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そう考えた僕は部屋の壁の染みに向かって語りかけた。僕は神にでもなったかのように語った。染みよ!聴きなさいと・・・
ちなみにこの染みと言うのは、ミッキーマウスを尖らせた様な染みで何回消しても必ずぼんやりと浮かび上がってくる怪しい染みだ。こいつのおかげで、僕は何人かの友人を失う羽目になったくらいだから、きっと何かあるのだろう。僕自身はたまに人の視線を感じるくらいでとくに迷惑はこうむっていないので気にしていないが。
そうして日がすっかり落ちたころ、まだ僕は延々と電子炊飯器について壁に語りかけていると、またもにわかに信じられないことが起こった。染みが突然しゃべりだしたのだ。
それはそれは渋い声だった。
「そんなこといまさら言われてもなぁ」
お前、しつこいねと続けながら、さも当然のように言った。
僕はまるで世界がひっくり返ったような思いだった。
だってそうだろう?僕が世界に先駆けて発見したと思った、電気炊飯器が生きているというこの世の心理はもう当然のことだったんだから・・・それこそ、壁の中の染みでも知っているくらいの事だというんだから・・・
あまりの恥ずかしさに、死んでしまってもいいくらいの衝撃だった。
すっかりしょげ返っていた僕に向かって染みは告げた。あの渋い声で・・・
「まあ、そう落ち込むな、本当のことを知るのに遅いっていうことは無いじゃないか」
まったくその通りだった。僕はこの怪しい隣人の言葉ですっかり目からうろこが落ちたような気にさせられた。
新しいことを知るのに遅すぎるということも無い。孔子先生も、齢五十にして学ぶもまた大過なき、といっているではないか!