2‐1 パーティー登録
めでたくDランク冒険者となった俺と月那さんのパーティー“またり”と、ハンナたち三人のパーティー“白き朝露”は、お互いの技量と連携の確認を兼ねてタルサ市の西にある「ダンジョン・ヤグト」へ向かうことになった。
さあ、ダンジョンへ行こう。
え? 冒険者ギルドの資料室で調べ物じゃなかったのかって?
行ったよ。
昨日ね。
朝食のあとで皆でギルドへ出かけて、資料室を使わせてもらった。
受付で資料室の場所を聞くと、全員の冒険者証を確認され、なにやら首飾りのようなものを付けさせられた。
なにかと思ったら、收納からの出し入れを記録する品らしい。
ギルドの建物から出るまでこれを外してはいけないそうで、外さずに外へ出ようとすると警報が鳴るし、中にあっても外したことが記録されるそうだ。
なるほど、貴重な品々を保護するための方策もいろいろ考えられているんだね。と思ったら、輸送に收納や整理箱を使う際にもこれを使っていて、収納を附与した拡張鞄などにも有効なのだとか。
なるほど納得だ。
受付の人が「“収納”持ちが三人も一つのパーティーで……」と絶句していたな。
あと一人は誰? と思ったら、シルィーだった。
容量はさほどでもないが、シルィーも收納持ちなんだそうだ。
優秀だなぁ。
そうすると昨日の夕食時に彼女らの弓や長杖が見当たらなかったのは、部屋に置いてきたわけじゃなく、シルィーの収納に収まってたってことか。
あと、パーティーは二つだ。一緒に行動してるけどさ。
訓練場へ行く途中にある階段を上がり、先日講義を受けた会議室とは反対方向へ曲がると資料室があった。中には司書と思われるお姉さんが書き物をしている。
資料室と言うだけあって図書館と異なり、それほど広い訳ではないし、読み物のたぐいはなかったが、さすがに資料は充実しているようだ。
その資料だが、さっそくいくつか収穫があった。
まず地図。
ダンジョン・ヤグト第十三層までの概略地図と、タルサ市内と周辺の地図があった。
複写も出来るということなので、どれも複写を取った。
これは有料だ、結構高い。
だが、これ一つだけでも今日ここへ来た甲斐があったというものだ。
あとは、ダンジョン攻略の手引き書。魔獣の生態を記した図鑑。植物図鑑もある。
どれも興味深いが、全部を複写する訳にもいかないので、ダンジョン・ヤグトに限定して情報を集めていった。
メモができる紙が欲しいな。
資料はどれも興味深く、あれよあれよという間に時間が経ち、気がつけばあっという間にお昼になった。
リディアのお腹が クゥ~ と鳴ったので、打合せ区画で食事をするために、資料室を出ることにした。
一階に降りると受付に、朝はいなかったルーシーさんがいて、俺たちにおいでおいでをしているのが見えた。
受付カウンターへ近寄ると、昨日言っていたパーティー登録と、一昨昨日の特別討伐報酬受け取りの話だった。
まずはパーティー登録か。
“白き朝露”の三人。
代表にハンナ。副代表にリディアとシルィーの二人で登録した。
代表は一名。副代表は三名まで登録できる。
“白き朝露”はパーティー共有口座を開設し、報酬を受け取る際は、四等分に分けた報酬を、三人へ一口ずつの現金支払いと、残った一口をパーティー共有口座への振り込みにして、天引きでパーティー財産が貯まるように標準分配方法を設定していた。
パーティー共有口座からの引き出しは、代表か副代表が二人以上同時に窓口で申請すれば、引き出せるそうだ。
“白き朝露”の登録が済むと、先に席を取っておくと言って、三人は打合せ区画へ向かっていった。
リディアのおなかが限界かな?
次は俺たちだ。
パーティー名は“またり”
元の世界でゲームをしていたときの“body(集団)”名だ。「まったり」が訛って“またり”になったらしい。
代表は俺、副代表は月那さん。
パーティー口座も開設したが、白き朝露と同じ振り分けにすると、手元に来る金額が恐ろしいことになったので、設定を少しいじった。
一昨昨日の、特別討伐報酬を含めた報酬総額は、素材買い取り代金を含めてなんと大銀貨百八十枚になったのだ。
白き朝露式に分けると、パーティー口座に大銀貨六十枚。俺と月那さんにもそれぞれ現金が大銀貨六十枚づつ来ることになる。
そりゃそうか。白き朝露の三人が何ヶ月かかけて稼いだのと同等額を一日で稼いだとなると、そんな金額にもなるのだろう。
收納があるから邪魔にはならないが、持っていたからと言って良いこともない。
いや、俺に万一があったときに、俺の收納が中身を死蔵してしまう可能性があるとすれば、誰かに活用されることすらなくなってしまうわけだ。
相談した結果、二人とも個人口座を開設して、報酬全額を四等分、そのうち二口をパーティー口座へ、一口ずつをそれぞれの個人口座へ入れる。
今回は個人口座から大銀貨五枚を、崩した現金を混ぜて受け取ることにした。
収納にもともと入っているお金のことは、今日は無視する。
つまり今回パーティー共有口座へは大銀貨九十枚が、二人の個人口座へそれぞれ大銀貨四十枚が振り込まれ、現金が大銀貨五枚相当額(大銀貨四枚と銀貨九枚と大銅貨十枚)ずつ支払われたわけだ。
うーん、小市民にはまだまだ大金な気がする。
ちなみに口座開設は有料だ。
口座の維持も有料なのだが、こちらは年度の中で取引があれば、そこに吸収されて、実質無料になる。
一方、口座人が生死不明などで長期にわたって取引がなく、引き取り手もいない場合、維持費が逓増していき最後は口座が消滅するんだそうだ。
年単位での話だけどね。
そして口座の開設は、ギルドへの信用向上になり、口座の取引額は、ギルドへの貢献として数えられるというわけだ。
†
パーティー登録と報酬を受け取って、懐が温かくなったところで次の行動に移る。
焼き肉サンドっぽいもので昼食を取ったあと、午後は買い出しだ。
とは言っても、買う物はそう多くない。
それこそダンジョン・ヤグト第一層なら、バルニエ大草原と大して変わりはないのだ。
そう確信をもって言えるのも、昨日ルーシーさんに言われたことを午前中に調べたからな訳で、実のところハンナの最初の提案どおりにダンジョンへ突撃しても、調子に乗って三層、四層へ突進したりしなければ、無事に帰って来られただろう。
それでも用意しておいた方がいい物はある。
保存食糧、くすり、水、明かり。そして明日のダンジョン・ヤグト行きには直接関係ないが、今後手に入れた情報を書き留めておけるように、紙と筆記用具を入手しておきたい。
それはそれとして、こちらの世界でも女の子は買い物がお好きなようだ。
ハンナ、リディア、月那さんの気分が、上がったままで下りてこない。
昨日、杜の下亭へ向かったときと同じ並びで歩いているが、後列の俺とシルィーは少々手持ち無沙汰だったので、俺は先ほど複写した、商業区の地図が入っている収納の縮小図を気にしながら考え事をしていた。
(いまどの辺りを歩いてるのだろう。地図は手に入れたけど、収納から取り出さないと見られないのが不便。いや、失くす心配をしなくていいし、手で持ち歩かなくてもいい。これだけでも随分便利なんだが、でもな。このまま見られないものかな…)
そんなことを考えながらスキルの“地図作成”を開いてみると。
「あっ」
地図の表示が変化していた。
これまでに歩いた事のある場所の周辺が詳細表示になったいつもの“地図作成”だが、未踏の白地図部分が、先ほど収納に入れた紙の地図で表示されていたのだ。
“地図作成”の地図だけの表示や、紙の地図だけの表示にも切り替えられる。
うーん、これは…。
「タツヤ?」
シルィーに呼ばれた。
どうやら足が止まっていたらしい。
俺とシルィーが着いてこないのに、気付いた三人も戻ってきた。
「ああ済まない。ちょっと収納の新しい使い方が見つかって、驚いただけだ。問題ないよ」
「大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ」
周りの皆は心配していたが、緊急性のない話なので、買い物を済ませて宿に戻ってから諸々話すと言うことで納得してもらい、そのまま買い物を続けた。
手早く買い物を済ませた俺たちは、早々に宿へ戻り、食堂で食卓を囲んでいた。
「それで? 収納の新しい使い方って言ってたけど、どういうことなの?」
そう口火を切ったのはリディアだった。
「資料室で複写した商業区の地図を“収納”に仕舞っていたからね。そのことを考えながら自分の地図スキルを開いたんだ。
そうしたら、自動地図作成で作られた部分の表示はこれまで通りに表示されて、未踏の空白部分には“収納”に入っている資料室で複写した地図が表示されていたんだよ。それで元々のスキルの地図だけ表示や、收納した地図だけの表示にも切り替えできるようなんで、それを確認しているうちに足が止まっていた。ということだな」
「つまりタツヤさんには、“収納”の他に“地図”という技能があって、その地図技能に“収納”に入っていた紙の地図の内容が反映された。ということですか?」
「“地図作成”スキルだな。そうなる」
リディアが質問してきたのでそう答えた。
「それでだ、他にどんなことが出来るのか? とか、“収納”を持つ三人が全員同じことができるのか人によって違うのか? といった事を洗い出したいと思ったんだよ。まあ、ざっくりとしたものになるんだろうけどね」
さあ、検証だ(わくわく)。
まずは収納スキルへ入れられる数と重量を調べたいと考えたのだが、これは大きな岩でもゴロゴロしているところへ行かないと難しそうなので諦めた。
状態変化無効は、全員ができるようだ。状態変化有効も選べた。
文書や地図などの収納物の内容を閲覧することも、全員ができた。
閲覧した収納物を“収納”から取り出しても、表示した内容は残っていた。つまり記載内容を記録でき、それを表示も出来るということだ。
ただし記載内容の記録については、シルィーの場合最後に表示したもののみ情報が残っていると判った。
俺と月那さんのところは全ての収納物の情報が残っていたね。
他には、収納物の詳細情報が調べられた。収納物限定の鑑定だな。これは俺と月那さんの二人だけだ。
ゴブリンの魔石を分離したように、中で何かしらの作業が出来るか? というのも、俺と月那さんの二人だけに出来た。
そしてあれこれ試した後、シルィーが言った。
「ストレージの、中の本、を読めないか、というの、は、前に、試した、事、がある。けど出来、なかった。なのに、今日は、出来、た。
あと、出さ、なくても、読める、のは、有り難い、けど、視界が、狭、くなるから、急ぎのとき、には使え、ないね」
「えっ!? 俺は視界はそのままで、視界の外に表示領域が追加されるぞ」
「えっと… 表示で視界が遮られますが、表示の大きさと置き場所が変えられますから、邪魔にならないように調整できます」
この件については、三人とも様子が違っていた。
なんでだ?
†
とまあこの日、分かったことは多かったのだが、謎も増えてしまった。
おまけに夜、月那さんが寝台の中で言ってきた。
「“朝露”の皆さんが居るところでは話せませんでしたけど、昼間買った紙とインクが“収納”にあると、中で絵や文字が書けますし、地図や文書の複写ができましたよ」と。
言われてやってみると、俺にもできた。
オレたち生きた複写機だったよ。
収納内加工が出来るんだから、書写が出来てもおかしくはないのか…。
出版革命が起きそうだし、そんなことに巻き込まれでもしたら身動きが取れなくなりそうだ。
こりゃ公にはできないかな…。
不明なところがあるからと言って、それで頭を抱えて蹲っている訳にはいかない。
だから今日はダンジョンに初挑戦だ。
ということで、それでは行ってきます。
眼で見ずに本が読めるスキルが欲しいです。




