20 講習会 結末
さて、本日最後の講義、戦闘訓練である。
正しくは、日々の戦闘訓練のやり方の講義だ。
一つ。
走る。
走ることで、武器を振るう土台となる筋肉をつける。そして継戦能力を高めるための持久力を養う。
ただし、魔術に適性のある者は「身体強化」を使える場合があるので、必ずしもこの限りではない。
だがその場合でも、柔軟体操は必要だそうだ。
二つ。
素振り。
“斬撃”の基本、
上から下への切り下ろし
右から左への横薙ぎ
左から右への横薙ぎ
下から上への切り上げ
右上から左下への切り下ろし
左上から右下への切り下ろし
右下から左上への切り上げ
左下から右上への切り上げ
の八種類。これに“刺突”の
突き
を加えた九種類の基本を、刃立てを意識しながら繰り返す。
三つ。
攻撃を仕掛ける直前の、静止した状態を長時間維持できるようにする。
これが碌に出来ないと、簡単に機を外されてしまうらしい。
それに、相手と向き合い隙をうかがっている間に、気力、体力、集中力を消耗して限界を迎え動けなくなったとか、我慢が限界に達して先に動いてしまった。なんていうのは締まらない話だ。
武器を振るうばかりが戦闘ではない。
四つ。
強い者の戦いを見る機会があれば、その戦いの組み立てを考える。
理想としては、そのときの戦いの一部始終を、頭の中で再現できるようになること。
見取りとか黙念師容と言われる修練だね。
これら一から三の動作を、一つにつき十五分くらいづつかけて続けたが、地味に大変だった。
本気で剣士や槍士などを目指す連中は、これらの動作を数時間単位で毎日続けると言うのだから、正気じゃない。なんて失礼なことを考えつつも、強い者は強くて当たり前な行動を、日頃から時間を振り向け続けている。
言ってみれば戦闘方面のオタクなんだな。と、なんだかいろいろ納得した。
脳筋とか思ってすまん。
冒険者は、剣や槍などの武器を振るうが、正式に道場などで戦闘技能を習った者は少なく、ほとんどが思い思いに武器を振るいながら、実戦の中でその扱いを覚えていく。
だが適性は無視、基礎は知らずではなかなか強くなれるものではない。
武器の扱いが拙いばかりに命を、そこまで行かなくても手や足を失くして、冒険者を続けられなくなることは珍しくない。
だから日々こういう訓練を重ねるものだという、基礎の触りだけでも見せておこうというのがこの講義の目的らしい。
ちなみに剣術道場や、対人戦闘の想定比率が高い騎士団などでは、基本の九種に足運びを加えて連続させた「型」と呼ばれる一連の動作と、立てた木の棒や木製の人型を相手に実際に攻撃を当てる「打ち込み」という訓練をするそうだが、対魔獣戦闘が主体の冒険者では、そこまですることは少ないそうだ。
「以上で戦闘訓練の講習を終える。
今日は火や水を使うこともあって、この広い訓練場を使ったが、十メートル四方ほどの屋内訓練場と、屋外の訓練場もある。
訓練をする場所が欲しいと感じたときには、ギルド受付に相談してくれ。
以上だ。
ギルドの事務方が来るまでここで休んでいてくれ」
そう言い終えて“怒濤の山津波”の四人は、ギルド本館棟へ戻っていった。
俺と月那さんは、礼をして四人を見送った。
なんとなくその場で休んでいると、しばらくしてルーシーさんが訓練場へやってきた。
「皆様、一日お疲れさまでした。
まず、ランクアップ審査の結果ですが、全員合格です。おめでとうございます。
皆様方は今後、ソロでもパーティーでもDランクの依頼が受注できます。Dランク依頼での実績が溜まれば、パーティーでCランク向けの依頼が受注できるようになりますので頑張ってください。
それでは皆様、手続きをいたしますので、本館へ移動をお願いします」
全員まとまって受付へ移動し、順番に手続きをしていった。
やがて俺の順番が来て、ルーシーさんの前に立つ。
「タツヤさん、ランクアップおめでとうございます。それでは、Eランクの冒険者証をお出しください」
そう言われて持っている冒険者証を渡すと、お馴染みの鑑定器に、新しい冒険者証と一緒に繋いだ。
古い冒険者証が赤っぽい金属なのに較べて、新しい冒険者証は白っぽい色をしている。銅から青銅か。
そして登録のときと同じく板に手をかざして、ルーシーさんが向こう側で操作をすると、
「これでこのDランク冒険者証は、タツヤさん専用となりました。内容を確認してください」
と言われて表示を見ると、【状態】欄に「Dランク冒険者」という項目が追加されていた。
そうか、Eランクに登録したときは、冒険者になる前に鑑定内容を確認したから初めて見るんだな。相変わらずの謎技術だよ。
改めてこの不思議な技術に感心していると、ルーシーさんから
「Dランクからは所属パーティーをギルドに登録できますけど、ルナさんとパーティー登録をされますか?」
と尋ねられた。
パーティーを登録すると、パーティー共有口座を設定できるのだそうだ。
パーティーの口座へギルドからの報酬の払い込みは当然として、報酬を参加人数で割って構成員各々の口座へ振り分けて払い込むなど、振り分け条件の設定ができるようになる。
そのため、稼ぎと構成員数が増えるほど利点も増えるという仕組みらしい。
二人きりではそれほど良いことはないのだが、逆に悪いことも無く、さらに他の理由もあって、パーティー登録はしたいと考えていた。
「そのつもりでしたが、後ろのハンナからパーティー加入の打診があって、この後顔合わせをするんですよ。ですからその結果をみて考えます」
と答えると、妙に明るい笑顔を浮かべて
「あら、さっそくおモテになっているのですね。分かりました。それではタツヤさんの今後のご活躍をお祈りいたしております」
登録はすぐにできますからね。というルーシーさんの声を聞きながら、月那さんと入れ替わった。
赤い冒険者証くん。短い付き合いだったね。さらばだ。




