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俺はただの羊飼い  作者: 要 モウ太郎
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羊飼い、勇者の歌を聞く

たまに更新します。よろしくお願いします。



 その日、世界に七つの光の柱が降り立った───


 七つの大陸にそれぞれある世界七大国で、勇者たちが召喚された───


 一人は鋼の長剣を


 一人は鋭い槍を


 一人は勇ましい戦斧を


 一人は双刀の短剣を


 一人は勇ましい拳武器を


 一人は神々しい大杖を


 一人は美しい弓を


 七人の勇者達は、魔界に挑むべく、それぞれが召喚された国で己を鍛え上げている───


 さぁ!勇者達よ!


 挑め!未知の魔界に!


 悪の元凶を倒せ!───





 ジャカジャン!と弦楽器で歌を締め括った吟遊詩人はとても満足そうな顔をしている。


 満足そうだけどそんなに上手い歌ではなかった。


 しかし他の客達には大盛況で、楽しそうにみんなで肩を組んで盛り上がっている。


 俺は荷下ろしをしながらその光景を見聞きしていた。


 因みにこの歌の内容は本当だ。


 自分でも結構前にその時の光の柱の一つを実際に見ていた。

 

 その時と同じような光が各大国で同時に見られたのはもはや世界で有名な話で、その光が勇者召喚の光なのは間違いないらしい。


 ここ最近はどこに行ってもその話で持ち切りだ。


 『魔の領域』と呼ばれている場所から湧いて出てくるとされてる魔物による被害が人々にとって少なからずあるから、それを無くしてくれると言うことで勇者達には誰もが期待しているからだ。


 大昔しにも勇者召喚があったが、謎の失踪で魔の世界を制圧する事は叶わなかったという歴史がこの世界にはある。

 

 しかし、普通の人間は魔の領域に入る事はできないので勇者召喚は人々の悲願でもあった。

 『魔の領域をどうにかして、安心して暮らしたい』と、みんな思っている。


 「───これで最後っと。じゃ、またよろしく頼みます〜」


 この酒場、正しくは冒険者ギルドの中にある酒場に羊のミルクの納品に来ていた俺は、そんな事を考えながら入れ替え作業を終えて、前回納品した時の空のミルク容器を持って、マスター、正しくはここの冒険者ギルドのマスターに挨拶してからこの酒場の裏口から出る。


 「実際のところはどうなんだろうな、勇者ってのは?」


 酒場の裏口に停めていた荷馬車に、回収した空のミルク容器を積みながら、この荷馬車を引いてくれている羊に声をかける。


 「メ゛ェ〜」


 「そうかそうかぁ、お前は今日も働き者だなぁ。 帰ったら干し草いっぱいくわせてやるからなぁ〜」


 羊が人の言葉を理解しているわけもなく質問に答えるなんてことはない、案の定鳴き声で帰ってきた。この荷馬車を引いてくれている羊に話しかけてしまうのはもはや日常茶飯事。帰ったら干し草をいっぱい食わせてやろう。


 俺は羊飼いだから、この馬より一回り大きい、羊の『バイク』に荷馬車を引かせている。納品で街に出る時はいつもこのバイクと一緒だ。


 「よし、じゃあ帰るぞ〜」


 「ルガレ!ちょっと待ってくれ!」


 荷馬車の御者台に乗り、手綱を握り家路に着こうとしたところ、慌てた様子で酒場から出て来たマスターに呼び止められた。


 「どうかしましたか?ミルクに何か問題が?」


 今さっき納品した羊ミルクに何か問題でもあっただろうか?


 「いやいや!いつも通り上質なものだったよ!濃厚で素晴らしいミルクだ!」


 「ありがとうございます」


 「そんな事より聞いてくれ!今さっき客から聞いたんだが、勇者がこの辺りに来てるらしい」


「勇者が?珍しいですね。でも、それがどうかしたんですか?」


 こんな田舎町まで勇者がくるなんて珍しいけど、特別何かある様な町でもないし俺に関係ある事は無いだろうな。


 「なんでも、鍛錬のために仲間と共に遠征に来たらしいんだが、その遠征を勇者達は“羊狩り”と称しているらしい。もしかしたら、お前さんのとこの羊が狙われてるんじゃないかと思ってな……」


 「いやいや、勇者が鍛錬のためにただの羊を狩に来るなんて流石にないですよ」


 勇者がただの羊相手に鍛錬なんてするわけないのにこのマスターは何を言ってんだか。


 「いや、お前さんのとこの羊は普通じゃないだろう……」


 「え?なんか言いました?」


 「なんでもないよ!とにかく念のために早く帰った方がいい!」


 「帰ろうとしてた所を呼び止めたのはマスターでしょう?」


 「はいはい悪かったから早く帰れ!」


 「もー、何なんですかそれ? じゃっ、また宜しくお願いしますね〜」


 「あぁ!こっちこそよろしくな! 早く帰れよ〜!」


  マスターとの一悶着に若干呆れつつ、やっと家路に着いた。


 あのマスターの名前はグレーゴルと言って、俺の親父の代から仲良くしてもらっている。昔からのお得意さんだ。


 「それにしても、勇者が羊狩りって…… プフッ」


 勇者が羊狩りって、ありえないでしょ。 これは笑える。


 そもそも羊って言うのは大体は馬より一回り大きくて、見た目は帯電とか帯炎とか帯氷とかしてるやつもいたりするけど別に感電とか火傷とかもしないし基本は干し草を食べて育つ害の無くてか弱い草食動物なのになんで勇者が羊狩りなんてするんだ?


 「勇者が羊狩りって…… プフッ」


 マスターが変な事言うから地味に思い出し笑いが止まらなくなってしまった。



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