22 パーティー 中編
鎧を羽織りに替えて食堂へ降りると、三人はすでに席に着いていた。
三人とも平服に着替えているが、とうぜん杖と短剣で軽く武装したままだ。
さすがに弓は嵩張り過ぎるようで、部屋に置いてきたらしい。
「おまたせ」
と言って、俺たち二人も席に着く。
「それじゃあ始めようか。
ここに居る全員が無事Dランクへ昇級したことだし、そのお祝いということで、乾杯から始めようよ」
とハンナが提案した。
あらら、自制していたのにお酒が来ちゃったよ。
まあいいか。これも機だな。
杯の準備をする間に「この辺りだと酒は何歳くらいから飲めるんだ?」と尋ねると、「酒を飲むのに歳は関係ないだろう?」と返された。
ここには飲酒制限の法律はないようだ。
「まあ、大抵は親が飲ませないけどね。子供の舌じゃ酒の味が分からないから、勿体ないよ。それで、成人するとお祝いに酒を飲ませるというのが多いかな」との事だった。
「それじゃあ何歳で成人するんだ?」と質問を重ねると、十五歳だそうだ。
「うちは、百五十歳から、二百歳の間、で……」
うん、うちら三世代はかわるね、それ。
下手すりゃ七代かわるよ。祟りかい?
ハンナは十七歳、リディアは十六、シルィーが百三十二歳(笑)で問題なし。
俺は二十七なのでもちろんok。月那さんが十八歳で、向こうだとNGなんだが、こちらだとセーフか。
まあ郷に入っては郷に従えと言うからな。ここは何も言うまいよ。
「それでは全員のDランク冒険者へランクアップを祝って、乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
乾杯のグラスは蜂蜜酒だった。甘~い。
甘いので、女の子たちは大喜びだ。
俺?、俺はまあ酒飲みじゃないんで、文句はないな。料理には合いそうだし。
「タツヤの故郷では酒は何歳から飲めたんだ?」
先ほどの話題が続いているようで、ハンナが聞いてきた。
「二十歳からだな」
「またなんで!?」
と、即行で聞き返されたので、
「頭や、頭から手足へ命令を伝える神経という組織が、育ち切る前にアルコールを飲用すると、ものを考える力や手足を素速く正確に動かす力に支障が出る。って聞いているぞ」
ぴたっと止まって、そぉ~っとグラスを戻す三人の様子が可愛らしい。まあこちらだと直接命に関わるから無理もないのか。
月那さんは、黙って舐めるように飲み続けている。
でもシルィーさん、あなたの種族のことは知りませんからね。
わいわい言っている間に、まず小魚と野菜たっぷりのカルパッチョ風な皿が出てきた。
魚の旨味と、爽やかな酸味が食欲をそそるな。
出てくる料理をおいしく頂いていると、
「ねえ、お互い相手のことがまだ分かっていない訳だから、質問コーナーしない? 一問一答!」
リディアがそう言ってきた。
月那さんと顔を見合わせて、「いいよ」と答えると、「ハイハイハイ」と手を上げてくるハンナ。
はい、ハンナ君。
「タツヤとルナは、なんでレベル1装備を使っているのかな? お金ない?」
お、さすがパーティー編成を目指すリーダーだ。相手の情報収集に余念がない。
「フッ、それはね、二人ともまだレベル5だから、上のレベルの装備が着けられないのだよ」
と答えてやったら、「ウソッ!」と盛大に驚いた。そして、
「レベル5でCランクに勝つって…」と、何か名状しがたいものを見るような目で見られてしまった。
ウソじゃないよ。機会があれば身上鑑定器の表示を見せてあげよう。
女の子三人の方は、ハンナがレベル15、リディアがレベル14、シルィーはレベル23だそうだ。
回復術士などの支援系魔術師は、どうやって経験値を稼いでいるのかと思ったら、仲間への支援、相手への弱体化などで、ちゃんとレベルが上がるのだそうだ。
だから、誰が判定して何処に記録されているんだよっ。
それはさておき俺たちと彼女たちの間に、二倍で利かないレベル差があるのは事実なので、それが理由でパーティー締結が流れたとすれば、まあ仕方のないことと諦める心積もりをしておく。
隠しておいて、あとでバレた時の方が問題が大きそうだ。
次は俺から、「三人はどういう関係なの?」と聞くと、リディアが答えた。
「わたしとハンナは幼馴染よ。シルィーは、森で山犬の群れに襲われていたのを、私が助けたのが縁で村に住み着いて、わたしとハンナが冒険者になりにこっちへ来るとき、一緒にきたの」
助けた? 支援術士って戦闘力皆無とか言ってなかったっけ。あの強力な風(?) 精霊術士を、助けたの??
俺と月那さんが、揃って不思議そうな顔を向けると、シルィーがそのときのことを話してくれた。
「あの、とき、は、……」
この国へ入って一年が過ぎた頃、森で山犬の群れと遭遇して戦いになったとき。山犬の数が多くて、近付かれる前に六頭は弓で仕留めたけど、四頭と接近戦になった。
無傷で完勝とは行かなくなってしまったけれど、魔術剣を使えばまあ問題なく乗り切れるだろうと考えていたとき、突然山犬の足が遅くなって、自分の怪我が治り、さらに体が軽く動くようになった。
「それ、は、偶然、その場に、行き合わせ、た、十三歳の、リディア、が、山犬に【減速】を、私に【治癒】と【加速】、の支援、をかけた効果、だった。と、いうわけ」
そこから一気に押し返し、残りの四頭も無事に片付けたのか。
リディアさん、十三歳にして支援術士として一端の働きをしてたのだなあ。
なお、途中の意訳は、敦守達也がお贈りしました。
シルィーの口調だが、声変わり前のエルフは、皆こんな感じなのだそうだ。
そうか、声変わり前なのか。
「あと二十年、から、長くとも、五十年、あれ、ば、天上の、美声を、聞かせ、て、あげられ、る。んじゃないかな」と言って胸を張っていた。
そりゃ生きてないかも知れんね、俺。
というか、もっと早く元の世界に戻りたいな。
どちらにしても、天上の美声とやらは聞けないのか。
トホホだ。
「では、私、から、質問。ルナ、が、実技、試験のとき、使って、いた、のは、魔術、剣?」
「魔術剣? それって何でしょうか?」
月那さんが首をかしげて聞き返した。
シルィーとリディアの説明によると、魔術剣というのは、剣などの武器に術の力を纏わせたものだそうだ。
風か水の魔術が使われることが多く、魔術が付与された剣を「魔剣」と呼び、これは術士でなくとも魔力さえ込めれば誰でも扱える。
そして、術者が剣に魔術を纏わせて使うのが「魔術剣」と呼ばれるらしい。
先ほどの山犬の話で、後半戦シルィーが使ったのが、その「風の魔術剣」だったそうだ。
短丈を柄に見立てて、風の刃を伸ばすのかね。
どこぞのゲームのヒロインが使っていた、見えない剣みたいだな。
相手をする方は、たまったものじゃないな。
しかし肝心の月那さんは、頭にハテナマークを浮かべて首を傾げている。
まあ月那さんの使う剣自体は、俺が貸した紛うことなき普通の両手剣だからね。
とすると、昇級試験では月那さんがスキルを使ったのか。
無意識に?
正体のよく分からない“流体制御”のスキルか?
要検証かな、これは。
「ハイハイ」っとリディアが手を上げる。
「それで、タツヤ、ルナは、どういう関係なの?」
「俺の妹の友人だ」
「私のお友達のお兄さんです」
以上。
「じゃその妹さんは?」
一問一答じゃなかった。
「生き別れた。一昨日な」
「お、おととい」
ちょっと引かれた。
「それで元の場所へ戻る方法を探すために、魔獣との戦闘を始め、レベルを上げて移動の自由を手に入れようとしているんだよ。ここでは弱いままだと何処へも行けないからな。絶賛迷子の真最中なんだ」
そうなんだよな。
あのとき真幸も「七国」にログインしていたと思うんだ。
あのあと一体どうなったのやら……。
「つぎは私から」
場の空気を入れ換えようとしたのか、月那さんが質問した。
「リディアさんはランクアップ試験を受けずに、試験のお手伝いをしていましたけど、なにか事情があるんですか?」
「それはね、リディアのような支援系の術士は、本人の戦闘力がほとんど無いことが多いから、試験代わりに試験の支援をしてもらっていたのよ。ギルドへの貢献も兼ねてね」
後ろから聞こえた声に振り返ってみると、冒険者ギルドのルーシーさんが立っていた。
「こんばんは。話は進んでる? ここ座らせてもらって良いかしら」
と言ってルーシーさんが、俺のとなりに腰を掛けた。
なんで? という疑問を視線に乗せて、ハンナの方を見ると、
「この宿をやっているミリアさんは、ルーシーのお姉さんなんだよ。ルーシーもここに住んでる」
「父親がね、店の経営を四人の子供に分けたのよ。兄二人は“杜の東亭”と“杜の北亭”をやって、姉がここ“杜の下亭”を担当して、わたしが共同浴場の“杜の下湯”を受け取ったのだけど、ギルドの仕事があるから母に見てもらってるの」
ハンナが答え、ルーシーさんが補足した。
まだ“杜の北亭”なんてのがあるのか。と思ったら、商業区と北の居住区の境にある商人宿だそうだ。
いやそれよりも、湯屋で受付していたお姉さんが、ルーシーさんのお母さんだったのかね?
「お父さんは?」
「元気よ。ぴんぴんして、工房区で“杜の西工房”をやってるわ。宿や浴場の設備は父の仕事よ」
がっつりと一族経営だった。
「杜の」シリーズ恐るべき。
資本家一家だ。
というか、設備品の工房? ちょっと気になるかな。
はっ、それよりギルドで宿を紹介されたのも…
「違うわよ。タツヤさんが出した条件がちょうどぴったりと合っていたのよ。
ギルド支部から一番近くてお風呂のある宿か、一番近い共同浴場と浴場近くの宿よね。お風呂のない宿なら他にもあるから」
回り込まれてしまったが、なるほど、納得しました。
ルーシーさんの夕食とともに、俺たちの夕食も最後の皿が出てきた。
ミートパイだ。ジューシーでほくほくだよ。
ルーシーさんがお姉さんに「あなたも手伝いなさいよ」と言われて、「駄目よ。ギルド期待の新星が手を組もうとしてるのよ。見逃せないわ」とか答えている。
自宅だと随分自由だな。
「それで何処まで話が進んだの」と訊かれたので、「シルィーが月那さんの実技試験を見て、魔術剣みたいだと言ってましたね。パーティーの話は進んでいませんよ」と答える。
「そう」と言って食事に集中し始めたルーシーさんは、黙々と夕食を片付けていった。




