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わたし達、冒険者始めます  作者: 遠ノ守
第四章 過去から呼ぶ声
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31 厄猪──    sideルーシー 2


 タツヤさんが、もの凄い速さで厄猪ミスフォートボアと距離をとったあと、振り返って厄猪ミスフォートボアへ向かって走り始めた。

 やはり足は動かしていない。

 走るというより、地面の上をすべっている感じかしら。

 厄猪ミスフォートボアもタツヤさんへ向かって走ってくる。

 タツヤさんが、盾を前に出して腰を落とした。


 数瞬ののち両者は激突!───せずに、すれ違った?

 と思ったら、厄猪ミスフォートボアが横向きに宙に浮き、そのまま地面に落ちた。


 ド─────ン!


 なにっ!?

 もの凄く大きな地響きを立てて、厄猪ミスフォートボアが横倒しになった。


「なんだ───!」

「なんだあの動きは!」

「…………」


 なにがどうなった??

 横にいる“怒濤の山津波”たちも一様に驚きの声を上げている。

 タツヤさんはすれ違ったあと反転して、倒れたボアの様子を見ている。

 怪我ダメージは……なさそうね。

 良かった。


 何をしたのかしら。


 両者がすれ違った瞬間、厄猪ミスフォートボアがふわりと浮き上がったように見えた。

 何だかよく分からないけど、結構な痛手ダメージを与えているように見える。

 なにしろ真っ直ぐ下へ落ちたから。

 四脚獣に受け身がとれるとは思えないのよね。


 横にいる五人は唖然あぜんとしたのか、攻撃に行くのを忘れているようだ。

 でも、いまのタツヤさんの移動は、ちょっと反応できないくらい速かったので、うかつに近寄らない方がいいかもしれない。

 速度に差がありすぎると、普通の速度の人たちが危ないことはよくある。

 私があまりパーティーを組まなかった理由でもあるので、そこは身に染みている。

 だいいちボアのところへたどり着く前に、次の接触コンタクトが始まってしまいそうだ。


 落下の衝撃ショックで起き上がれないのか、しばらく地面で身をよじっていた厄猪ミスフォートボアがようやく体を起こした。

 やはり結構な痛手ダメージこうむっているようね。


 起き上がった厄猪ミスフォートボアへ、ふたたびタツヤさんが突っ込む。


 ド─────ン!


 再度、厄猪ミスフォートボアが横倒しになった。

 うん、効いているわ。あの攻撃。


 そして三回目、厄猪ミスフォートボアがコースを変えて避けてきた(●●●●●)!?

 対向して旋回しつつ追うタツヤさん。

 旋回の勢いを相殺そうさいするため、体が横倒しになっている。

 回転の外足はピンと伸び、内側は胸に着きそうなくらい深く曲げて、肩が地面に着きそうだ。


 いいな。

 ああいう曲がった軌道は、私の“跳躍ちょうやく”ではできない。

 出口の“場所”と“速度”と“角度”は選べるのだけど、出現した後は進路変更ができないのよ。

 だから変更の必要があるときは身体的に、あるいは再跳躍して修正する必要がある。

 これがなかなか面倒なのよね。


 軌道の取り合いはタツヤさんが制し、厄猪ミスフォートボア三度みたび宙に浮く。


 ド─────ン!


 厄猪ミスフォートボアが、タツヤさんとの衝突を嫌がっているように見える。

 そろそろかな?



    †



 四回目の衝突が起こった。

 こんどはだいぶ離れていた戦闘場所がこちらに近付いてきた。

 タツヤさんが蹴り寄せたのだとしたら、そろそろよね。

 せた? ……厄猪あれを?

 それも大概な話ね。


 “跳躍ちょうやく技能スキルを発動させて、たたみ込む軌道を探る。

 たたみ込む距離は、剣が耐えられる最大。

 方向は前後左右、横から上からすべて大丈夫。

 広場の魔獣を掃除する前に見せてもらった“見えない壁”は、私の“跳躍ちょうやく径路コースとして使えなかったけど、いまは大丈夫だ。

 スレインたちがペタペタ触っていたから、じつは壁が張ってない。なんていうこともなさそうだし、なにが違うのかしら?

 謎だわ。


 ともかく、私の出撃準備は整った。



 タツヤさんが今までの衝突を上回る速さで厄猪ミスフォートボアとすれ違う。

 五度目だ。速い!

 宙に浮いたボアの横で、片足を軸にしてクルッと旋回し、ボアの背中側に入って止まる。


 バ─────ン!


 落下した瞬間ジャンプして、ボアの上から横向きに押さえ込んだ。

 “害猪イビルボア”を止めたときの“拘束バインドテクニックだ。

 ここか!


「ルーシー!」


 タツヤさんが私を呼び、ナイフで“ボア”の首から腹を裂く身振り(ジェスチャー)をした。


ぶ!】───


 こちらに腹を向けて押さえ込まれている厄猪ミスフォートボアの、頭方向から飛び出し、腹へ向けて剣を横薙ぎにした。


 入った!

 あの“厄猪ミスフォートボア”に、斬撃ざんげきが入った!!

 厄猪ミスフォートボアの腹側には斬撃が入った。

 でも少し浅い。

 他より柔らかいとは言っても、やはり厄猪ミスフォートボアの腹か。


 “アカツキ”のレピドさん、セシリアさん、ノーラさん、ルカさん、そしてリリア師匠ししょうの顔が頭をよぎる。

 このまま斬撃ざんげきを重ねてもいいけれど、五年の鬱屈うっくつは重かった。

 いい加減けりをつけたい!


 すれ違いざまの“斬撃”とは異なり、“突き”に“跳躍ちょうやく技能スキルを使うのは危険性リスクが高い。

 それは、相手に向かって(●●●●)直進しなくてはいけないからだ。


 “斬撃ざんげき”であれば、剣が耐えられる範囲で攻撃速度が上げられる。

 止まる必要がないので接敵時間は最小にでき、すれ違いのあと次の攻撃に繋げることも容易たやすい。


 “突き”の場合、体ごと相手に向かってい行き最後に静止するため、与えるダメージが足らなければ止まった瞬間、至近距離での反撃を許してしまうことがある。

 突きは斬撃に較べて攻撃範囲が狭く、制圧力に劣るのだ。

 柔らかな人間とは異なり、魔獣は総じて生命力が強いので、そこはあなどれない。

 逆に突進の勢いが強過ぎれば、体ごと相手に激突することになる。

 それはこちらの武器、防具、そして自分自身を損傷する危険をはちむ。

 いい具合に止めないといけない。

 それも筋力で。

 そしてとどめが刺せなくてはいけないのだ。


 一撃目を振り抜いたところで二撃目を決定した。

 腹側が柔らかいなら、喉元のどもとから下顎したあごの骨の隙間を通して、頭を狙う!

 制圧力に劣るなら、一点突破で十分なダメージを与えられる部位を狙えばいいのだ。




跳躍ちょうやく】────




 技能スキルを発動する。


「ィヤァァァァァ────!」


 いっけー────ッ!


 ザンッ───!


 剣はねらたがわず、厄猪ミスフォートボアの下(あご)へと吸い込まれた。

 下顎から入った剣は、口腔こうくうを抜け口蓋こうがいを破り、脳を裂いて頭蓋骨の内側で止まった。

 会心かいしんの一撃だ。


 致命傷を与えた。

 そして厄猪ミスフォートボアの体がふるえ、大きく口を開いた。

 同時に、剣に嫌なねじれが伝わってくる。

 剣を抜かないと。


 でも断末魔の痙攣けいれんで、ボアの筋肉が収縮して剣が締め付けられている。

 剣の損傷ダメージを覚悟して引き抜こうとしたとき、視界の端にシルィーさんの姿が映った。


 悲鳴のように大きく開いた厄猪ミスフォートボアの口に、私から一拍いっぱく遅れたシルィーさんが、“風の魔術剣”を突き込んだ。

 これが追い打ちとなり、断末摩に震えた厄猪ミスフォートボアは頭を地面に落とし、剣は折れた……。


 リリア師匠、厄猪ミスフォートボアを倒しました。

 あいつは体の下側が弱点でした。

 タツヤさんがそれを見つけて、場を作ってくれました。

 だけど師匠にもらった剣は、……折れてしまいました。


 知らずに涙が流れていた。


 そして倒された厄猪ミスフォートボアは黒い霧になって、姿を消した。




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