24 冒険者登録 sideルーシー
「ようこそ冒険者組合へ。本日はどのようなご用件でしたでしょうか」
春の季節の最初の日。
四月一日。
世の中は(なるべく)休みを取る日、つまり休日なのだけど、冒険者組合に勤める私にはあまり関係がない。
実家が商売をしていたこともあり、昔から休みというものに縁がないのだ。
そういえば教会の学舎へ行く日は、いつもと違うことが出来て楽しかった気がする。
私も組合も仕事中だったったけど、休める人は休むため、いつもより少し閑散とした組合広間。
窓から差す陽がだいぶ傾いたころ、全身血塗れの男女がやってきて、私のカウンターへ立ちました。
どちらも見たことがない顔です。
定型文で応対すると、「冒険者登録をお願いします。二人とも」と告げてきた。
え? このふたり冒険者登録前なの?
ぱっと見は、戦闘の直後に見えるんだけど。
旅の疲れは見てとれるけど、体の動きに淀みがないので怪我はないでしょう。
荷物は持っていません。
武装は、装備レベル1の誰でも使える物をきちんと着込み、下ろしたてのように傷もついてない。
血がぶちまけられてるけど……。
新手の嫌がらせかしら?
「かしこまりました。組合についての詳しい説明は必要でしょうか」
「お願いします」
要るだそうだ……。
怪しいことは怪しいけれど、それは冒険者登録を断る理由にはならない。なのでともかく説明をしましょう。
ということで少し奥にある、仕切りと椅子のある場所へと移動する。
腰掛けるように勧めると、男がすこし躊躇したあと“収納”から布を取りだして、椅子に敷いてから腰掛けた。
女の分も一緒にだ。
収納! 出したのはただの布だから、整理箱じゃなくて収納よね。
私の中で男の価値が急上昇した。
収納は、整理箱もだが、希少な技能だ。
目の前にいるのは、野良の魔術士と同じくらい貴重な存在なのだ。
それがうちで冒険者登録をしようとしている。
ぜひとも捕まえておかなければ。
って、たかが数年、半ば反射的な反応だけでよくここまで仕事ができるようになったわね、私。
「改めまして、ようこそお越しくださいました。私は冒険者組合、クワン神国タルサ支部、受付のルーシーと申します。よろしくお願いします。
まず登録について説明します………」
── 鑑 定 ──
【名前】 タツヤ アツモリ
【年齢】 27
【性別】 男
【階梯】 5
【技能】 収納
地図作成
遮断
【状態】 雑魚狩りの達人 流され人 ミユキの兄
【名前】 ルナ サハシ
【年齢】 18
【性別】 女
【階梯】 5
【技能】 収納
地図作成
流体操作
【状態】 雑魚狩りの達人 流され人 ミユキの友
身上鑑定器を使ってもらうと、何よコレ。女の方も“収納”持ちじゃないの。
しかも両方とも“地図作成”技能付き。
道に迷う心配なしなんて、なんと羨ましい。
冒険者をしていた頃、とくにダンジョンや旅をしていた時に、どれだけこの技能が欲しいと思ったことか。
二人とも【階梯】5か、まったく戦えないわけじゃないけど、戦闘方面を上げるより収納を生かした方が延びそうね。男の方は線が細いし、女もおっとりしてもの静かだ。
ここで椅子が汚れるのを気にする人なんて、女で半分、男なら十人に一人もいない。布を出してかけるなんて尚のこと少ない。
聞いたことのない【技能】があるわね。
遮断? 流体操作?
自分の技能のことがあるので、技能については色々調べたことがあるけど、これは知らないわね。
【状態】の方も“雑魚狩りの達人”? “流され人”?
“ミユキ”って誰よ。
タツヤさんの妹さんで、ルナさんの友人みたいだけど、何でここに人の名前が出てくるの?
謎だわ。
それは置いといて、まずは登録の可否を告げて勧誘ね。
「犯罪歴はありませんから、冒険者登録は問題なくできます。
すばらしいですね。お二人揃って“収納”の技能をお持ちですか、しかも“地図作成”技能まで。
これはご相談なのですが、収納を使った輸送専任冒険者を目指しませんか? 冒険者組合は国をまたぐ組織ですから、その利点を生かして長距離輸送業務も取り扱っております。
収納やその下位の整理箱技能を持つ冒険者が、騎乗して拠点間を結びますので、獣車よりも速く、もともと冒険者なので戦闘力も機動力もあって安全なので、冒険者組合の主力事業のひとつなんですよ───」
残念、輸送専任冒険者育成コースのことは保留になってしまいました。
でも、昇級要件を訊いてきたので少し安心しました。
階梯や階級を上げるつもりはあるようです。
冒険者の仕事には大まかに、魔獣や盗賊に対する“討伐”“護衛”、それに“輸送”“採取”、そして“探索”などがありますが、どれを主軸とするにしても、もう少々レベル上げが必要ですから、その気があるのは良いことです。
なるべく怪我をしないように。
お願いよ。安全にレベルを上げて、“輸送”系を選んでね。
昇級試験への参加要件を話すと、「ここへ来るときに、バルニエ大草原で倒した魔獣の屍骸がありますけど、それは数に入れられますか?」と尋ねられた。
ああ、それで血塗れなの?
きっと馴れない戦闘で、うっかり盛大に返り血を浴びてしまったのね。
でもどこから来たにしても、街道を通ればそうそう魔獣に襲われることは無いはずなのに、草原を突っ切ってきたのかしら。
藪に身を潜めた小型の魔獣は、至近距離から突然襲いかかってくるから厄介なのに、鎧に傷がないって不思議よね?
私は当然できるけど、レベル一桁では難しいでしょう。
「それではここへ討伐した魔獣を出してください」
するとドサドサドサッと音を立て、魔獣の屍骸で山ができた。
何よこれは。三十匹くらいあるんじゃない?
「えっと、これをきょう一日で?」
「そうですよ。実戦は今日が初めてですから、正真正銘今日一日の成果です」
初陣! それで魔獣が三十匹!?
「すごい遭遇率ですね」
「ああ、ゴブリンだけは魔石を分離していたので──はい、こっちがゴブリンの分の魔石です」と言って、ゴブリンの魔石を横へ出してきた。
分離、いま分離って言った?
出されたのは確かにゴブリンの魔石だけど、ゴブリンの体に魔石を取りだした傷はない。何かの技能で取りだしたか、でなければ収納の分類に載っていた、内部で分離や混合ができる収納。
最上級の収納技能じゃない!
「中で分離作業ができる収納! あらでも、今日一日で二人をレベル5にするには、すこし魔獣の数が足らないような…」
「ああそれは、わたしのストレージの中にも魔獣の死体がありますから。だいたいこの四倍くらい?」
「四倍!?」
それまで静かだった女の方が、爆弾を落とした。びっくり仰天だ。
でもそれならレベルの話が合う。
「こちらへ残りの魔獣を出していただけますか。できれば種類ごとに分けて」
今の山を数えるのを他の職員にまかせて、別の作業台でルナさんにも魔獣を出してもらう。
ドサドサドサって魔獣の山がいくつもできた。
うん、確かに四倍くらいの嵩がある。
それにしてもいったい何よこのゴブリンの数は。
一二三四五六七八……、あちらのゴブリン山が十一匹だったそうだから、こちらの五十一匹と合算すると……。
「ゴ」
「ゴ?」
「ゴブリンが六十匹超えってなんですかーっ!?」
思わず叫んでしまった。
聞けばこの二人、王都方面からタルサへ向かって歩いて来る途中、岩場にあるゴブリンの集落へ迷い込み、遭遇戦になったそうだ。
狭い回廊という地形の有利があったそうだけど、それでも一日でレベル1がレベル5に上がるほどの連戦をして、鎧に傷一つ付けていないっていうのは、どれだけ上手く立ち回ったのだろう。
【状態】の“雑魚狩りの達人”はこのせいね。きっと……。
†
一日でEランク冒険者登録から、Dランク昇級試験の参加要件まで満たした二人は、翌日のDランク昇級試験でもCランク冒険者の試験官に勝ってしまった。
この日は他にも一名、試験官に勝った者がいたけど、彼女は森精族なので、そういうこともあるだろう。
森精族は身上鑑定器で表示される、【階梯】以上に優秀なことがままある。
ましてや彼女は樹祖の直系だ。
若いとは言っても(私の五倍以上生きているけど)、どれだけの力を隠し持っているのか分からない。
負け方を見る試験で勝ってしまうなどという、滅多にないことが三件立て続けに起きたわけだ。
つまりあの二人も、表示されるレベル以上に強いということ?
波乱の臭いがするわ。
さらに翌日、森精族の所属しているパーティー三名が、順当にDランク冒険者になったこの二人と、パーティーを結成しようとしていた。
森精族のシルィーさんが所属するパーティーは、他の二名、ハンナさんリディアさんとともに、冒険者になるため今年タルサに出てきて以来、ミリアの宿“杜の下亭”に逗留している。
そこで話は聞いていたので、もしかすると……と思いながら家へ帰ると、あの二人がやはり居た。
私もここ三年ほど、姉のミリアがやっている“杜の下亭”で寝起きしていたのだ。
私の目の前で、あれよあれよという間にパーティー統合の話が進み、Dランク昇級とパーティー正式発足の勢いに乗って、“ダンジョン・ヤグト”へ挑戦しようとしたハンナさんを踏みとどまらせたのは、意外なことにタツヤさんとルナさんの二人だった。
二日前の戦果に勢いづいて突撃するのかと思ったら、意外と冷静に下準備を勧めている。
話し合いを進めた結果、パーティーは統合せず、当面は二つのパーティーを連結して共同受注するという所に落ちついた。
そして翌日には朝から資料室を訪れ情報を集め、その後“白き朝露”と“またり”のパーティー登録を行い、午後は翌日の準備をしに出かけていく。
言行が一致していて安定感がある。
この人たち、案外長く冒険者を続けられるかもしれない。
そんなことを思わせる、春の日の出来事だった。




