12 Dランク昇級試験 前編
目が覚めた。
朝らしく、窓のカーテンから弱い光が透けて見える。
右腕がふんわり温かいので布団をめくってみると、月那さんが俺の腕を抱き枕にして眠っていらっしゃった。
起きる気配がないのだが、腕をがっちりホールドされていて、俺も起きるに起きられない。
他に出来ることもないので、彼女の寝顔を眺めていた。
やや額の広い、瓜実顔のきれいに整った顔が寝息を立てている。今風のではないが美人さんだ。肌もきめ細やかで、さすが十代という張りである。
光が刺激になったのだろうか、やがて薄らと目蓋が上がる。しばらく目の焦点が合っていなかったが、ふと気付いたようにこっちを見て目が合った。
「おはよう。よく眠れたね」
と声を掛けると、一瞬で頬に桜を散らして飛び起き、自分の部屋へ飛んでいった。ピュピュンって。
少しすると、扉をノックする音が聞こえ
「おはようございます、達弥さん。その、ちょ、朝食に行きませんか」と声を掛けてきた。
そこから始めるのね。と微笑ましく思いつつ返事をして、着替えてふたりで一階へ向かった。
フロントの前を通ると
「おはようございます。昨夜はよくお休みになれましたか。脱衣所の洗面が使えますので、よろしければお使いください」
と言われて、即決でそちらへ向かう。
男女に分かれて、洗面その他、朝の行事を済ませてすっきりしてから食堂へ向かった。
朝食は、元の世界のホテルの朝食と変らない。ただしコーヒーはなくて香草茶だ。
月那さんも「牛乳がないです」と溢しながら果実水を飲んでいた。
I want some coffee.
コーヒー飲みたいぞ。
受付の時計を見ると、八時を過ぎたところだったので、街をぶらぶらしながらゆっくり冒険者ギルドへ向かうことにしよう。
部屋まで戻るのも面倒なので、先ほどのように洗面に向かう。
羽織を除装し鎧を着装すれば準備完了だ。装備品は装着した状態で出し入れできるので、素速くて便利だね。
そして今、収納の新たな使い方が明らかになった。
昨日ゴブリンの魔石をストレージ内で抜き出したのと同じ感じで「鎧だけ」を取り出したところ、鎧に付いていた血糊などを収納内に残したまま取り出せたのだ。
すみません。バタバタし過ぎていて昨日は装備の手入れをしていませんでした。
服や肌着なども同じで、一度収納して服や肌着だけを取り出せば、埃や皮脂や垢やらを、中に残して取り出せた。
残ったものは「付着物」として集められているので、ときどき捨ててやれば大丈夫だろう。
簡単清潔な健康環境を手に入れました。やったね!
剣も鎧も一瞬できれいになるのだが、手入れはできないので何とかならないかと思う。
人の欲望には際限がないね(笑)。
月那さんが気付いて、すっ飛んで来て教えてくれたのだが、それからあれこれ出し入れを試していたら結構な時間になってしまい、今回は街巡りをあきらめてまっすぐ冒険者ギルドへ向かう事にした。
月那さんのテンションが目に見えて高い。
嬉しいんだろうな、清潔が一歩前進して。
†
冒険者ギルドへ着くと、すでに入口は開ていて出て行く人が多い。依頼をこなしに出かける人たちなのだろう。
今し方、朝2鐘が鳴ったので、タイミングはいい感じだと思う。
俺たちは出てくる人の間を縫って、冒険者ギルドへ入った。
へー、これが冒険者ギルドの朝の風景か。
まだそこそこの数の冒険者が、受付前の掲示板に集まり、依頼票を物色している。
夜遅くに戻ったのか、朝から報告や買い取りをしている人もいる。
中には打合せ区画に直行して、さっそく一杯始めている人たちまでいた。
小説などで目にすることはあったが、直に自分の目で見るのは感慨深いものがあるな。
昨日と同じで、奥のカウンターには並ぶ人が少かったので、俺たちはそちらへ向かう。
すぐに順番が来て、二人でルーシーさんの前に立った。
「おはようございます。Dランクの実技試験に来ました」
「おはようございます。早いですね。もう少し人が来ますので、奥の屋内訓練場でお待ちください」
という事だったので、案内表示に従って奥へ進み、昨日素材を出した場所を通り過ぎ、さらに奥へ進んだ先に、結構な広さの屋内訓練場があった。
目の前には、長い奥行きの中程まであるU字型の観覧席に囲まれた土間が広がっている。
明かりとりの窓があるのと、切り妻屋根の端と中央の全体が跳ね上がっていて、そこから空気と光が入り込んでくる。
屋内だけれど暗い感じはない。
観覧席に座って待っていると、ぼつりぼつりと人が集まり始め、最後にルーシーさんと昨日の四十代のおっさんが現れた。
あれ? ルーシーさん受付じゃないの?
「受験者は集まってくれ」
おっさんが言うので、そこへ集まる。
「冒険者組合タルサ支部、組合長のドレイクだ。これからDランク冒険者へのランクアップ実技試験を始める。
やることは簡単だ。用意した冒険者と戦ってもらう。相手はCランクだ、勝てなくて不思議じゃない。格上相手にどういう対処ができるのかを見る試験だ。例えば逃げてもいい。勝てそうもない相手とは戦わないのも手の一つだ。だが、逃げるならきっちり逃げ切れよ。
武器は訓練用の木製武器を各種用意しているからそこから選べ。自前で訓練用の木剣を持っている奴はそれでもいい。確認するので見せてくれ。致命傷を与えるのは禁止だが、技能や魔術は使って構わん。
順に名前を呼んでいくので、呼ばれたものは訓錬場へ出てくれ」
おっさんギルド長だった。
訓練用の模擬剣を選ぶ。
俺も月那さんも、アバターで使っていた片手剣と両手剣だ。
鉄芯でも入っているらしく、木剣だけどけっこうな重さがある。
盾も鍋蓋のようなものが何種類かあったので、いつもの大きさに近いものを選んだ。
最初の受験者が呼ばれた。片手剣に小盾を装備している。
あ、開始でいきなり逃げた。
背中を向けた所で、小剣が投げられ、足が止まった所を後ろから切られて終わった。
それから3人が模擬戦闘をしたあと、俺の名前が呼ばれた。




