10 片手剣
最後は片手剣に盾持ち、俺と同じ形だ。
ただし今日は昇級試験の時とちがって自前の、銅板で強化した円盾(レベル7装備)を用意している。
三人目も同様で、剣は模擬戦闘用の鉄芯入り木製剣だが、盾は自前と思われる鉄の五角盾を装備していた。
壁盾寄りの大盾か、手足を縮めれば体がほとんど隠れそうな大きさだ。
二人が開始位置に着く。
試合開始だ。
あれ? 試合?
月那が両手剣をくるっと回転させ、その勢いを乗せて斬りかかる。
もう“動の構え”を応用している。ゲームのときにも思ったが、ほんとうに適応の早い子だな。
力強い斬撃だが、相手は盾でいなす。
反対側から同じ一撃を打ち込む。
同じように盾で外へ弾かれる。
それが何度か繰り返される。
そろそろ来そうだな。
月那の一撃が、盾でひときわ大きく弾かれる。
次の瞬間、弾かれたのとは逆の方向から片手剣が迫る。
月那が剣を引き戻して迎撃する。
月那の両手剣が、弾いた相手の片手剣側へ流れたところに、後ろ側から盾が迫る。
手打ちの盾槌撃だが、当たれば当然ながら体勢が崩される。
月那は盾の攻撃を避けてサイドステップで距離を取った。
片手剣は、中型以上の魔獣に痛手を与えるには役者不足だが、対人戦闘であればお釣りが出る威力がある。その上、取り回しが速くて小回りがきく。
盾を使った防御力は、両手武器の攻撃や魔獣の突進すら阻むの強さなのは言うまでもない。
そして俺もちょくちょくやるのだが、盾は打撃武器として使えば単なる防御装備ではなくなる。
だからあの左右から繰り出される手数の多さは、片手剣と盾で戦う場合の大きな利点となる。
一方の両手剣は、長さと重さで叩きつける威力と、攻撃を届かせるリーチの長さで片手剣よりも有利だ。
リーチが長ければ、同じ角度を振ればとうぜん片手剣より剣先の線速度が上がるわけで、相手に与える威力は比例して高くなる。
魔獣相手の話で言えば、片手剣だと中型以上の魔獣を相手にすると決定力を欠くようになり、大型魔獣ともなればもう片手剣の出る幕はない。
片手で扱える剣の長さと重さでは、相手の防御を抜いて攻撃を届かせられなくなる。毛皮や脂肪層などを貫くだけで剣の有効長を使い切り、威力は使い果たされて本体にダメージを届けられなくなる。
その上その時の攻撃場所は、相手の身動ぎ一つがこちらへの攻撃となる至近の攻撃圏だ。
そんな状況であっても両手剣なら、刃長が長い分より深く刺さり、速い剣先の斬撃を放つことができ、切れない相手に対しても質量と線速度の分だけ強い打撃効果を与えられる。
k=(1/2)mv^2 の有利である。
つまり、この場面で両手剣の月那がするべきことは。
さらなる攻撃である。
より大きな力でというのは勿論なのだが、力を込めれば良いというものじゃ無い。力みはかえって剣速を落とすからだ。
この場合、剣のスイートスポットで相手を攻撃し続けることが重要になってくる。
テニスでも野球でもそうだが、打撃最良点で当てていくと、こちらが受ける衝撃は最小になり、ボールには最大限のエネルギーを与えることになる。
それは斬撃としても打撃としても最大の攻撃力を発揮すると言うことだ。
片手剣では対処できない威力、つまり盾で受けざるを得ない力で攻撃する。
盾の左右の外側から攻撃を与え、片手剣を前に出せないように揺さぶる。
盾で受けた直後、一瞬硬直させられる威力ならなお良い。
さらに片手剣での反撃を許さない速度で、攻撃を続けられれば万全だ。
昨日までのように真っ直ぐ剣を振っていればそんな芸当は無理だっただろう。だが今日、“動の構え”を得て効果的な剣捌きが出来るようになった月那にはそれが可能になっていた。
そして月那の剣は、さらにさらに加速していった。
†
─── 踊る、踊る、踊る。
踊っているのは風?
からだの周りで、剣の周りで
わたしも踊る、風に乗って。
あの人が見ていてくれる。
すぐ後ろから、向こうがわから、右から、左から、頭上から、足下から。
あの娘も見ている。緑の娘と赤の娘。
でもあの人の視線がいちばん心地いい。
声がわたしを導く。
風が声に応えて踊る。
わたしも声に甘えて踊る。
からだがぽかぽかする。
水がからだをめぐる。
風がからだの周りを巡る。
土がからだを支えて守る。
風もからだを支えて踊る。
ああでも楽しい時間ももうすぐおしまい。
せめて最後は飾りましょう。
夏の終わりの花火のように。
†
月那の連撃が始まると、先ほど見えていたキルリアン映像がまた見え始めた。最初の両手剣使いと立ち会っているときに見えたやつだ。
目の錯覚じゃなかったのか?
おまけに纏わり付く光が強くなってきたし、色の種類が増えてきた。
月那が押していく。
盾持ち片手剣男は防戦一方だ。
そんなに重い斬撃なのか? と不思議になる程、着撃の瞬間に盾が揺れている。あれでは盾で捌いて出来た隙に片手剣を差し込むというわけにはいかないだろう。
左手側から来る斬撃には、盾が押されて身体の前まで来てしまい、右肩が後ろへ下がってしまって、剣を出せない。
右手側から来る斬撃は、片手剣で受ければ間違いなく押し負ける。止むなく左の盾を右側まで延ばして受ければ、身体が右を向き右肩が後ろへ下がって剣を出せない。
文字通り防戦一方の状態だ。
盾を左腕一本では支えきれなくなってきたのか、相手の男が剣を持つ右手を盾の支えに使い始めた。
あと一息だ。
月那の右袈裟斬りが盾に当たる。
男の左足が浮いた。
チャンスだ。
ひときわ強い左袈裟が盾に向かって落ちていく。
だがそのとき盾の下端が伸び、浮いた足が地に着くのと同時に接地した。
杭だ!
盾の下端に杭を延ばして接地させ、上下で固定された盾は安定して月那の左袈裟斬りを受けきった。
その盾の陰から片手剣が伸びてくる。
両手剣を無理矢理引き戻した月那は、身体の回転で至近に迫った片手剣を弾き飛ばす。
片手剣が遠くへ飛んでいったのは一安心だが、身体の伸びた月那に盾が迫る。
無防備にさらした右後方からの盾鎚撃が来る。
実戦ならそのまま盾で押し潰し、盾からはみ出た手足や頭を副武装の短剣や短刀で刺す流れだ。
月那の周囲に纏わり付いていた光が一斉に集まって来た。
そして月那は、両手剣を振り切った勢いのまま左へ回転しながら身体を浮かせていた。
まさかの上方へ距離を取られて盾使いの男は口を開けて驚いていたが、立ち直って再度杭を接地させ、盾を構えて備える。
月那が舞い降りてきた。
いや、高さ50センチほどの事なのでそんな表現はおかしいのだが、光が月那の身体と剣に集まって、幻想のように見えた上、時間が間延びしたように感じられたのだ。
降りてきた月那と盾男が交わる
パンッ!───
固く短い音がして、月那の両手剣が盾に半ば以上もぐり込んでいた。
盾の向こう側では、両手剣が胴体の手前で寸止めされていた。
「…おい、盾が割れてないか」
「マジか! あいつの盾って鉄だろ? おまけに芯棒まで入ってるやつ」
「じゃ、相手の剣って魔剣か?」
「バカ。組合の模擬剣だよ。いつも使ってるだろう」
「えっ……じゃああの子が魔術剣つかったってことか!? すげえ!」
周囲からそんな話し声が聞こえてくる。
ふたりは固まったまま動く様子がない。
仕方がないので注意しながら近づいてみる。
二人とも目を開けているので、
「終わりにしますか? それともまだ続けますか?」
と問いかけると、
「あ……ああ、オレの負けだ。参った」
と降参を宣言した。
それを聞いて月那も力を抜き、剣を引く。
うわあ、鉄の盾がスッパリ切れてるよ。
「リディア、治療を頼む」
男はまだ動けなさそうなので、リディアに治癒を頼む。
剣を弾き飛ばされているから、指の骨折くらいはしていそうだ。
「盾におもしろい仕掛けを仕込んでるんですね」
「猪みたいな中型以上の魔獣を止めるためのものだったんだが、あの剣は止められなかったな。
なああんた。あれは魔術剣だったのか?」
「たぶん、そうです。初めて出来ましたから、詳しくは…」と月那が答える。
「そうか……」
「盾の損害はこちらで支払いますので、請求してください」
「いいのか?」
「稽古を手伝ってもらって、損害が出て知らんぷりはないでしょう」
「そうか、稽古か。稽古だったな。助かるよ」
忘れちゃいけない、これは稽古だよ(自戒)。
リディアが治癒術をかけているあいだ、盾使いの男と少し話をしたのだが、月那が「あっ」と言うような顔をしていた。
盾を壊してしまった事を意識してなかったのだろう。
まあ木製の模擬剣は鉄の盾を貫かないからね、ふつう。




