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わたし達、冒険者始めます  作者: 遠ノ守
第二章 冒険者パーティー始めました
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3       ヤグト 第二層  


 同じ魔獣からより大振りの魔石を得るためには、魔獣の体が分解し始める前に、状態変化無効を切った収納ストレージに取り込むという手が有効らしい。

 という手がかりを得た俺たちは、さらに何匹か魔獣を狩った後、第二層へ降りることにした。


 正規ルートへ戻ると、朝のような人の流れはもう見られなくなっている。

 斜路トンネルを通り抜けると、第二層は一層と同じ岩石洞窟だったが、周囲が一段と暗くなってきた。

地図作成マッピング”スキルを開くと、すでに第二層に切り替わっており、歩いて行くはしから詳細表示に変わっていくのがちょっと楽しい。


 通路が広いので、先頭はハンナと俺、その後ろにリディアとシルィー、最後尾に月那という陣形で移動している。


 やはり正規径路を通っているせいなのか、魔獣に襲われることが殆どない。

 ただ、一層に比べて通行量が減っているためなのだろう、まれには襲ってくる魔獣もいる。

 走って近づいてくる魔獣はハンナが気付いて警告を出すから良いのだが、トカゲは音もなく頭上から落ちてくる事があるのが始末に悪い。

 先ほどは、天井から落ちてきた九十センチの岩トカゲが、最後尾を歩いていた月那の頭に飛び込んで(ダイブして)きた。


 装備していたヘルムの上からかじられたので月那に怪我はなく、リディアとシルィーが丈で叩き落として仕留めたのですぐ終わったのだが、トカゲが苦手なこともあって、悲鳴を上げ恐慌状態パニックになった月那をなだめるのが大変だった。

 近くに居た他のパーティーが様子を見に来たほどだ。


「ルナ、だいじょうぶ?」

「か、かわいい…よしよし」


 それでもハンナとリディアがなだめてくれているのが効いてきたようで、少しずつ落ち着いてきた。

 リディアの台詞は、流しておこう…。


 しばらくして恐慌の発作(パニック)は収まったものの、まだ動きの固い月那をなだめながら先へ進み、次の予定地だった三階層へ繋がる通路まで到達して、そこで一旦休憩にした。


 七国ゲームと異なり、この世界のダンジョンが嫌らしいのは安全地帯がないことだ。

 魔獣が来ず、湧き出し(ポップアップ)もなく、装備を整え、体力と魔力を回復し、次の手筈てはずを確認できる「安全地帯」がない。

 どこもかしこも魔獣の勢力圏である。


 層をまたぐトンネルにしても、通路の先が居心地の良くなさげな気配がする場所でしかないらしく、魔獣がいる確率こそ低いものの、層を超えて逃げても追いかけられるらしい。

 そのため、ダンジョンにもぐった冒険者は、地上に戻るまで延々と緊張によるストレスにさらされ続けることになる。

 休むにしても、休むのに適した場所を探す必要があるのだ。


 とは言っても、これはダンジョンだけの事ではなく、森に入った場合でも同じことが言える。

 結局、利用者に配慮して作られたゲームと現実は違う。という事なんだろう。

 異世界は初心者に優しくないね。トホホ。



 恐慌発作パニックこそ収まったものの、まだ涙目の月那がシルィーにすがり付いていた。


「シルィーさん、遠くのものを知覚できる術ってないですか?」


 なぜにシルィー? リディアじゃ駄目? と思ったら、「探知と言えば風魔法でしょう」ということだった。なるほど…なのか?


「知識と、しては、ある。使った、ことは、ない。試して、みる?」

「負担が大きくないならお願いします」


 あるんだ、そういうの。

 横でリディアが、「そんな魔術が……」とか言いながら聞いている。

 俺とハンナは周辺警戒だ。

 頼まれたシルィーは、「うん」と頷き短丈ワンドを構えた。


「できた」


 一発成功なのか。

 シルィーは、ハンナに持たせてあった地図を出してもらい、周囲の魔獣の分布を説明していった。すぐ近くに魔獣は居ないそうだ。


 ギルドの資料室で複写コピーした紙の地図は、現在そのすべてをシルィーの収納ストレージで保管している。そして使用するエリア分をその都度ハンナに渡すという手順をっている。

 収納ストレージから取り出す前に一度脳内表示しておけば、現物がストレージ内に無くなってもシルィーが脳内で閲覧できるからだ。

 そんな訳で、紙の地図を出して見る必要があるのは、実質ハンナとリディアの二人だけになっていた。


 ハンナではなく、あまり動かない後衛のリディアが地図を持つという選択もあったのだが、生憎あいにくとリディアは地図を読むのが苦手だそうで、職業柄地図に馴染みがあり単独行動の頻度が高いハンナに持ってもらっている。

 もちろん俺と月那は、地図の内容をすべて蓄え(ストックし)ている上、“地図作成マッピング”スキルも使えるので問題ない。


 それで風の(ウィスパー)探知ディテクションの範囲だが、だいたい半径四百メートルほどの半球形で、第二層の天井がそれほど高くないので天井に張り付いているトカゲも見つけられたそうだ。よかったね。

 魔力消費はほとんどないが、歩きながら発動出来るかどうかは怪しいそうで、あとは発動に数秒かかる。

 歩きながら数秒おきに使えると、接近する魔獣も分かって安心なのだが、それは贅沢というものか。

 そこは今後の課題ということで先送りにする。


「ルナが落ち着くまでこの辺りで狩るか?」


 第二層の魔獣も経験しておくためと、月那が平常運転に戻るまでの時間稼ぎで、シルィーの探知魔法──じゃなくて、風の(ウィスパー)探知ディテクションで見つけた、背中から襲われない場所ポイントを見つけてから狩りを始めた。


 第二層の魔獣は一層に比べれば強いものの、まだまだ二パーティがそれぞれ単独で戦闘しても余裕をもって対処できる範疇はんちゅうだった。

 また、シルィーの探知で相手の位置が分かったため、釣りの効率が格段に向上して、面白いくらい良い調子リズムで魔獣が狩れる。

 先手が取れるというのは、実にありがたい。


 三十匹も狩った頃には月那るなも調子がもどり、いつも通りに動けるようになったので、一休みしてから、本日の目玉。三層へ降りてみようと提案してみた。

 反対意見は出なかったが、月那から「丁度いいのでお昼にしてから出ませんか」という追加提案が出た。

 恐慌パニックを起こしたときには、今日はここまでかなと覚悟したものだが、妙なトラウマにはならなかったようで、一安心だ。


 まあ、ふつうにキツいよね。十八歳の女の子には。いや、二十七歳の男にだってキツいんだよ。ホントだよ。



 食事とは言っても、ダンジョン内で煮炊きが出来る訳じゃない。熱い食べものというのはにおいが立って、魔獣を呼びかねないからだ。

 不意を打たれないように見張りを立てて半舷休息はんげんきゅうそくをとる。

 食べる食事が“杜の下亭”で作ってもらったコールドサンドイッチというのが、こんなところで食べる昼食として不相応ふそうおうに立派だ。


 魔獣に嗅覚あるのかって? 視覚、聴覚があるのは間違いないし、血の臭いにかれてやって来るそうだから嗅覚きゅうかくだってあるのだろう。


 お茶をれるという訳にはいかないが、白湯さゆなら飲めるのも収納ストレージ様の恩恵だ。飲料水が「常温」と「熱湯」で別々に保管してある。

 両方を混ぜれば好みの温度の白湯が飲める。

「冷水」が欲しいと思ってしまうのは、冷えた飲み物に慣れた現代日本人のさがですね。


 ああ、おいしい弁当は一食分しか持ってきてない。

 もともと日帰りの予定だし、非常用にはふつうの乾パン、干し肉、干し野菜が数食分用意してある。

 すまんね、貧乏性で。


 ゴミの心配をしなくて良いのもダンジョンならではの事情だ。

 有機物ならなんでも床や壁が吸収してくれる。見てもさわっても岩なのに不思議な話だ。天井はどうなのだろう? 無機物はゆっくりと吸収された上で最後は宝箱トレジャーチェスト行きだと本には書いてあった。

 そんな訳なので、ゴミや排泄は少してば消えてなくなるのだ。死んだ人の体もね。

 なので意外と清潔。ダンジョン生活。


 ここにプラスチックがあったらどうなるのか興味あるな。なかなか分解しない厄介者だけど、あれも無機物という訳じゃない。

 あれは成分を構成する分子の種類が多いため、単独のバクテリアではその担当分しか分解が進まないのだ。

 他にも下水をダンジョンで吸収処理するとか。あと、放射性廃棄物とかね。都市開発の面倒事がいろいろ解決するかも知れないな、ダンジョン。


 あ、でも巨大な生物の体内にいると考えたら気持ち悪いか。



 時間が分からないのもダンジョンの不自由さの一つだ。

 太陽が見えないので、大雑把な目安すらつけられない。

 この世界で腕時計は実用前だし、時間、時間を知るには……、腹時計しかないのか?

 ふっ、秒単位に刻んで動く社会からやって来たからな。ここで気にしちゃ負けなんだよっ!。


 と強く心に決めたら、視界の隅っこに時計が表示された。


 なんでだっ!?


 それも秒表示まであるデジタル時計だ。


 おいおい。


 どこから来たんだ? この時計。

 新たに生まれた“時計スキル”?……なんて都合の良いことは、たぶんないので、どこかに隠れていた機能が有効化アクティベートしたのか?


 もしかして、“地図作成”スキルか?

 言ってみれば、(グローバル)(ポジショニング)(システム)の電波を受信して、地図は出さずに時刻情報だけ利用する時計のようなものか?

 よし、月那るなにも試してみてもらおう。


 交代して見張りに立っていた月那のところへ行き、頭の中で“時計表示”と考えてもらう。反応なし。

 次に地図スキルを開いてもらう。

 地図が開いた状態で“時計表示”と考えてもらうと、あっさりと時計が表示されたそうだ。

 一度表示してしまえば、以降は地図抜きでも時計が表示できた。

 俺の時は、標準的な手順を踏まずに、力業というか「虚仮こけの一念岩をも通す」で表示させてしまったのかね?


 表示形状の変更もできた。

 月那るなは時分を表示させたデジタル表示、俺は時分を表示させたアナデジ表示で、デジタルだけ秒表示まで出すところで落ち着いた。


“白き朝露”の三人も、なんだなんだ? という感じで集まってきて、俺たちの会話に耳を傾けていたが、その間も無駄に声を出さずに「聞く」を優先していたし、スマホやタブレットを見るように意識を集中させてしまうこともなく、相手の顔を視界に入れながらも視界を散らして、周辺警戒を途切れさせずにいた。

 故郷の森や山で鍛えられたんだろうけど、優秀だよね、このたち。


 その周辺警戒のことを後でルナに話したら、「わたしも頑張ります」と鼻息を荒

くしていたのが可愛かった。


 俺? 俺は職業柄、建設中の工事現場へ入ることも多くてね。作りかけの建物というのは足下あしもとに大穴が開いていたり、天井から配線や支材が垂れ下がってきたりと、あそこで安全に行動するには全天監視する能力が求められるんだ。

 一箇所ひとところを凝視したり、絶えずキョロキョロしたりしていては肝心の仕事が出来ないので、ふんわりと視界の全体から注意箇所を見つけ出す見つけ出す能力スキルは、だいぶ鍛えられていると思う。

 車の運転で二度ばかり事故を回避しているから、実生活でも役に立ったよ。

 不意打ちに強いようで、こんな状況になってもどうにかこうにかやっていられる原因のひとつなんじゃないかな。


「タツヤとルナがだんだん人間離れしていく……」


 と、リディアがボソッと呟いた。

 うるさいよ。


 さて、またスキルの新しい使い方が見つかったことだし、ゆっくりし過ぎて眠くなる前に出かけよう。

 次は第三層だ。




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