになるんじゃないかしら」
「鉄芯が伸びて杭になってましたからね。でもまあそれならあの盾が二~三枚買える金額が共有口座にあるわけですから、問題なさそうですね」
「そんなに鷹揚な事を言ってると、いつか根刮ぎ毟り取られちゃうわよ」
「心配してくれるんですか、ルーシーさん! それではそんなルーシーさんに耳寄りな情報を」
「なっ!」
「いま話していた損耗品の弁済でのぼったくりを防ぐ方法なんですが……」
「ちょっ!」
タツヤさんが言ってきたのは、簡単に言えば“売られている武具防具を目録化して、その情報を共有する”ということだった。
よほど大きな工房でなければ、武具の製作はしても販売は商会経由になる。
そこに集まる武具防具の“種別”“装備レベル”“素材”“出来”“製作者”“値付け”を一覧にまとめて、店舗や資料室で閲覧できるようにしておく。
そしてそれらを“価格帯”という、いくつかの枠にまとめる。
粗悪な品に高い“値付け”をすれば客が離れるし、良品に安過ぎる“値付け”をすれば、買い手が集中して販売数が稼げる代わりに、生産が間に合わなくなったり材料が不足して、品薄でけっきょく売値が上がる。
結果、性能に見合った程好い価格に落ち着いていく。
つまり、“価格帯”の適度な位置づけに収まるということだ。
材料価格の割合が高い“木製武器”から、“銅”“青銅”“鉄”“鋼”と、製作難度が上がるとともに威力も大きくなる武装を、いくつかの範疇にまとめ、使用者の“レベル”と対応させておけば、“冒険者ランク相応の武具防具”というものが分かるようになる。
これは大きい。
何が大きと言って、若手の冒険者が普通の武器の特徴や相場が分かるようになる事が大きい。
目端の利く子なら、同じ価格帯の中からなるべく良いものを選ぶだろう。
目の利かない子でも、同じ価格帯の中から選べば大きな外れはない。
そして冒険者ランクが上ったときの、買い換え計画が立て易くなる。
一方、優秀な工房が栄える反面、外れ品を多く出す工房は評判を下げて、値段も下がる。
淘汰されていくわけだ。
評価に過剰反応しない(させない)よう気をつける必要はあるけど、世に出回る製品を一つひとつ全て自分の目で見て判断するわけにいかない以上、この方法がもつ利点は大きい。
私の片刃剣の場合、素材は鉄/鋼混成のBランク区分だけど、製作難度がやたらと高くて、この辺りでは作れる人も直せる人もいないため、希少性でAランクに分けられるそうだ。
前に技能持ちに“鑑定”してもらったところ、そんな結果が出た。
このときの“鑑定”は、所有者登録のために行なった。
精霊銀や金剛などのさらに希少な素材を用いた武具の場合は、“鑑定”をしておくのが一般的だからだ。
一度鑑定をかけておけば、そこここにある“身上鑑定器”で鑑定内容を見られるし、所有者履歴も残せるようになる。
タツヤさんの提案は、その鑑定で得られる格付けを、個々の品ではなく“価格帯”という枠にまとめてしまおうというもので、中級以下の量産品であれば、似たような事はそれぞれの工房でやっているため、実現性は高いだろう。
その上で、まだ揉め事が起こるようなら、どこかの組合が立ち合いで、個別に“鑑定”を依頼すればいい。
技能による“鑑定”に支払われる報酬は、“鋼”の武器が買えるほど高額なので、鑑定によって詐称が明らかになったときは、それも科料に上乗せする仕組みにしておけば、犯罪の抑止力にもなりそうだ。
効果はありそうだし、既にある“鑑定”を骨組にできるから分かりやすいのだけど、この方法って巻き込む範囲が広いほど効果が上がるんじゃないの?
タルサ市だけより王都圏全体、王都圏だけより国中、一国よりも多国間で………。
「また忙しくなる!」




