家族
「待たせてごめんね!」
青年は食卓に着くなり両親に謝る。
「ゼスは、ホントに朝が弱いんだから。」
ゼスの母親が、まだ寝癖のついている息子の頭を撫でて言う。
「ちょっ!母さん!もう俺17歳だよ?」
ゼスは恥ずかしながら、周囲を見る。
使用人達はニコニコと二人のやり取りを見ていた。
父親もその光景を見て笑顔を携えている。
「さぁ!朝御飯にしよう!皆も食べてきて良いぞ?」
使用人達は深々と礼をして、部屋を出ていく。
この事も友人に話したら、
「お前の家おかしくない?普通使用人は主人が食べ終わるまで立ってるだろ。てか主人の前で笑うなんてありえねぇし。」
と言うのだ。
ゼスにとってはこれが日常であるし、友人の考えの方が奇妙に思える。
大体食べてる姿をじっと立って見られるなんて、落ち着かない。
「お祈りをしましょう。」
母親がそう言うと、3人はテーブルに肘を立てて手を組む。
「天から頂いた全ての命に感謝を......」
食べる前はいつもお祈りをする。
これは友人の家でも同じであったが一つ違うことがあった。
ゼスはお祈りをすると、いつも体が浮いたような感覚を覚える。
小さいとき両親にも話したが、
「ゼスは神様から愛されてるのよ。」
としか言われなかった。
その事を聞くまでは皆も同じだと思っていた。
朝食を食べ終えると、父親が使用人達を呼ぶ。
「それでは、お願いします。」
「かしこまりました。旦那様。」
使用人達が食器を片付けてくれている間に父親はゼスに話しかける。
「ゼスよ、お見合いの話があるんだが......」
「またー?まだ良いってば。」
これで6度目だ。16歳になってからたまに寄越してくる。
「だがゼスよ、トーエウ家の跡取りとして父さんは心配なのだよ......」
「自分で決めた人がいいって言ったじゃん。」
ゼスは毎度の台詞を父親に言う。
「どんな人が好みなんだ?」
お見合いで会った人は全員美人だった。
しかもなぜだかわからないがお見合いを受けた全員がゼスのことを気に入っている。
ゼスがお見合いをしたがらない理由のもう一つは、断るのが気まずいからだ。
「ゼスは冒険者になりたいんだものね。」
母親が言う通り、ゼスの夢は冒険者だった。
なのでいつも冒険者の夢があるからいまはゴメンなさいと断っている。
いままでの全てがそれでも良いと返事がくるのだが......
「母さんがいった通り、冒険者になりたいんだ!だからもう少しまってよ。」
父親は渋々といった様子で頷いている。
「では、冒険者になったあとなら良いんだな?」
「約束する!」
「わかった!試験は来週なんだろ?」
父親が聞いてくる。
わかっていてお見合いの話をしてきたのか......
相当結婚してほしいんだな......
「うん!来週にあるから、訓練も追い込みかけないと!」
「ほどほどにね。」
母親が心配した声で言う。
だがゼスは試験のことで頭が一杯だ。
「本気で自分の力を試さないと!」
訓練に向けて走り出すゼスに母親は続ける。
「あなたの本気は普通の人に向けちゃダメよー!」