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わたし達、冒険者始めます  作者: 遠ノ守
第二章 冒険者パーティー始めました
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7 夜話    1        


 コン、コン、コン──


 静かなノックの音が俺を呼んだ。

 月那るなは“白き朝露”の三人の部屋へ行っていて、今は部屋にひとりだ。

 彼女たちの部屋は、同じ廊下の突き当たりの部屋だった。

 女将おかみのミリアさんが気を利かせてくれたんだろう。


 月那るなが戻ってきたのなら鍵はもっているだろうに? といぶかしみながら部屋の錠を開けると、そこには部屋着姿のリディアが居た。


「こんばんは。入れてもらっていい?」




 ものすごく面倒事の予感がしたので、半ば開けた扉をそっと戻して閉めようとしたのだが、小柄な体格に似合わない力で押し戻されそうになり、ぐっと力を入れ直して拮抗きっこうした。


「ルナから伝言があるの。本当よ」

「どうぞ。言ってくれ」

「中に入れてもらっていいかしら!?」


 ……これ以上は「静かに」とは行きそうになかったので、はなはだしく不本意だが、扉を開けてリディアを部屋へ招き入れた。

 後ろ手で扉を閉めたリディアは、扉に背をもたせかけて俺に訊いた。


「ルナの寝台ベッドはどっち?」

「扉側だよ」

「そう」


 と言ってゆっくりと月那るな寝台ベッドに近寄り、腰を掛けた。


「それで伝言ってなんだい」

「タツヤも座ってもらえないかしら」

「伝言ってなんだい」

「ふぅ。ルナは今夜わたし達の部屋に泊まるわ」


 こまった人ねと言いたげに、両のてのひらを上に向けてため息をつくリディア。


「それは構わんのだが、どういう話の流れなんだ?」


 と問うと、内緒話をするように口に片手を当ててこちらへ唇を寄せるように腰を浮かせながら、


「はじまっちゃったのよ。それで寝台ベッドを交換しようってことになったの。もちろんあなたが嫌と言えばこの話はなかった事になるわ」

「わかった。リディアはそこでゆっくり休んでくれ」

「駄目よ」


 俺が外へ出ようとすると、リディアがそう制した。


「この部屋のあるじはあなたよ。あるじを追い出して私が部屋を使うなんて事はできないわ。それくらいなら私が他所よそへ行く」

他所よそってどこだよ?」

「どこかよ。ギルドの宿泊施設でもいいわ」

「もう外は真っ暗だし、女の子が一人歩きしていい時間じゃないだろう。そりゃ駄目だ」

「じゃあここへ泊めて。あなたもここに居てちょうだい。できれば眠るまでお話につきあってもらえるとうれしいわ」

「…はあ…、……………まあ仕方がないか…。話だけだぞ」

「ありがと」


 にっこり笑ってそう言うと、止める間もなく部屋着を脱いでたたんでテーブルに置くと、月那るな寝台ベッドにもぐり込んだ。



    †



「なぁ」

「なぁに?」

「さっき扉を押さえたとき、女の子とは思えない力が出ていたように思うんだが、何かしたのか?」

「身体強化よ。Dランク講習会で話が出てたでしょう。あれ」

「あれが身体強化なのか。すごい効果だな」

「あの程度じゃ実戦には使えないけどね。せいぜい同ランクの男の人に対抗できる程度だし、私じゃ魔力消費が多くてすぐに息切れしちゃう」

「そうなのか。いやでも、同ランクの男と拮抗できるってすごいだろ?」

「それはそうなんだけどね。あと拮抗きっこうじゃなくて対抗たいこうね。

 私じゃ同じところまではいけないのよ」


 いやそれでも大した効果だと思うんだがな。俺たちも適性を調べてみた方がいいかな。


「…ねぇ」

「なんだ」

「なんでルナをかまったげないの?こっちの宿に移ってからぜんぜん構ってあげてないって言うじゃないの」

「おーい、筒抜けかい。……俺たちの事情は話したろ。子供ができて身動き取れなくなるのは具合が悪いんだよ」

「前の宿のではしたのに?」

「あのときはこっちに来立てで月那るなが不安定だったからな。鎮静ちんせい効果も兼ねてたんだ」

「今でも十分不安定よ。それでずっとしないつもりだったの? それ大変じゃない? 二人とも。避妊ひにんはしないの?」

「あ…え、あるのか? 避妊具ひにんぐ


 あのときはもっと不安定だったんだよ! と言いかけたのを慌てて言い直した。

 朗報だ!


「薬屋とかは見てみたんだけど、前のところで使っていたようなのって見つからなくてな」

避妊具ひにんぐ? それは知らないけど、避妊薬ならあるわよ。正確には避妊魔術薬(ひにんポーション)だけど」

「避妊ポーション!? なんでまたそんな大げさな事に…」

「知らなかったのね。避妊用として売られてるわけじゃないの。解毒げどくポーションに避妊の効果があるのよ」


 はあっ? なんじゃそりゃ。


「ふつうの解毒薬って、体を害する成分に個別で対抗するから、毒の種類ごとに対抗薬が違ってくるじゃない。解毒デトックスポーションの場合は、体が普段からり込んでいる成分以外をまとめて体の外に出しちゃうから…。子種も同じ扱いなのよ」

「なんとまあ、灯台下暗(とうだいもとくら)しな話だな…。ダンジョンにもう少し深くもぐるようになれば、嫌でも耐毒ポーションや解毒ポーションのお世話になるところだっていうのにな」


 ダンジョン・ヤグトの第六層を超えると、毒持ちの魔獣が現れるはずなのだ。


耐毒たいどくポーションも解毒げどくポーションと似たように働くわよ。名前の通り予防が専門だから、ことの後では充分な効果が期待できない代わりに予防効果が八日と長いわ。解毒ポーションなら、解毒期間は飲んだ日とその前後一日以内なら確実に、二~三日でもそれなりにってところね」


 そうなのか。この情報は有りがたいな。

 この際だから、疑問に思っていたことをまとめてたずねてみるか。


「じゃあさ、話はちがうけど石鹸せっけんってないのか? このあたり」

「あるわよ。だけど遠くの領の特産品だから高いわ。このあたりはお湯がわりと気軽に使えるから、わざわざ高いお金を払って石鹸を使う人は少ないわね」


 あー、そういうことか。


「作り方を秘匿しているパターンなのか。作り方教えたら誰か作ってくれないかな」

「タツヤ作れるの?」

「いや作れない、作った事はない。でも基本のレシピなら分るぞ」

「うーん、ならルーシーに相談してみてもいいかもね。冒険者組合(ギルド)は商業組合(ギルド)とも付き合いが深いから、うまく話を持ってってくれるんじゃないかしら。納品された魔獣の肉とか商業組合(ギルド)おろしてるし、打合せ区画の出店でみせなんかも商業組合(ギルド)経由だから」


 まあ話してみる分には何の不利益リスクもないからな。あした“流され人”の件と一緒に話してみるか。



「あーリディア。さいしょは何事かと思ったけど、月那るなのことを気にかけてもらってありがとう。懸念だったことが片づきそうで良かったよ。今夜は来てくれてホント助かったよ、感謝感謝だ」

「そう? お役に立てたならよかったわ。それなら感謝の気持ちで私の相手をしてもらえると、私もとっても嬉しいのだけれど、どう? 避妊薬ポーションもあるわよ」

「すまん。俺の女性の好みは二十歳代にじゅうだいなんだよ。十代は女のなんだ」

「女の二十歳はたちからなの? 困った人ねホントに」

「わるいな………」




「………………………………………………ん…………………………………………………んん……」

「…おい、どうした?」

「あ、…ごめん…。日課よ」

日課にっか!?」

「日課っていっても…何日かぶりなんだけどね。

 Dランク試験の日から…ハンナがはじまっちゃってて…、しばらくしてなくて…、溜まってたところへ…、さっきので意識しちゃったら…、ちょっとおさえが…」

「百合かぃ!」

「ゆり? なに? 一人ひとりより二人ふたりよ。……ごめんね、すぐおわらせるから…」


 うーん。

 これはさすがにほうっておくのも気まずい。


「……手伝うよ」

「ホント!?」

「嬉しそうだな」

「そりゃあね。さわられてキモチ悪くない男の人って貴重だから」

「そっちかよ。それじゃいくぞ」






 結局リディアは三日間、この部屋に泊まっていった。

 四日目の朝には「はじまっちゃった」と言って出て行った。


 今夜は一人で伸び伸び出来そうだな。と思っていた

のだが…



 コンコン──


 控え目なノックの音が俺を呼んだ。



 部屋の扉を薄く開けると、そこに居たのは部屋着姿のハンナだった。


「あの、あたし、終わったんだけ…ど……その、ダメ?………かな?…」


 ずかしそうに上目遣うわめづかいでそう言うアンナ。

 君たち、なにか協定でも結んだの?

 俺は、両のこめかみを指で揉みながら、しばら黙考もっこうしたあと、


 ………扉を開けた。




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