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わたし達、冒険者始めます  作者: 遠ノ守
第四章 過去から呼ぶ声
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32 厄猪──ミスフォートボア── 5


 リッターバイクのような高加速で、“ボア”との距離を離してから反転する。

 距離を置いて厄猪ミスフォートボアと向かい合った俺は、まっすぐ厄猪ミスフォートボアへ向かって突進した。


 両者は中間地点で激突───はせず、厄猪ミスフォートボアが右の前後肢を高く上げて───転んだ。


 ド─────ン!


 右肢につられて左の前後肢も宙に浮き、完全に浮いた状態から真下へ落ちる。

 硬い外殻を地面に打ち付けて、もの凄い音が響き渡った。

 これ、さっきの“誘導衝撃ホーミングインパクト”より痛手ダメージが大きいんじゃないか?

 厄猪ミスフォートボアの体重が重い分、空中からの落下傷害(ダメージ)の方が、俺が高速で激突した時よりも大きくなるのか。

 意外な弱点だな。

 まああの体重を持ち上げようなんて、誰も考えないだろうけど。

 瓢箪ひょうたんからこまというやつだ。


 慌てて起き上がろうとする厄猪ミスフォートボア

 だが、なにしろ巨体の割に脚が短い。

 そのため先ほども見たとおり、一度転がると、起き上がるのに非常に苦労する。

 それにあの体重だ。

 転倒は、地味ながら確実な痛手ダメージを与える。


 転倒というのは言ってみれば、大地グラウンドという(実質)無限大質量の相手と、重力加速でついた速度スピードで激突することだ。

 たいていの場合、転倒した側が一方的に損傷ダメージを負うことになる。


 ではその転倒をどうやって実現したのか。


 前方に構えた盾から“見えない盾”を斜めに出し、前端を地面の“錨床アンカーフロア”と合わせて楔形ウェッジシェープ「 ∠ 」を形成し、“ボア”の右肢とだけ(●●●●●)すれ違ったのだ。

 “ボア”からすれば、もうすぐ衝突というところでいきなり足下あしもとが持ち上がることになる。

 それも片側だけ。

 転がるほかないわけだ。


 想定以上の結果にやや唖然あぜんとしてしまったが、ここはたたみかける場面だろうな。

 起き上がったばかりの厄猪ミスフォートボアへ向かって再度突進する。


 ド─────ン!


 そして轟音ごうおん

 旋回ターンして“ボア”が起き上がるのを待ち、再度突進。

 だが三度目となると、むこうも警戒するのか突進を避けてきた。

 へえ、危機感のようなものはあるのか。

 新発見だな。


 回り込むように避けてきたので、こちらも進路を回り込ませて対応する。

 減速していないので、凄い横(ジー)だ。

 体を横傾斜バンクさせてGに耐える。

 スキー大回転ジャイアントスラロームとどちらが大変だろう。

 体のきつさでは、スキー競技の方が上なのかな。

 なにしろあちらに耐Gスーツなどない。耐Gスーツなんて動きにくいものを身に着けていては、競技はできない。

 いや、本来の耐Gスーツは動きにくいだろうけど、この“見えない鎧(ステルスアーマー)”で動きにくさは感じない。

 だがこちらはこちらで、一回転以上回り込んでいる。

 どっちもどっちか。


 厄猪ミスフォートボアが回り込むのに対向するように、こちらも回り込んで“ボア”の内側の脚を捉えてすれ違う。

 そして落下の轟音ごうおん


 ド─────ン!


 そろそろ頃合いかな……。


 次の交錯こうさくで、厄猪ミスフォートボアを程々にルーシーさんたちへと近づける。

 あまり離れすぎていては、たがいの意思疎通(そつう)に支障をきたすからだ。

 そして最後の交錯。

 いい角度になったところで、さらに加速して一瞬ですれ違う。


 バ─────ン!


 厄猪ミスフォートボアが、ルーシーさんたちに腹を向けて横倒しになった。

 それを“見えない盾”で縛り付け(バインド)、横四方固めに似た形に押さえ込んだ。


「ルーシー!」


 と呼びかけるとともに、塹壕トレンチナイフで首から腹を裂く身振り(ジェスチャー)を付ける。

 瞬間、ルーシーさんが現れて、厄猪ミスフォートボア下顎したあごから腹へと切り裂いた。


 入った!!


 二十メートル近い距離を一瞬で詰めてきた。

 うん、やっぱり瞬間移動だな。


 そんなことを考えている間に、ルーシーさんがもう一度魔力をまたたかせる。

 次に現れたのは俺の正面、やや横へずれた場所。

 刀を突き出して、一本の矢となり、一直線にこちらへ向かって来る。


 突きだ。

 初めて見る、ルーシーさんの“突き”技だった。


 鮮烈。

 そんな印象をもった瞬間、ルーシーさんの刀が厄猪ミスフォートボア下顎したあごへと吸い込まれた。


 ──────!


 厄猪ミスフォートボアが声のない悲鳴を上げる。

 そこへシルィーが風魔術で飛んできて、開いた口から脳天へと“風の魔術剣”を突き込んだ。

 それがとどめになったようで、厄猪ミスフォートボアはその体をほどいて消えた。


 終わったかな───?


「勝ったのか?!」

「すごいぞあねさん!」

「飛んでいた……」

「滑ってた……」


 走ってきた“怒濤の山津波”が到着し、くちぐちに言葉を発する。

 ふだん表情にとぼしいシルィーも、心なしかホッとして見える。

 俺も揉みくちゃにされた。


「ん? 妙な手触てざわりだな」


 俺の肩を叩いてきたルクスが言う。


「ああ、例の“壁”で作った防具ですよ。あの重量に押し潰されないように作りました」

「そうか。あの戦いの中でも、いろいろ工夫していたんだな」

「シルィー、おまえ飛べたんだな」


 リカルドが言う。

 前に転移部屋から宝箱部屋へ移動したとき、月那るなと二人でふわふわ浮い(ホバリングし)ているのは見たが、今日みたいな移動もできたんだな。


「いち、おう。走る、より、はやい、みたい。けど、ルーシー、ほど、速く、なかった。タツヤ、が、滑って、いる、のを、見て、横移動、して、みた」


 俺の滑行スキーイング着想アイデアを得たのか。


「いつもは使ってないのか?」

「はじ、めて。いつも、は、木の、登り、降り、に、つかう」


 なるほど、じつに森精族エルフらしい使い方だった。

 勝手な言い草かもしれないが、森精族エルフが木によじ登っているところなんて、あまり見たい絵柄じゃない。


「ルーシーおめでとう。良かったな、かたきが討てて」

「うん……」

「どうした? 浮かない顔で」


 スレインがお祝いを言う。

 だがルーシーさんの顔色がすぐれない。


「折れちゃった……」

「折れた? まさか…」

「うん」


 そう言って持ち上げた例の刀は、先端の諸刃が終わったところでまががり、背中合わせになった二枚の刃が一部、密着せずに浮いていた。


「それは、なんと言っていいのか……」


 スレインも言葉が続かない。


「ルーシーさん」

「はい」

「これを」


 俺は収納ストレージから出した日本刀を、ルーシーさんに差し出した。

 装備レベル不適合で、重い……。

 そこで“見えない鎧”に動力補助パワーアシストさせて力を上乗せ(パワーライズ)してみる。

 お、いい具合だ。使えるな、この鎧。

 強度や移動能力まで加味すると、まるっきり外骨格機動服パワードスーツだ。


「代わりに使ってください」


 ルーシーさんが使えるレベルだといいのだけど。


「おい、タツヤ…」

「帰り道で要るにしても、いま出すことはないだろう!」

「そうも言っていられないようですから」

「えっ?」


 うつむていた顔を上げ、こちらを見たルーシーさんは、泣いていた。

 ひたらせてあげたいのは山やまなんだが、そうも言っていられない。


「次の相手が来るかもしれません。今のうちに準備をしてください」


 俺の精霊眼には、入口扉のちょうど反対側にある壁から流れ出した魔力が、中央の魔術陣へ流れ込んでいくのが映っていた。


 ボスの無限()きだなんて、冗談じゃないぞ。




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