21 パーティー 前編
Dランク冒険者証を受け取り、Dランクの依頼にはどういったものが出ているのかな? と、月那さんと二人で依頼票を眺めていると、こちらも無事にDランクになったハンナが近づいてきた。
「二人ともお待たせ。まずはうちの顔ぶれを紹介するよ。
支援術士のリディアと、魔術士のシルィー。あたしはハンナ、狩人だよ」
「こんにちは、リディアです」
「こんにち、は、シルィー…」
「みごとに後衛揃いだね。タツヤです、よろしく」
「ルナです、よろしくです」
ランクアップ審査で一緒だったが、あのとき見た女の子全員が同じパーティーだったのか。
同郷で同性なら、まとまって行動するのも自然な流れだな。
リディアと呼ばれた娘は、実技試験の時に治療を担当していた回復術士の少女だ。小柄だが華奢という感じはしない。長丈を持ち、術士の法衣を纏い、アッシュブロンドの髪に帽子を乗せている。
シルィーは、片手剣使いに勝ったエルフの娘で、身長は俺と同じくらい、翆の髪と碧の瞳、細身で華奢な体にするりとした膝下のワンピースを着て、下はズボン。腰のベルトに短丈を差し、頭に金属環を嵌めている。
耳は○ルカン星人よりも少し長い程度の、古式ゆかしきファンタジー仕様だ。
いいね。
ハンナは革の兜から覗く短く刈った真っ赤な髪が印象的で、身長は俺より少し低い百七十センチくらい。ざっくりとした簡素な衣服から覗く腕はよく引き絞られていて、背負った長弓で相当な距離を射抜くだろうと想像させる。
朴訥そうな唇と、よく見通していそうな鳶色の瞳の対比がおもしろい。
髪色の鮮やかさが印象的なハンナが、長く伸ばしたらなかなかの迫力になりそうなんだが、短髪のハンナをはじめとして、他の二人も肩の上までと短めなのは、仕事柄なんだろうね。
ところで、ゲームの「七国」にジョブシステムはない。
ただし、システム上のジョブはないが、職業は存在していた。
本人の意思や好みで偏りが出るので、それを助長するように補正が働くのだ。
つまり装備をととのえ、そうあらんとする行動を取っていると、多用する行動に向いたパラメーターが補助付きで伸びていくという仕様になっていた。
なので本人の意思、幼少期からの生活環境、親からの遺伝によって職能適性が定まり易い、現実世界に近いシステムアシストという事になるかな。
この現実での職業の意味はまだはっきりしないが、ゲーム「七国」であってもハンナの職業「狩人」は、山や森で弓や罠を使って獲物を獲っていたのなら、職業として立派に成立していた。
そして目には見えない力を用い、人の意を汲む現象として顕現させる者たち。
彼らは術士と呼ばれている。
リディアのように、味方の回復や補助を役割とする“支援術士”。
シルィーのように、人がその内に持つ力を現象に変換して外界に干渉する者が“魔術士”だ。
元の現実には存在しなかった職業なので、ちょっと感動している。
月那さんも、術士への志望が再燃するかもしれないね。
「じゃあ少し早いけど、食事場所へ移動しましょうか。あなたたちは何処に寝泊まりしてるの?」
「今朝、杜の東亭という宿を引き払って、今夜から居住区の杜の下湯の先にある宿へ移ろうかと思ってます」
「へぇー、それは都合が良いかしら」
リディアが訊いてきたので、隣に居た月那さんが答えた。
「都合がいいんですか?」
「今夜の宿が決まっていないなら、そこへ戻る必要がないから、出かける先が自由になるじゃないですか。フフフ」
「なるほど、そういう考え方ね」
俺が聞き返すと、そんな返事が返ってきた。
おかしくないよな。
それではと移動を始めた。
月那さん、リディア、ハンナが先を行き、俺とシルィーが後ろを歩く。
一昨日から緊張の連続だったのが、同年代の女の子同士の話ができて嬉しいのか、いつもの六割増しくらいで月那さんの口数が多い。
それでも他の二人に及ばないのがご愛敬だが。
「君はあっちに混ざらなくていいの?」
と、隣を歩くシルィーに話しかけると、
「うん。いちおう同性、だけど、寿命の違い、から来る、感性の違い、がある。からね」
「一応? エルフ、なんだよね? 俺の故郷では見なかったんで分からないんだけど、そんなに違うものなの?」
見たところ、それほど違和感は感じない。
「うん。ボク、いま、百三十二歳。思春期、直前。未分化の、ぴちぴち。初めての、ひとり、旅中」
「お、おう」
エルフはほんとうに長寿なんだ。相当な違いだった。
未分化って、単に二次成長前ってことか? それとも男女の別はこれから決まるのか? どちらにせよまだ天使なんだな。エルフとしては。
そりゃあそこに混じって楽しいかどうか怪しいか。
「しんぱい?」
「ん?」
「彼女のこと」
「まあ。大切な預かりものだしね」
「そう」
それきり会話はなく、俺たちは、前を行く三人が楽しく話す声を聞きながら歩いた。
そして到着した先は。
“杜の下亭”という看板がかかった宿だった
なんでやねん。
「あたしらここに長期滞在してるのよ。あなたたちもここへ移るつもりだって言ってたからさ、すごい偶然だよね」
「ささ、入って入って。ただいまー」
ハンナとリディアが、妙に高揚した様子でそう言って宿の扉を開ける。
「お帰りなさい。その様子だと無事に昇級できたみたいね。そちらは? お客さま?」
「ありがとうミリアさん。めでたく全員Dランクになったよ。それと、一緒に昇級したルナとタツヤだ。二人もここへ泊まるそうなんで、部屋をお願いね」
「そう、皆さんおめでとう。今日はお祝いね。ルナさん、タツヤさん、ようこそ“杜の下亭”へ、主人のミリアです。ようこそお越しくださいました」
「それじゃルナ、タツヤ。部屋に荷物を置いたら、食堂へ来てくれ」
あれよあれよ、という間に話が進んでいった。
彼女たちの滞在宿だったのか。
まあいいか、どのみちここへ泊まるつもりだったし、問題ないだろう。
諦めに似た感情を抱えながら、俺はそう結論づけた。
流されてるなー。
冒険者証を出して身元確認をし、二人で一泊大銀貨一枚と銀貨四枚ですよと言われた。
をを、部屋次第だが、東亭よりだいぶお安いな。
とりあえず五泊分を頼み、今夜の食事の自分たち分をここから出して、明日精算してもらうことにして、金貨一枚を渡した。
代わりに鍵が一つ渡される。
ん、一つ?
あ
二人部屋で話が進んでいたのか。
どうしたものかと月那さんを見ると、下を向いて小さくこくこく頷いている。
まあいい、まだ独り寝が無理そうなら、このまま行くか。
鍵は、一つだけ受け取って、必要になったとき二つ目を出しても良いし、最初から二本出しても良いそうだ。
ありがたく二本貸してもらうことにする。
二人とも収納があるので、うっかり紛失してしまう心配はない。やったね。
部屋は二階の奥から二部屋目だった。
中に入ると、寝台が二台ある形の二人部屋だ。
意外に窓が大きく開放的で、化粧台を兼ねた机があるのが、元の世界の宿泊施設を思い出させる。
着替えの目隠し用なのか、部屋の一角を間仕切る布が掛けられていた。
これなら何とか暮らせるかな。




