11 事情聴取
月那の魔術剣については良く分かっていないが、発動するのは確認できた。
対戦場所(?)から俺たちに割り当てられた区画へ戻るとき、月那に対して盛大な声援や口笛、拍手などが贈られ、恥ずかしがった月那が俺の陰に隠れたものだから今度は俺が野次られたりとか、最初に戦って目を回していた両手剣使いが目を覚まし、寝呆けて近くにあった両手模擬剣で月那に斬りかかり、俺がそれを盾で弾き飛ばしたら模擬剣が天井板に突き刺さって(!)取れなくなったりとか、ハンナがそれを弓で射落としてまた喝采を浴びたりとか、騒ぎを聞きつけたルーシーさんがやってきて、事情聴取中なう。
「つまり轟雷の三人がルナさんの訓練に付き合ってくれて、ルナさんが三人抜きした上、めでたく両手剣の使い方を憶え、そのうえ魔術剣に開眼した挙げ句に、鉄の盾を切り裂いた。と、こういう話しですか?」
「流石ルーシーさん。見事な状況把握ですね」
「おだてても何も出ないわよ」
ルーシーさんがジト目でそう言う。
「いやいや本心ですよ。それで壊した盾を弁済するつもりなんですが、鉄の盾ってどれくらいが相場なんでしょうか。ご存じの通りこのあたりの相場には疎いもので」
「達弥さん、それわたしが壊したのでわたしが出しますよ」
ルーシーさんへの説明が終わりにかかったころ、月那が責任を感じているのか、そんな風に口を挟んできた。
「いや、“またり”としての訓練中に起きた事だしね。今回はパーティー共有口座から出そう」
Dランクに成りたてとCランク昇級間近の差はあっても、同じDランク冒険者だ。まったく手が出ない値段という事はないだろう。
予想外に高価だったときは、収納内のお金に手を付けてもいいだろうけど、たぶんそんな事にはならない気がする。
「そんな事言ってると、ぼられるわよ」とルーシーさん。
月那にそう返答をすると、こんどはルーシーさんが口を挟んできた。
「よくあるんですか?」
「たまに話は聞くわね。“轟雷”は悪質な方じゃないと思うけど。
それで相場だけど、ふつうの鉄の盾なら金貨2枚から5枚といった所ね。だけどあそこのは鉄芯が入った特注品だから、金貨4枚から9枚くらいってことになるんじゃないかしら」
「鉄芯が伸びて杭になってましたからね。でもまあそれならあの盾が二~三枚買える金額が共有口座にあるわけですから、問題なさそうですかね」
「そんなに鷹揚な事を言ってると、いつか根刮ぎ毟り取られちゃうわよ」
「心配してくれるんですか、ルーシーさん! それではそんなルーシーさんに耳寄りな情報を」
「なっ!」
「いま話していた損耗品の弁済でのぼったくりを防ぐ方法なんですが……」
「ちょっ!」
「この場合同業者の範囲とその外側……内側にいる小集団が……今ある商業ギルドや鍛冶ギルドなどとの繋がりを利用強化して…………どちらかと言えば直接の利益よりも各ギルドや工房の信用を向上させ……新人イジメや強請り集りの防止にも……こうすればギルドの持ち出しも発生しませんし………」
「また忙しくなる!」
「………そう言えばルーシーってタツヤの好みよね」
リディアが横でそんなことを呟いている。
まあ否定はしない。
「あたし、いまの話ぜんぜん分かんなかったよ」
ハンナはまじめに聞いていたようだ。理解はできなかったようだが。
「山の樹も獣も、狩り尽くしてしまったら以降はもう穫れなってしまいます。そんな事にならないように、目先の利益に目を眩まされて数を減らさないよう考えながら上手に獲っていきましょう。密猟は許すまじっていう話しですよ」
「ああ、それなら分かる」
「ちょっと窮屈そうだけどね」とリディア。
「放埒を続けて、見えないところで抜き差しならなくなる前に、密猟品で利益を出せない環境を作って、ちゃんと考えている人を取りこぼさない約束事をつくる訳ですね。目を瞑っても目の前の断崖が消えて無くなるわけじゃありませんから」
月那の注釈が入り。
「エルフは、ずっと、昔、から、そんな、感じで、やってる、ね」
「なるほど。それじゃあ差しずめエルフィン・ディベロップメント・ゴールズか。
ADGsだな」
「えー、でぃー、じーず?」
「“エルフの如き成長目標群”ってところかな」
そう言えばファンタジーのエルフってそんな感じだしな。この世界のエルフもそんならしい。
「騒ぎについてはそんな所ですね。
それでルーシーさん、この後も訓練を続けたいんですけど、このまま訓練場へ戻ると騒ぎが再燃しそうなのが心配なのと、今日は俺と月那の魔術に対する適性を見ようと考えているんで、可能なら魔術が撃てる訓練場所に心当たりはないですかね?」
今日だけで一気にそこまで進めるつもりはなかったが、今後の事もあるしいい機会なので、そんなことを尋ねてみた。
「………あるわよ…。
弓術や魔術用に、的のある射術場が。屋外だけど塀はあるわ。使う?」
「はい、お願いできるなら」
まだ少しジットリした目をしつつも、再起動した様子のルーシーさんが調べてみると。
「空いているわ。
まあ術師の冒険者なんてほとんど居ないから、たまに弓の子が練習するだけで、たいてい空いてるんだけどね」
台帳を調べたルーシーさんがそう言ってきた。
「術士ってそんなに少ないんですか?」と、これは月那。
「少ないわよ。整理箱の所持者が百人に一人、収納なら千人に一人。術士の適合者が収納と同じくらい。それが地水風火の四属性とそれ以外の五つに分かれるからね。
そもそも術士の訓練施設が、国か領地で運営するものしかなくて、適性ありって認められたらそこへ放り込んで、卒業したところを術士団に囲い込んじゃうから、冒険者やってる術士ってほんとうに少ないのよ」
そりゃあ確かに少なそうだ。
「整理箱や収納の囲い込みはないんですか?」
「あるけど必要最小限ね。整理箱と収納は市中に出しておいた方が、国や領地の経営が発展するというのが定説だから」
なる程、確かにね。
そんな脱線を挟みながら、事情聴取を終えた
「エルフ」の綴りのお話
現代では英語で elf という表記が一般的ですが、エルフ発祥の地、ゲルマン語圏では alf となることが多くあり、alfer 、elfen 、alver など、地域と時代でいろいろな形に変化をしています。
作品で「アールヴ」という呼び方を見かけることがありますが、これは古ノルド(北欧)語で、エルフについて最初期の記述がこの呼び方でされているようです。
うん、泥沼だ(笑)




