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有間雄次郎【16歳・男性・高校生】の場合

初っぱなからぶっ飛んだ内容なので気を付けて下さい。




それは雨が降りしきる日だった。ずぶ濡れになりながら必死の形相で自転車を漕いで病院に来た青年の名は有間(ありま)雄次郎(ゆうじろう)。その辺にいる高校2年生である。

彼は友達から恋人(かのじょ)が交通事故に遭ったという知らせを聴いて病院まで急いで来たのだ。雄次郎は自転車を乗り捨て無我夢中で駆けた。


「あの、すいません!女子高生の子が交通事故に遭ってここに運ばれたって聴いたんですけど…」


雄次郎は夜間救急の入口の受付に息を切らせながら問いかけた。


「俺の恋人(かのじょ)なんです!」


「あの…その方のお名前は」


「いちのせ、一乃瀬(いちのせ)紗耶香(さやか)です!」


必死に叫ぶ雄次郎を察してか、受付の人は看護師ステーションに取り次ぐ。


「…ご案内します」


受付の人は神妙な面持ちで雄次郎を連れてエレベーターに赴く。


(え?嘘だろ…)


雄次郎は絶望を察する。受付の人は上の階ではなく地下を押したのだ。雄次郎は祈るように受付の人についていくが到着した部屋で現実を突きつけられる。


「霊…安室…」


受付の人がその扉を開けると雄次郎は意を決して中に入る。


「一乃瀬…。一乃瀬…!」


一乃瀬紗耶香。ツインテールが似合う、少し素直じゃない部分もあるがクラスはおろか学校中で人気があった女子高生であった。将来の夢はモデルや女優などの芸能人になりたいと語っていただけあって容姿は整っており、死んでいるのではなくただ眠っているだけではと思うほど可憐であった。

雄次郎と紗耶香の出会いは高校に上がってからだが、野球部の部員とマネージャーという関係がいつしか恋心に変わって交際を始めていた。まだ手を繋いだりファーストフード店で一緒に食事したりの友達の延長線みたいな付き合いだったが、雄次郎は高校を卒業して大学に入ったらキスやその先の行為をしてより深く愛し合おうと考えていた。

しかし、現実は残酷である。


「終わりましたらお声を…」


受付の人はそっと退出する。


「一乃瀬…!一乃瀬…!!」


雄次郎の膝はガクッと崩れ落ち、咽び泣いた。




「ごきげんよう」


「!?」


不意に密室に声が響いて雄次郎はバッと振り返る。そこには見慣れない少女が立っていた。

何処の高校なのか古めかしい漆黒のセーラー服を着て、黒いストレートの髪を床に着かんばかりに伸ばし、瞳と唇が鮮やかな赤の、紗耶香に勝る美少女である。


「誰だ…?紗耶香の友達か?」


「私は寿命屋でございます」


「寿命屋?」


この少女は何を言っているんだと雄次郎は思ったが、寿命屋という単語には覚えがあった。

噂の出所は不明だが、最愛の人を亡くした人間の前に現れ、その人の寿命を削ることで亡くなった人を蘇らせてくれる『寿命屋さん』という都市伝説である。

その都市伝説はテレビや雑誌のオカルト特集などでたまに取り上げられるが、そういったものを信じない雄次郎は特に関心を示さず、そういう話もあるんだなという程度で聞き流していた。


「もしかして…都市伝説の?」


「どうしますか?その子を蘇らせますか?」


雄次郎の問い掛けに構わず、寿命屋は質問してくる。


「ちょ、ちょっと待てくれ。君はホントに一乃瀬を蘇らせてくれるのか?」


「はい。出来ます。しかし、蘇らせるにあたって説明事項がございます」


「説明事項?」


雄次郎はまだ半信半疑だが、自身の心の中には紗耶香を救えるならという期待もあり、寿命屋の話に耳を傾けることにした。


「1つ。この子を蘇らせるには貴方の寿命が必要です。貴方が指定した寿命の分だけ私が貴方の寿命を切り取り、その子に分け与えます」


「俺の寿命を…」


「2つ。分け与えた後の貴方の寿命は貴方自身はもちろん、私にも分かりかねます」


「え、君自身も?」


「はい。私はあくまでも寿命を切り取り、分け与えるだけです。貴方が分け与えた後、何年生きるられるかは貴方の運命(さだめ)次第でございます」


寿命屋の発言に雄次郎は思考を巡らせる。


(じゃあ…例えば俺が一乃瀬に10年あげたら、俺の寿命は10年短くなるけど…、俺が元々長寿で100歳まで生きられるとしたら90歳で死ぬことになるし、もし短命で30歳くらいで死ぬならそれがさらに短くなって20歳で死ぬって事か…)


100年から10年切り取るのと、30年から10年切り取るのとはだいぶ重みが違う。人がいつ死ぬかなんて誰にも知る術はないのに、匙加減も分からないまま寿命を削るのは危険(リスク)である。


「3つ。寿命を分け与えられるのは一度きりです。分け与えた寿命を取り返したり、継ぎ足しで更に分け与えることは出来ません」


「…」


「4つ。蘇った方は貴方が分け与えた分の寿命をどういう形であれ必ず全うします。途中で死ぬことはないので御安心下さい」


「そう…なのか…」


雄次郎は少しホッとする。もし自分が分け与えた命が不慮な事故や災害で無駄になったらどうしようと思っていたからだ。


「5つ。これが最も重要なことですのでお忘れなきようお願い致します」


「重要なこと…」


寿命屋が釘を刺すということは余程のことだろうと雄次郎は固唾を呑む。


「蘇った方に寿命を分け与えた事実を決して教えてはいけません。教えた場合、約束を違えたとして貴方はすぐに地獄に送られます」


「し、死ぬってことか…」


「ご想像にお任せします。説明事項は以上ですが、質問はありませんか?」


雄次郎は淡々と語る寿命屋に死を意識してしまって背筋が凍えるがそろりと手を挙げた。


「1つ…良いですか?」


「はい。なんなりと」


「俺がもし80年寿命をあげると言って、実は俺が50年くらいで死んでしまう運命だったら、どうなりますか?」


「はい。分け与える寿命が不足していた場合、貴方は死に、あの子が蘇ることも叶いません」


「えっ!」


つまり長く生きて欲しいと願って切り取る寿命を多めに言えば死に損の危険性も高まるという訳である。


「それではよろしいでしょうか?何年切り取りますか?」


雄次郎の心臓の鼓動は高まっていた。下手したら死ぬかもしれない。しかし、雄次郎の中で紗耶香ともっと一緒に時を過ごしたいという思いが勝った。


(一乃瀬は芸能人になりたいって言ってたしな…。どのくらいで大成するのかな…)


雄次郎は額に脂汗をかきながら紗耶香の夢や自分の残り寿命の目星を考えに考え抜いて結論が出た。


「…30年。30年で頼みます」


「承知しました」


雄次郎の答えを聴いて寿命屋は鋏を取り出した。大きさは図工で紙を切るような普通の鋏だが、刃は紫色に照っていた。


「それでは、貴方の命、切り取らせていただきます」


「うっ…」


雄次郎の目には寿命屋の鋏が眩しく光ったように見えた。














「はっ!」


雄次郎がガバッと起き上がるとそこは自分の部屋であった。


「なんだ…」


雄次郎は日時を確認しようとスマホを開くと時間は朝の6時で日付が1日経っていた。


「夢…だったのか?」


雄次郎は首を傾げる。家に帰ってきた覚えはないがパジャマは着ているし、昨日の事はおかしな夢だったのではと錯覚する程だった。


(いや。夢なら良い。いっそ一乃瀬が死んだのも夢ならそれで…)


雄次郎はそう自分に言い聞かせてリビングに向かった。


「あら。いつもより早いわね。朝練あったかしら」


キッチンでは雄次郎の母親が朝食の準備をしていた。


「いや、そういう訳じゃないけど…。母さん。俺、昨日何時くらいに帰ってきたか知らない?」


「さぁ~、覚えてないわねぇ。でも昨日は土砂降りだったし早かったんじゃないかしら?」


「そう…」


「それよりも早く起きたならご飯食べちゃいなさい」


「うん…」


雄次郎は紗耶香が生きてるか訊きたかったが、もし寿命屋の事が(ウソ)で、死んだ事実がそのままだったらまた悲しみに暮れるかもしれないと怯えて訊けなかった。

結局、雄次郎はモヤモヤした気持ちのままいつもより早く家を出た。


(昨日乗り捨てた俺の自転車もあるし…やっぱり夢だったのか?)


雄次郎はそう思いながら自転車に乗って学校に向かった。

野球部の朝練以外では遅刻ギリギリに着く雄次郎だが、早く出たことで人が疎らな時に学校に到着した。


「へぇ珍しい。朝練以外でも早く来ることあるんだ」


雄次郎の背後から聴きたかった声がした。


「一乃瀬…なのか?」


雄次郎がドキドキしながら振り返るとそこにはいて欲しかった人がいた。


「何よ。あたしの顔に何か付いてる?」


「一乃瀬!!」


雄次郎は嬉しさのあまり紗耶香に抱きついた。


「ちょっ、何よ急に!?」


「良かった!良かった!生き返ったんだな!!」


「はぁ?生き返ったなんて大袈裟」


「だって一乃瀬、お前…」


雄次郎はふと寿命屋の言葉を思い出した。


(もし寿命を分け与えた事を教えたら地獄送り…だったな)


「だって…何よ?」


「いや、何でもない。それにしても無事で良かった」


「全く良くないわよ!昨日バイトから帰ろうとしたら事故ったおかげで自転車はダメになったし最悪よ!」


(死んだ筈なのにそういう事になってるのか。やっぱり寿命屋は夢とかじゃ無かったのか)「そ、そうか。災難だったな。でも怪我とかなくて良かったじゃないか」


「まぁね。心配はしてくれるんだ」


「当たり前だろ」


「そう。ありがと…。あ、あたしはもう行くからね!宿題忘れたから早くやらないと」


紗耶香は照れ隠しのように足早に去った。


「良かった…。本当に良かった…」


雄次郎は人目を憚ることなくその場で号泣した。



それから雄次郎と紗耶香は部活や放課後を通してより親密さを深めていった。

とある日、部活が終わって雄次郎と紗耶香は帰り道を歩いていた時、不意に紗耶香が雄次郎に話し掛けた。


「あのさ」


「どうした?」


「あたし今晩家で一人で留守番でさ」


「そうなのか?」


「お父さんは出張だし、お母さんは泊まり込みで明日の夜まで帰れないって言うしさ…」


「そっか。戸締まりとか気を付けないとな」


「…察しなさいよ馬鹿!」


紗耶香は急に怒ってドスドスと早歩きで行ってしまい、残された雄次郎はキョトンとするしか無かった。




その日を境に雄次郎は紗耶香とは微妙な距離感を感じるようになった。それは気のせいではなく、部活の時に目を合わせる回数は少なくなり、放課後や休日に遊びに行こうと誘ってもバイトがあるとか女友達の先約があるとか芸能事務所のオーディションがあるからとか等々、断られることが多くなったのだ。


(あの時、怒ってたしな。何か詫びのプレゼントでも用意すべきかな)


そう思い立った雄次郎は駅前のショッピングモールへと出掛けた。


(一乃瀬、何が欲しいかな。ん?)


あれが良いかこれが良いかと悩んでいると雄次郎の目に信じられない光景が飛び込んだ。


(紗耶香と…隣の男は誰だ?)


男は雄次郎と同じくらいの背でほっそりしており、顔は上の中くらいの端整な顔立ちであった。雄次郎は思い返すが男の顔に全く見覚えがなく、紗耶香に兄がいるなんて話も聞いたことが無いため混乱が深まるが、事実を確かめにはいられず、気付いた時には紗耶香めがけて走っていた。


「一乃瀬!」


「えっ、雄次郎?」


紗耶香はビックリした顔をしつつも何処か怯えた様子で隣の見知らぬ男の袖を掴む。


「雄次郎…あー、君が噂の雄次郎くんか」


その見知らぬ男はフレンドリーに雄次郎に話し掛けた。


「アンタは一体…」


「ん?あれ…あっ、これって浮気相手と思われてるパターンのやつ!?」


雄次郎は睨むが、見知らぬ男はむしろ嬉しそうにはしゃいでいた。


「雄次郎、違うの!この人はバイト先の先輩よ」


「バイト先の先輩?」


「どーも。桐谷(きりたに)健児(けんじ)でーす♪」


健児は軽そうに名乗る。


「雄次郎くん、紗耶香から聞いてるよ?何でも来年の甲子園出場間違い無しだってね?」


「え?」


「俺スポーツ全然ダメだからさぁ。そういう才能めっちゃ憧れるな~」


怒り心頭だった剣幕の雄次郎も、健児に褒めちぎられると怒りのトーンがどんどん下がっていく。


「桐谷先輩ってこんな風に軽いけど意外と医学部の大学2年生でね。頭良いからたまに勉強とか教えてもらってるんだ。今日はバイトが早く終わったし、適当な喫茶店で宿題見てもらうところだったの」


「そうだったのか。勘違いしてごめんな」


「分かってくれれば良いのよ。…そういう雄次郎は何をしに来たの?」


「あ、いや。別に…。邪魔したな」


雄次郎は怒りがすっかり冷めたが、嫉妬を露にした事から今度は恥ずかしさが込み上げてきてその場に居づらくなって逃げるように帰った。




気まずい現場に出くわしてから雄次郎は紗耶香とより疎遠になって気がした。学校内では部活以外で会わなくなり、その部活のマネージャーも時折休むようになっていたからだ。


(やっぱり桐谷の奴に騙されてるんじゃ…)


雄次郎は軟派そうな桐谷のことをただのバイト先の先輩と気を許したものの、心の何処かでは警戒していた。


(いや、一乃瀬はそんなに軽くない。自分の恋人(かのじょ)を信じられなくてどうするんだ。それよりも部活に集中しないとな)


雄次郎は自分の弱気な心を振り払うようにユニフォームに着替えて部活に臨んだ。


「…ん?あれ?一乃瀬は?」


「あれ?先輩知らないんすか?一乃瀬マネージャーなら先週退部届け出したらしいっすよ」


「えっ!?」


そんな話を初めて耳にした雄次郎はショックの余り練習に身が入らず、体調不良を心配されて顧問から早めに帰るように言われてしまった。

雄次郎はとぼとぼと重い足取りで家の玄関を開けた。


「あら。おかえり。今日部活じゃなかったっけ?」


「うん。ちょっと調子悪くしてさ。早く帰ってきちゃった」


「そう…。あ、そうだ。お昼頃に紗耶香ちゃんが遊びに来たわよ」


「えっ、一乃瀬が!?」


その知らせを聞いて雄次郎の心配は吹き飛んだ。


「ほら、明日アンタの誕生日でしょ?それで紗耶香ちゃんがプレゼントを置いてきたのよ」


「俺に誕生日プレゼント?」


「それと付き合いが悪くなってごめんね、って言ってたわよ。何でも芸能事務所からスカウトが来てレッスンが忙しいんだって。それで野球部のマネージャーも辞めちゃったから雄次郎が落ち込んでないか心配してたわよ」


「そうだったんだ…。良かった」(紗耶香に30年渡して本当に良かった…)


雄次郎は紗耶香が自分の夢へ踏み出し始めて安心したと同時に、紗耶香を疑った自分を殴りたくなった。

それから雄次郎はルンルン気分で母親から紗耶香の誕生日プレゼントを受け取って自室に入った。可愛らしくラッピングされた包装紙を破くと中身はDVDと小さなメモであった。メモには一人で見てねと書いてあった。


「何だろう?」


雄次郎はDVDプレイヤーで早速再生してみると、すぐに紗耶香が映った。


〈雄次郎、最近会えてないよね。実はあたし、芸能事務所からスカウトされてそこから色々あってホントに忙しくなっちゃったから学校にも部活にも行けなくなったんだ…。こんな好き勝手なことしてきっと怒ってるよね?ホントにごめんね…〉


紗耶香は申し訳無さそうな様子で画面越しに謝る。







〈…なーんて、言うと思った?〉


しおらしい表情だった紗耶香の顔が嘲るものに変わった。


「い、一乃瀬…?」


〈はーい雄次郎く~ん。見てくれてるかな~?俺が紗耶香貰っちゃうね〉


「な、何言ってるんだ…?」


雄次郎の理解が追い付かない中、画面に健児が入ってくる。健児は紗耶香を後ろから抱き着くと紗耶香の首を舐め始める。


〈雄次郎が悪いんだからね?あたしは雄次郎ともっとイチャイチャしたり、エッチな事もしたかったのに、全然興味持ってくれないから…。健児とは最初遊びのつもりで付き合ったんだけど…。全部凄いのよ?食事はファーストフードじゃなくてお洒落なフレンチの高級レストランだし、プレゼントはブランドのバッグなの。それにエッチも…もう健児じゃなきゃ満足できないの〉


紗耶香の声が、雄次郎が今まで聞いたこともない甘ったるい女の声になっていき、健児と舌を絡めるような厭らしい接吻を交わしていく。


〈俺やってみたかったんだよね~。マンガやエロゲみたいな寝取りプレイってやつ。それにしても雄次郎くん純情だよねぇ。こんな巨乳、男だったら揉むなり吸うなりヤりまくる一択なのに〉


〈やん♡〉


健児は紗耶香の制服を脱がせると、紗耶香の美巨乳をブラの上から揉み込んでいく。


〈という訳で雄次郎くんの誕生日プレゼントに俺と紗耶香のラブラブ映像をお送りしまーす♪オカズにでも使ってね〉


〈じゃあね雄次郎。あんたも童貞くさい考え早く捨てて、恋人(かのじょ)見つけなさいよ〉


「そんな…嘘だ…。嘘だと言ってくれ…!」


雄次郎の目から涙が、口から嗚咽が止まらない。

雄次郎は紗耶香の事を女性として興味がなかった訳ではない。むしろ早く一歩進んだ男女の関係になりたいとずっと思っていた。けれど急いだら嫌われてしまいそうで、それが怖くて一歩が踏み出せなかったのだ。

しかし、そんな雄次郎の紗耶香を愛する気持ちは粉々に砕かれてしまった。


〈おいおい紗耶香。もうパンツの意味がないくらいビチャビチャじゃねぇかよ。もしかして雄次郎くんに見せてるって興奮してんのか?〉


〈ううん、健児の指遣いが凄いのよ。ねぇ、焦らさないで早く入れて♡〉


映像の中で甘く喘ぎ淫らに乱れるかつての恋人(かのじょ)を、雄次郎は怒りも悲しみも性的興奮も通り越して、真っ黒な画面をただ眺めるように無感情に見ていた。











それから5年後─


〈それでは本日のゲストは女子中高生に人気のファッション雑誌C&Cの人気モデル、サーヤさんです〉


〈ど~も~。サーヤです☆〉


サーヤこと一乃瀬紗耶香はモデルとして着実に名前が売れ始め、バラエティー番組のゲストやドラマの脇役などテレビに出ることが多くなり、芸能人として成功を収めていた。


(誰のおかげで生きてると思っているんだ…)


紗耶香が出るバラエティー番組を、雄次郎は声には出さないものの、怒りの眼差しで眺めていた。

華々しい芸能人生を謳歌する紗耶香に対して雄次郎の人生は転落の一途であった。

あのDVDのショックから人間不信に陥って不登校になり、家族の説得を受けて3年生になってから再登校したが野球部は二軍落ちして甲子園には行けず、大学受験も失敗。一浪して専門学校に入るも気力が持てずに1年経たない内に退学、清掃員やコンビニなど色んなバイトを転々とするが人間不信のせいでどれも3ヶ月以内には辞めてしまった。今は無職で、親の脛を齧りながら家の中で安い缶ビールを飲む事とたまに行くパチンコだけが楽しみという堕落した生活を送っていた。

雄次郎は紗耶香が映るテレビを消すと立ち上がって冷蔵庫を開ける。


「ちっ。切らしてる…」


冷蔵庫の隅には缶ビールが常備されている筈だが、買い忘れたのか一本も無かった。

雄次郎は苛立ちながらも財布を持って近くのスーパーへ向かおうと家を出て、数分歩いた時だった。


キキィイィィイ!


ボンっ!


雄次郎は横から来た車にはねられて宙を飛び、アスファルトに頭を打った。


「痛ぇ…」(まさか…嘘だろ…!)


頭からは出血したようで、雄次郎は自分の頭に血の生温かい感触が広がることに、今日が自分の命日になるのではと恐怖した。


ブーン


「ガッ!…ぁぁ」


車の運転手には救護義務があるが、気が動転してかそれとも誰も見ていないからなのか、雄次郎を助けようとせずに車は発進、瀕死で横たわる雄次郎の脚を轢いて去ってしまった。


(そんな…!そんな…!)


雄次郎が死を覚悟した時だった。


「ごきげんよう」


雄次郎の視界には寿命屋がいた。5年経っても全く変わらない姿の寿命屋は雄次郎の顔を覗くようにしゃがんでいる。


「私はいつも寿命を切り取った方に、死ぬ間際にお尋ねしていることがございます」


寿命屋は瀕死の雄次郎を助けようともせず、無表情で淡々と訊ねる。


「貴方は最愛の人に寿命を分け与えて、幸せでしたか?」


「…っ!」


雄次郎は最後の力を振り絞って寿命屋を睨みつけながら告げた。


「      」


口は動いたが声は出ず、雄次郎の命は尽きてしまった。


「…左様でございますか」


寿命屋は立ち上がり、静かにその場から立ち去った。





かなり人の好き嫌いが別れる作品ですが、感想などをいただけると嬉しいです。

なお、更新頻度はそんなに多くないので気長にお待ち下さい。

他の作品共々、よろしくお願いします。

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