5 魔石買取り 前編
ダンジョン・ヤグトで無事に初ダンジョンアタックを終えた俺たちは、17時(夕方5時)近くになってようやくタルサ市へ到着した。
帰り道はずいぶんゆっくりだったわけだ。
西門から入市して、腹具合は落ち着いているからまずは風呂かな? と思ったら、戻ったらすぐ報告を入れないとルーシーさんがうるさいのだとハンナが言った。
ルーシーさんの親心だね(笑)
ルーシーさんを心配させてもいけないので、そのまま冒険者ギルドへ報告に向かう。
依頼の達成報告というわけではないから、魔石を買い取りに出しに行くのか。
魔石は市の専売だ。
冒険者が魔石を売る先は、市か、市から委託を受けた冒険者ギルドに限られ、他へ売るのは違法となり、見つかれば罰則がある。
そして集められ、選別精製した魔石は流通に乗り、一般へは指定業者から販売されるという流れになっているそうだ。
宿にもあり俺たちも持っている「魔石灯」は、その魔石を加工するときにできる削り滓で灯されているらしい。
市を横断して商業区まで戻った俺たちは、さっそく冒険者ギルド、タルサ支部へと入った。
途中にあるギルド出張所でも買い取りはできるのだが、どうせ宿に帰るには支部の近くを通るのだしルーシーさんへの報告もある。それならこちらで、という訳だ。
ルーシーさんの受付は今日も空いていた。
どうもルーシーさん、元Bランクの冒険者で、受付の中で上位者、そのうえ昇級審査や、他の支部との会合などギルドの行事にも顔を出すので、恐れ多いという認識が冒険者の中で蔓延してているらしい。
俺たちはこれまでのこともあって気安い感じだけど、きのう「もっと敬い奉りましょうか?」と言ったら、じとっとした視線で睨まれてしまった。
「ただいま戻りました。ダンジョン・ヤグトの魔石買い取りをお願いします」
そう言って、俺とハンナがカウンターに立ち、あとの三人は後ろに控えている。
「お帰りなさい。ご無事の帰還をお喜び致します。
で、どうだった? 初ダンジョンの感想は」
定型文を口にした後、すぐに顔見知りの気安い感じに切り替えたルーシーさんが体を乗り出してきた。
「第三層まで行きましたけど、神経が磨り減りますね。戦闘そのものはさほどでもなかったんですが、周りの雰囲気とか気配りがね。ちょっと毎日行きたいような場所じゃない」
「薄暗いし、風は吹かないし、魔獣はいっぱいいるし、まあそのおかげでいい稼ぎにはなったみたいだけどね」
「明日はゆっくり休むのね。休むのも冒険者の仕事のうちだから。それで収穫は?」
「これが第一層の分」と言って、三人の収納から魔石を出す。
「あら、だいぶ大きいのがあるわね。大収穫じゃないの」
と、一層分の魔石十個ほどを見て言うルーシーさん。
「第二層分」
「……え……」
「第三層分」
「…………………………ちょっと何よこれ。
二層分も普通より大きなのが半数以上だし、三層分に至ってはほとんど全部が特大じゃないの。それにこの数、たかだか2鐘ばかり潜ってきたパーティーが持ってくる数じゃないでしょう」
魔石が全部で九十個。その半数以上が特大玉で、残りのほとんども大玉の魔石というのは、歴戦の受付嬢を驚かせるのに充分だったらしい。
「そのことで報告があるんですよ」
俺たちは報告した。
魔石の大きさについては、資料室で見た文献をもとに考えついた、魔力滞留の仮説と収納の利用、条件を変えて行った検証の結果について。
魔石の獲得数については、エルフの間で昔から伝えられている風の探知という魔術を使ったこと。その魔術がシルィー個人の特別なものということではなく、とくに秘匿された術でもないことなどをだ。
実のところ、情報開示はせず、俺たちだけで稼ぐという選択肢もあるにはあった。というかそっちが普通のようなのだが、俺とルナの場合、金銭的な儲けはほどほどで良く、むしろ俺たちの現状に関する情報や、行動の方向性が出たときの助力を得るために、伝手が増えることの方が有り難い。
“白き朝露”はお金が欲しかったが、使い切れないほどの大金をという訳ではないそうで、とくに風の探知を使った当のシルィーにその傾向が強く、残りの二人は「当人がいいと言っているのに、自分のものでもない魔術のことで、傍が口を挟む話じゃない」という立ち位置だった。
そのため今回は、実より名を取れ。という方向で、ギルドに恩を売る方針が決まったのだ。
功労者のシルィーは、エルフの誰もが知っている魔術を、月那に求められて試しに使ってみただけだ。功労者と言えば、たくさん走っていたハンナが一番大変だったのではないか? と言っていた。
そう言われたハンナは、獲物の居場所を教えてもらった上、自分は走っていただけで、戦闘にはまったく参加しなかったので寧ろ楽だったと言う。
ちなみに釣りに使った武器は石礫だ。
弓だとたまに倒し切ってしまううえ、倒した獲物と矢を回収しに近寄ると、他の魔獣に襲われるという線だったらしい。
戦闘は俺と月那とシルィーの三人、第三層では俺と月那の二人で行ったが、それもすべて一撃か二撃で片付いているので、交互に剣を振ってただけで、疲れにはほど遠かった。
わたしが一番何もしてないわね。と言うリディアは、ハンナにかけた【加速】と【継続治癒】【気力継続回復】が途切れないように維持していた。
「ともかく、魔石の買い取りだけでも金貨三十枚を軽く超えるわ。今回はその他に、“風の探知”と、魔石を大きく育てて採取するための方法の情報提供に対する報償が追加されると思うから、報酬の計算が終わるまで少し待ってもらえるかしら? それとも魔石の買い取りだけ、いま精算しておく?」
「魔石の分だけ今でいいですか?」
ハンナが俺たちとルーシーさんを交互に見ながらそう言った。
試験だ講習だ情報集めだと、このところ狩りに出ていなかったので、懐が少々寂しいらしい。
もちろん俺たちに異存はない。
そう答えると、「ちょっと待っててね」
ルーシーさんはそう言って精算にかかることしばし。出てきた結果はこんなものだった。
「魔石 買い取り明細書」
大きさ 単価(大銀貨) 数量(個) 小計(大銀貨)
1.1玉 1.4枚 × 1 1.4枚
1.2玉 2.0枚 × 2 4 枚
1.3玉 2.8枚 × 13 36.4枚
1.4玉 3.8枚 × 14 53.2枚
1.5玉 5.0枚 × 10 50 枚
1.6玉 6.5枚 × 50 325 枚
─────────
計 470 枚
「やったっ!」「きゃー!」「……」
五人で大銀貨470枚。一人当たり大銀貨で百枚近い稼ぎなのか。すごい…んだろうな。きっと。
出てきた買い取り明細を見たハンナとリディアが思わず声を上げ、ギルド中の注目を集めたのに気付いて真っ赤になって小さくなっていた。
「大銀貨470枚、あ、あたしらには…」
「白き朝露の取り分は大銀貨282枚だな。四口に割ると一口あたり大銀貨70枚と銀貨5枚だよ。お疲れさま」
「大銀貨、70…枚。Dランクってこんなに稼げるものなの?」
「そんな訳ないでしょ。一日でこの稼ぎはCランクでも上位パーティーのものよ。あなたたちこんな事が毎回起こるなんて思っちゃ駄目よ」
稼いだ額に感動するハンナとリディアに、ルーシーさんが釘を刺す。
俺たち? 俺たちはこちらの貨幣価値がまだいまひとつピンと来ないので、どこか他人事のように感じていた。
「ダメ元で声をかけてホント良かった」と、いまだ興奮冷めやらぬハンナを落ち着かせるべく、声をかけたのはルーシーさんだった。
いや、かけたのは冷や水か。
「ところであなたたち、ひとり大銀貨70枚は現金でそのまま持って帰る? それとも重いし嵩張るから、金貨7枚に纏める?」
「き、金…貨……」
ルーシーさんの狙いが分かったので、ここは背中を押しておこうか。
「ああ、ルーシーさん。俺たちは昨日もらった現金があるので、今日の報酬はすべてパーティー口座と個人口座に入れてください」
「分かったわ。“またり”さんは全額口座へ入金…と。それで“白き朝露”さんはどうしますか?」
「あ、……こ、個人…口座を作ります」
リディア、シルィーと顔を見合わせたハンナがそう言った。
重いし嵩張るし盗難の危険があって気が休まらない。
大金を常に持ち歩く大変さはすぐに想像できたようだ。
「承知しました。“白き朝露”さん三名様の個人口座をお作りしますね」
ルーシーさんがいい笑顔でそう言った。
「“またり”“白き朝露”報酬振り分け票」
大銀貨 大銀貨 またり 白き朝露
総額 470枚= 5名×94枚= 188枚 + 282枚
×1/4 ×1/4
=個人口座入金額= 47枚 70.5枚
×2名 ×3名
パーティー口座入金額= 94枚 70.5枚




