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わたし達、冒険者始めます  作者: 遠ノ守
第二章 冒険者パーティー始めました
33/245

9           両手斧  


 ほぅー……。


 息を止めて見ていた連中が、一斉に息を吐き出した。

 だいぶ観客ギャラリーが増えたな。あまり目立ちたくないんだが。


「オレもアレでやられたんだよな…」


 というつぶやきが聞こえたので声の方を見てみると、“怒濤の山津波”の槍使いの人がいた。Dランク昇級試験のときに月那の相手をした人だ。

 見てたのか。

 黙礼するとこっちへ近づいてきて


「お嬢ちゃん、また強くなってないか?」と言ってきた。


「なんか今ので吹っ切れたみたいですね」

「そうか。まあ頑張れよ」

「はい。ありがとうございま…す?」


 そう言って離れていった。なんだろう?


 月那るなの方へ目を戻すと、目をまわした両手剣使いは他の冒険者に運び出されて、壁にもたせかけられていた。

 まあ直撃があった訳じゃないから休ませておけば大丈夫か。

 ダメージは、ころんで目を回しただけだ。


 月那は胸の前で模擬剣を握り剣先を上へ向け、目をつむってくるくる回しながらなにやら考え込んでいる様子だ。

 次に相手をするつもりだっただろう両手斧使いの男は、待機していた場所からやや立ち会い場所へ寄ったあたりで、口を開けて固まっていた。



「次はどなたでしょうか?」


 月那るなの声が聞こえると、ビクッとして再起動したようすの両手斧男が、月那と両手剣使いをキョロキョロと何度か見かえすと、パンっと両のほお両手を両手ではたいて月那のところへ歩いた。


「よろしくお願いします…」


 にこりともせずに月那が言う。


「…………うむ」


 両手斧ツーハンデッドアクス男が言葉少なに答えた。

 目つきが変わっている。気持ちを切り替えたのか。

 だがその両手斧男の顔つきが、再びおどろきにいろどられた。


「なにっ!?」


 ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン。────


 月那るなの持つ両手剣が、風切り音をたてながら(むげん)の形に旋回を始めていた。

 先ほど両手剣使いの男がやっていた“どうの構え”を、月那が使っていた。

 覚えたのか! さっきの一戦で!?

 でも月那さん、体の前で切り上げるよう振っている。さっきの両手剣使いとは向きが逆なんだが。


 場がこおり付いた。

 月那の回す両手剣が起こす風音だけが耳に届いてくる。

 はじめてやっているはずなんだが、旋回が乱れる様子はない。まるで熟練者のそれだ。


「ええい! 猿真似さるまねが!!」


 れたのか、両手斧の男が右肩からおのを振ってきた。

 いや、振りをめずに斧を旋回せんかいさせた。

 (オー)の字の横旋回(せんかい)だ。

 体勢を崩さずにそれができるというのは、よほど膂力があって肩や肘の関節が柔らかいのだろう。

 攻撃は最大の防御ってわけか。


 斧は受けにまわるのが得意じゃない。だが、当てれば相手に与えるダメージは非常に大きい。模擬戦闘用の武器といえども相当な痛手ダメージになるだろう。

 心配になってうちの薬箱リディア見遣みやると、彼女も心配なのは同じのようで、いつでも回復術を発動できるようにして待機していた。


 旋回二周目の振り終わりに合わせて両手斧男が前に出た。

 三周目の旋回が月那を襲う。

 月那は“ふわっ”という感じで後ろへ下がって身をかわした。

 それほど大きく避けた訳じゃないので、すこし心臓に悪い。

 その間も月那の剣は“動の構え”を崩していない。

 俺ならその瞬間を見計らって(タイミングで)、踏み込んでかたを付けるのだがな。とそう思ったら、月那の奴こっちを見てニコッと笑ってきた。


 なにか狙ってるのか。


 斧の四周目が月那を追う。

 相変わらず“動の構え”は保ったまま、こんどは左へ躱して、通り過ぎた斧を、後ろから打ち上げるように叩いた。

 五周目。再び身をかわして、同じように打ち上げた。

 さっきよりも強い。


 あれは嫌だな。斧の回転が加速して浮く方向へ叩いているので、踏ん張りが効かなくなるし、持ち手の制御力がより沢山たくさんけずられることになる。

 だが実行するのは決して簡単じゃない。相手のやいばを躱した後でこちらの攻撃を当てる事になるからだ。


「遊ぶなぁっ!!」


 斧男がえると、大きく踏み込んで月那に向かってきた。

 これで決めるつもりなのか、これまでよりも力のもった、六周目の旋回が月那に迫る。


 飛び込まれた月那はそれを軽やかな足捌き(サイドステップ)かわし、回している剣を頭上に上げて、大上段から左袈裟(けさ)に勢いをつけて切り下ろした。

 狙う先はやはり斧の背側。

 ただし先程までの二回とは逆に、下へ打ち落とされた両手斧は、地面に突っ込んで回転が止まった。

 月那はその斧に向かってとととっと動き、左足で斧の刃の腹を踏み、右足で柄を踏んで押さえると、動いた勢いを乗せたままの両手剣を横薙ぎにして、両手斧男の首筋でピタリと止めた。

 実戦なら首チョンパになる体勢だ。


「ま……まいった」


 顔を脂汗まみれにした両手斧男が降参リザインした。

 牛若丸うしわかまるか? 月那るなさん。


 両手斧男が降参し、月那は斧から降りてこちらへ戻ってきた。


「できました」

「出来た?」

「両手剣のかたの剣の使い方です」

「ああ、うん、確かに、出来てた。すごいね」


 そうか、妙に難しい顔をしてると思ったら、両手剣使いの戦い方を必死に覚えようとしていたのか。

 えらいえらい、と頭をでると、月那るながくすぐったそうに笑い、


「タイミング、教えてもらって助かりました。あと一人いってきます」


 そういって立ち会い場所へ駆け戻っていった。

 教えた? タイミング? 俺が?


 よく分からずに首をひねっていたら横から視線を感じたので、目をやると、リディアとハンナがジトッとした目でこっちを見ていた。


「チッ……」


 舌打ちされたよ!

 シルィーも見ていたが、こちらは変な圧力は感じない。だが目の周りが変だ。


 三人の視線を避けるように顔をそむけると、そこには筋肉でふくれ上がった冒険者たちが、怒りの表情で俺をにらんでいた。


「俺、なんかしたか?」




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