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わたし達、冒険者始めます  作者: 遠ノ守
第一章 ここはどこ!?
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10 杜の東亭       前編  


 この街には土地勘がまるでない…わけでもないが、とても怪しいのでルーシーさんに宿を教えてもらった。

 風呂付きで!

 部屋にとは言いません。共有浴場でいいと言ったら、浴室付きのスイート(つづきべや)なんて貴族の泊まる宿にしかありません。と言われた。そりゃそうか。


 浴場のある宿はあるそうだ。あと誰でも使える共同浴場も。

 良かったあるんだ、お風呂。

 ビバ銭湯!

 近くの浴場がある宿と、近くにある共同浴場から近い宿と二軒を教えてもらった。


 ギルドの飲食スペースが、ショッピングモールのイートインか屋台村のように見える風景を横目に、腰を落ち着けて一休みしたい欲望を鉄の意志で抑えつけながら、冒険者ギルドを後にする。

 ここで腰を降ろしたら、もう立ち上がれない気がするんだよね。ひしひしと。

 いろいろあったから、一日で。


「ギルドにも宿泊設備があるぞ」と、おっさんがささやく。


 いやだよここ風呂ないし。

 不思議と体の疲れはそれ程でもないのだが、精神がいいかげん擦り切れそうなんだよ。

 求む! お風呂! ご飯! 睡眠!


 日も沈みかけているので、寝床の確保は急務である。

 月那るなさんも居ることだし、宿無しという選択肢はない!

 いまは一度入った宿からわざわざ共同浴場へ出たくない気分だったので、まずは浴場のある宿へと向かった。



    †



 街の繁華街からすこし入った所にその宿はあった。

 ギルドから近い。

 そして立派だ。

 ギルドの建物と同じ謎建材で造られている四階建てで、かなり立派だ。

もりの東亭」と看板が掛かっている。

 気後れしそうになるが、なに、元の世界の国際観光ホテルに較べたらなんくるないさ~と、怪しい方言もどきでつぶやきながら、両開きの宿の扉をくぐった。


「いらっしゃいませ。お泊まりですか? お食事ですか?」


 口ひげをたくわえた落ち着いた感じの男性がカウンターで迎えた。

 どうやらこのカウンターで、宿泊と食事の両方を管理しているらしい。


 泊まりを、一人部屋で二部屋、今日の夕食と風呂の希望を伝えると。

 一人一泊大銀貨二枚と銀貨三枚。

 食事は食堂で、料理長のお任せコースなら銀貨四枚、メニューから好きなものを選んでもいいし、外に出てもいい。朝食と昼食もやっているので、そちらはその時に頼めばいいそうだ。

 服装規定ドレスコードはとくにないが、他のお客さんが不快になるような汚れた着衣や装備、かぶとつば広の帽子、突起物のあるよろい、大盾、大剣など、通路を塞ぎそうな大物は遠慮して欲しいとのこと。

 あー、今まさにそういう格好をしているからね。了解だ。


 風呂は昼2鐘から夜1鐘まで、宿の浴場が終わっても、外へ出て裏手の坂を降りたところにある共同浴場は夜2鐘までやっていて、どちらも宿の泊り客は利用料金不要だそうだ。

 食堂は酒場を兼ねているので遅くまでやっているが、食事は材料がなくなれば終わるって。


 月那さんと顔を見合わせ、まず風呂だなと決める。

 料理長のお任せコースで夕食を確保して、内湯が開いているうちに風呂に入っておきたい。


 時間のことだが、市庁舎で鐘を鳴らして知らせているそうだ。

    朝1鐘  6時   朝2鐘  9時

    昼1鐘 12時   昼2鐘 15時

    夜1鐘 18時   夜2鐘 21時

の3時間ごとで、1鐘は1回、2鐘は2回鳴らすのを、間を置いて2~3回繰り返す。

 そして朝1鐘に市壁門が開き、夜2鐘で市壁門が閉まる。


 時計もあるにはあるがまだはこが大きく、個人で持ち歩くものではないらしい。

 宿の受付け脇にも、大きな柱時計が鎮座していた。

 文字盤は12分割で、一昼夜が24時間、1時間は1こくと呼ぶそうだが、正確に1刻=1時間かどうかは不明である。


 冒険者証を出して身元確認をした後、二人二泊に今日の夕食付きで、金貨一枚を支払い、部屋の鍵と、夕食の木札を受け取る。

 こっちの金銭感覚にはまったく慣れていないが、たぶん安くはないんだよな。

 フロントのお兄さんに「二人部屋なら一泊大銀貨四枚で済みますよ」と言われたが、二部屋ね。


 なお、お互いの呼び方は、アバター名の「カイン」「ナル」から、本名の「達弥(タツヤ)」「月那(ルナ)」に変えている。

 ステータス鑑定の結果がそう出るので、タルサ市に入ってからそうした。


 部屋は二階廊下途中の隣同士だった。

 明かりは、冒険者ギルドでも使われていた、魔石を使った魔石灯(ランタン)が用意されていた。入っている魔石で2時間くらい点くそうだ。追加が要り用ならフロントで交換の魔石を有料で用意すると言っていた。この魔石灯(ランタン)も早めに手に入れておいた方がいいな。

 ふたりで両方の部屋を確認したあと、部屋を決めて着替えた。

 着替えといっても、武装を収納ストレージにしまい、術士用の羽織ローブを出してまとうだけだ。

 他の着るものも何着か買わないといけないな、と心にメモをして廊下に出、月那るなさんと合流して浴場へ向かった



 浴場の雰囲気はテルマエである。

 ほら、ローマで始まった、ヨーロッパの温泉地によくある石造りの共同浴場。

 露天風呂はなし。

 故郷と同じく裸で入る方式で、男女別。そしてなんと天然温泉だ。

 それも今は貸し切り状態。人気ないのかね? お風呂。


 近くにあるダンジョンの影響で温泉が湧き出すらしい。

 火山かっ、ダンジョン湯!

 源泉掛け流しで、驚いたことに水路と湯路から分岐するシャワーもどきまであったよ。シャワーというよりは打たせ湯だけど。

 タオルは入口で買ったが、石鹸はなかった。この世界に無いのかここに無いだけなのかは分からない。これも明日街を巡るときに探してみよう。


 シャワーもどきで汗を流してから湯船に入る。

 んー、体がほぐれるね。

 こんな何処どことも知れない所へ来て、ちゃんと風呂に入って食事が食べられるのが、なにかの冗談じゃないかと思えてくる。

 心ゆくまで湯にかっていたい気分だが、これから食事がある。

 程よく体が温まったところで風呂から上がり、もう一度シャワーもどきで上がり湯(かけゆ)をしてから外へ出た。


 脱衣所を出たところにある休憩所で待っていると、さほど待つこともなく月那さんが出てくる。

 自分自身のこともそうなのだが、ホテルで温泉から出たというのに、浴衣ゆかた丹前たんぜんでないことに違和感を感じるな。

 元の世界で温泉に行ったときにはなんのこだわりもなく、湯上がりにTシャツとスウェットでまったく平気だったのだけれど、今は二人とも味も素っ気もないレベル1装備の羽織ローブ姿だからだろうかね、無性に浴衣と丹前が懐かしい。


「お待たせしました」

「待ってないから平気だよ。さて、それではお待ちかねの夕食タイムといたしますか」

「はい」




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