23 パーティー 後編
楽しかった夕食が終わり、お茶を飲みながらゆっくりしていると、ハンナが
「ルナ、タツヤ、どうだった? あたしたちの感触は」と尋ねてきた。
あたしたちの感触って、聞きようによっては危ない発言なんだが。
感触感触…
月那さんと顔を見合わせるとうんと頷いたので、俺が答えることにする。
「相性は良いと思うよ。戦力バランスも無論だけど、気持ちの面でも悪くないと思う。むしろ俺たちのレベルの低さが足を引っ張るんじゃないかと気になっているくらいだ。そこで改めて確認したいんだが、こちらは未だにレベル5だから装備面でも不利だし、戦闘経験が一昨日の一日分しかないと分かっても、俺たちを君らのパーティーに迎えたいと思ってくれるのかい?」
ハンナがリディアを見、そしてシルィーを見てから答えた。
「もちろん思ってるよ。レベル5って言うのはちょっと驚いたけど、戦力として問題があるようには見えない。むしろあたしらの方がお世話になってしまいそうだよ。
人柄も申し分ないし、ぜひお願いしたいな。一日で魔獣百匹の遭遇率にもあやかりたいしね。どうかな、せっかくDランクになった事だし、明日にでもダンジョンの浅い所で、実戦の感触を確かめてみるというのは。どう?」
一昨日のゴブリンを壊滅させた話は、だいぶお気に召したらしい。
顔が引き攣っていたが、大丈夫そうだ。たぶん。
「ダンジョンか。実戦で陣形や連携を確かめたいとは思うけど、誰かここのダンジョンに潜った経験のある人は居るのかな?」
「いえ、だれも居ないね。でも一層だとバルニエ大草原と変わりないって聞いてるから、問題ないんじゃないかな」
「そうなのか…」
どうする? と月那さんと顔を見合わせて相談すると、下調べはやっておきたいと言うことになった。そりゃそうだよな。
「誰もダンジョンのことを知らないのでしたら、明日は下調べと、必要な物資を買い出しに行った方が良い気がしますが、どう思います? ルーシーさん」
月那さんがそう言って、ルーシーさんに話を振った。
「そうね、あなたたちがタルサ市の西にあるダンジョン・ヤグトへ行くのなら、二層までは危険なことにはならないと思うのよ。三層でもたぶん大丈夫。
でも下調べはしておいた方が良いと思うわ。
行ったはいいけれど、不測の事態で下層へ追いやられたとか、何か足らないもの一つを街に買いに戻って一日ふいにするなんて嫌でしょう」
確かにそれは嫌だな。
「そこいらの手引きや地図なんてものも有りますかね。ギルドの資料室に」
「勿論あるわよ。ギルド職員としては是非とも有効活用して欲しいわね」
俺が聞くと、胸を張ってドヤ顔で答えるルーシーさんだった。
「と言うことなんだが、どうかな。明日は冒険者ギルドの資料室で事前調査と、その結果を見て昼過ぎは準備ということでは?」
「わかった。明日は下調べと買い物ね」
準備だってば。買い物するけど。
「それであなたたち、パーティー名はどうするの?」
食事を食べ終えたルーシーさんが、そう口を挟んだ。
「あたし達としては、村からずっと内輪で使ってきた“白き朝露”をパーティー名にしたいんだけど。どう、かな?」
ハンナがそう言って、チラリと流し目でこちらを見てきた。
その瞬間、さーーっと音を立てて、俺の顔から血の気が引いた。
痛い。痛すぎる。
女の子ばかりのパーティ名としては、可憐でよく似合っていて良い。
いいのだが、そこに男の俺が一人で混じるのは、あまりにも痛い。
“白き朝露”の敦守達也…
駄目だ、ここは何としても阻止せねばなるまい。
「済まない。さっき言ったような事情があるので、パーティー名は予定していた“またり”から変えたくないんだよ。本当はパーティー名ではなく、“body(集団)”名なんだが。ルーシーさん、こっちではパーティーが集まった集団のことを何て呼ぶんです?」
「“提携”、じゃあなくて“派閥”のことよね。もとは氏族とか一族という意味よ。でも派閥を名乗るにはパーティーランクも人数もパーティー数も足りないわよ」
「はい。ひょっとしたら俺たちと同じように流された知り合いがいるかも知れない。もしそうならと考えると、ここに居るぞと知らせる目印になる名前を付けられる機会を見逃したくはないんですよ」
「……そういう話なら…」
「ルーシーさん。複数パーティーで共同受注というのは出来るんですか?」
そこへ月那さんが口を挟んできた。
「できるわよ。受注案件を譲渡するのは禁止されているけど、複数パーティーで共同受注はできるわ。人手が増えること以外にメリットがない割りに、報酬の分配で揉めることが多いから、やる人は少ないけどね」
「ありがとうございます。まずは二パーティーの共同受注という形でやってみてはどうでしょう? 別パーティーだけど、内情や行動は一つという形にして、問題があるようならまたそのとき考えると言うことでは?」
「…いいよ。それでいい。ともかくそれでやってみよう」
三人で確認してから、ハンナが代表してそう言ってきた。
そうして話はうまくまとまった。
うまい夕食も終わった。
パーティーの方向性も出た。
なにより、俺たちのパーティー名が“またり”に決まった。
懸念が消えたら気分良く、締めはお風呂だね。とハンナが盛り上がったので、きょうもお風呂へ向かうことになった。
聞くと、杜の下亭の泊まり客も、杜の下湯の入泉料は不要になるらしい。
それもあってハンナたちはこの宿に長期滞在して、お風呂に入り倒しているのだそうだ。
全員でテーブルを離れて出かけようとすると。
「あなたはこっちで手伝いねっ」
「あーれ─。タツヤさーん、明日組合へ来るなら、一昨日の報酬が出ているわよ──」
そう言い残して、ルーシーさんは笑顔のミリアさんに連行されていった。
合掌。
†
───ふう─。
今日も一日乗り切ったな。
“杜の下湯”の湯船に浸かり、俺は一日の疲れを吐き出していた。
こちらへ来てからストレスマックスの筈だが、何故か割と居心地良いんだよね。なんでだろ。
風呂と美味い飯があるせいか。
冒険者パーティーもなんとか始められそうだし、まずまず順調かな。
ん──、いいお湯……
───わたし達、冒険者始めました。───
続きます(笑)




