18 講習会 中編
少し早めの昼食休憩かな? と思っていたら、訓練場へ移動をするように言われた。はて?
訓練場に到着すると、昨日の実技試験で相手をした“怒濤の山津波”の四人が、積み上がった荷物とともに待っていた。
どういうことだ?
「これから野外活動の基礎を講義します。この講義の途中に、実習として調理をはさみ、その成果で昼食として、休憩も取ります。実習の担当は、昨日の実技試験で相手をしてもらったCランクパーティー“怒濤の山津波”の方々です。
それでは“怒濤の山津波”の皆さん、お願いします」
ルーシーさんがそう紹介すると、中肉中背の男が“怒濤の山津波”から進み出た。
「Cランクパーティー“怒濤の山津波”のリーダーをしているスレインだ。今日は屋外活動でいかに効率良く休み、体調を維持するかについて講義する」
冒険者の活動範囲は、街中から街道、草原、荒野、森、ダンジョンに至るまで多岐にわたる。
仕事が終わって家に帰れる場合は問題ない。宿に泊まれる場合もだ。
だが、街近くのダンジョンでも中層に至れば、現場への移動だけでけっこうな時間を費やしてしまう事になる。
護衛や運搬依頼で長距離を移動する場合も同様だ。
そう言った場面で必要となる野営の基礎を講義する。ということらしい。
話の途中で肩をトントンと叩かれたので振り向くと、ルーシーさんが内緒話をするように口を寄せてきた。
耳を寄せて話を聞くと、「昨日の実技試験でノルドがタツヤさんになにか変な事を言ったらしいけど、それギルド長がやらせたそうなのよ。責任はギルド長にあるから、ノルド達を恨みに思わないであげてもらえる?」と言ってきた。
ノルドと言うのは、実技試験で俺の相手をした大男の名だそうだ。
あれはギルド長の差し金だったのか。ちょっと本気を出しやすくしてくれたと言うことか。なるほどね。
「わかりました。文句はギルド長に言うことにします」と答えると、ルーシーさんは、笑ったような困ったような微妙な表情で離れていった。
まずは件のノルドが荷物の一つをほどいて中身を地面に並べた。
天幕のようだ。
もう一人が手伝い、二人で手際よく天幕を組み立てていく。
じきに、よく見かける三角の天幕が組み上がった。
「こういう作業を二人から三人の組でやってもらう。やり方はその都度こちらから指示を出す。それでは実技試験の順で二人ずつ組んで、最初の二人、どの包みでも構わないので中身を出して広げてくれ」
そうして“怒濤の山津波”による屋外活動講座が始まった。
ただ防水布を斜めに張るだけのものから、中に机が置けそうなものまで様々な天幕を順に組み立てていった。
俺たち二人も、中央に柱を立てて四方に引っ張る、四角い寄せ棟屋根の天幕を、無事に組み立て終えた。
最後の三人組の中で、昨日話しかけてきたハンナという少女は経験者らしく、飛び抜けて手際が良いのが目を引いた。
衣食住の“住”が用意できたら、次は“食”である。
この講習は、護衛依頼や輸送依頼の途中、街道に備え付けの野営場で泊まる場合を想定しているそうだ。
ダンジョンや森の中だと周りの魔獣を刺激してしまうために、最初から火を使った調理などは望めない。乾パンや糧食を水で流し込むのが精々で、食事と言えるほどのことは出来ないそうだ。
野生の動物と違って、火のある所に獲物ありと寄ってくる魔獣というは面倒臭い相手だな。
また宿へ泊まれるのなら宿や食堂で食べられるので、自分で食事を用意する必要はない。
だが、護衛任務で野営をする場合は、自分の食事は自分で用意するのが普通で、依頼者とは別に作り、別に食べ、別に眠り、そして夜間は警備をする必要があるのが一般的だそうだ。
護衛任務なら食事は一緒にという場合もなくもないが、輸送任務や、自身の目的による移動なら、なおさら自分たちで食べるものは自分たち自身で用意するより他ない。
緊急時に一食や二食抜くことはあるかも知れないが、基本ひとの体はキチンと食べてキチンと眠らなければ、十全の性能を発揮することは出来ないのだ。
と言った“怒濤の山津波”のスレインが、捕れた状態のままの角ウサギを解体し始めた。
血はあらかじめ抜いてあるようで、内臓を抜き、皮を剥ぎ、肉を部位ごとに切り分けていく。
あっと言う間に食用肉が出来上がった。
「解体が出来るようになれとまでは言わない。だが、現地で肉が調達できたとしても、解体が出来ないと食べものにはならないのだと言うことは覚えておいてくれ。
お前たちにやってもらうのはこの後の調理だ」
と言って、四角い長持の蓋を開けると、長持の一つには乾燥させた植物の可食部が、一つには解体済みの肉が、一つにはパンと調味料が、一つには食器が、最後の一つには浅いの深いのが混じった金属の鍋や串や棒が入っていた。
もちろん竈の材料になる石と、焚き付け各種もある。
水は瓶が用意されていて、訓練場の裏手にある水道(!)から汲めた。
この作業で作ったものが今日の昼ご飯となるのだそうだ。
先ほどと同じ班分けで、自分たちの天幕前で始めるようにと号令がかかった。
うーん、こう来るとは想像していなかったな。
だがまあ、昼食を抜きたくはないので、どうしようかと月那さんと相談する。
ふたりともアウトドアの趣味はなく、バーベキューなどもしないと分かったので、難しく考えるのはやめにした。
肉、野菜、パン、スープ(白湯でも可)をなんでも良いから揃えようという大雑把な方針で、俺が竈を作って火を起こしているあいだに、月那さんが材料を集めてきて下拵えをしてもらう。という役割分担をすることにした。
まずは、そのために用意してあると覚しき、対向する辺が平らで大きな石を四個と小さな石を数個、鉄棒を二本確保。
先ほど作った天幕から少し離して、開口部を対向させる形に大石を「 冂 」の字型に並べたら、薪と焚き付けと、種火は燐寸があったのでこれも使わせてもらう。
松毬を藁で包んで置き、それに細木をナイフで毛羽立たせて上に乗せ、燐寸を擦る。
乾いているのでわりと簡単に火が点いた。
細木に火が回ったら毛羽立たせてない細木を足して火を大きくしていく。
そして裂いた薪から割った薪にまで火が移れば完成だ。
月那さんはと見れば、残る一つの大石を調理台にして奮闘していた。
瓶の水を汲み、金属の小鍋に水を分けて竈にかけ、残りの水で食材と食器を洗い、野菜と塩した肉をナイフで一口大に切って金串に挿していた。
ネギマか。じゅるり。
鍋が熱くなってきたら、金串も鉄棒と並べて火に掛ける。
「粉末スープがありましたよ」と、木の椀にスープの素と乾燥野菜を入れて待機する月那さん。
あとは湯が沸き謎肉大葱間串が焼けるのを待つばかりだ。
周りを見渡すと、全員と何とかなっている。女子三人組などは、どこの野外パーティーかってくらい色取り取りだ。
これまで焚き火で調理する機会などなかった、現代人の俺たちが一番危なかったんじゃないだろうか。
「よし、全員充分食べられそうになっているな。
出来上がったら食べて良し。
今から一刻ほど休憩にする。
持ち込みの弁当などがあれば、それもここで食べて良い。
建物からは出ないように。
余裕があれば、他の者が建てた天幕の使い心地も確認しておくように。
休憩後は片付けから始める。
それでは休憩!」




