到着するまでが恋人繋ぎ
「なぁシェルミア」
「何?」
「そろそろ手を…」
「到着するまでいいじゃない?」
「ロレントといた時も繋いでたよな?」
「なにか問題でもありますか?」
「家からずっと手を繋いだままだし、そろそろ手汗が「気にしてないから」」
「いや、でも友人の前でもずっと手を繋いだままってのは…流石に人前で恋人繋ぎは…ちょっとなぁ」
「手を繋いでてもロレントは何も言って無かったじゃない?」
「あ、確かに…てことは手を繋いでるのは日常茶飯事ってことなのか?」
「クラスの皆も恋仲って事は知ってるんですし問題ないですよね?」
「うーん…ないんじゃないかなぁ?」
「では、このままで」
「いや、でも」
「このままで。」
「はい。」
柊磨は、右手の力を少し抜き手汗を誤魔化そうとする。
しかし、シェルミアがその分力を入れる。
「気にしないって言ってるじゃないですか。」
「…」
『午前9時です。』
車のデジタル時計が時間を知らせる
「なぁ、魔導大学ってどんな所なんだ?学科じゃなくて見た目の話だけど」
気になった柊磨は夏花に魔導大学について聞く
「建物は教会に似た感じね。まぁファンタジー意識で建築したんでしょうけど、あくまで見た目だけで中は普通に現代って感じよ。入ったら、普通の大学と変わりないのよ。初見の大体の人は建物の中に入った瞬間、あれ?思ってたのと違うって感じで少しテンション下がるわね、初見殺しってやつよ。」
「へぇ…」
「ちょっと想像してみてよ。教会に入ってみたらすぐ真横に職員室のオフィスがあったって。」
「………やだなこれ」
と柊磨はあからさまに嫌な顔をしながら答えた。
「そもそも、今この世界ってどうなってるの?」
柊磨が話を変える
「まぁ、そろそろ着くからその話は先生に聞いて、長くなりそうだから説明するのは面倒なのよ。」
「先生って?」
柊磨は夏花に聞く
「魔大の教授の佐田教授って人よ。」
「凄い人なのか?」
「変才よ」
夏化は答える。
「変才?」
「そう、変異的天才、略して変才よ。」
「変異的?」
「えぇ、変異的。」
「その佐田教授って人は普通の人とは違うのか?」
柊磨は夏化に聞く。
「佐田教授は上位魔導士が覚えるのに4年はかかる魔法を2時間ちょっとで習得したのよ完璧にね。それに佐田教授は、現代に魔法の取り入れを行った人物だったの、だから変異的天才って言われてるのよ。」
「佐田教授が魔法の現代活用って本を執筆してましたよね。」
シェルミアが話ながら右手でスマホを操作し画面を柊磨に見せる。
見せてくれたのは。ネットショッピングのサイトのページ、現代での魔法の活かし方と書かれた本だった。
「これ、かなり売れたみたいよ。」
とシェルミアは柊磨にスマホを渡し、柊磨は左手でスマホを受け取り画面を見る
「へぇ…評価も高いな」
レビューには、平均4.5の星と数百件のレビュー欄が表示されていた。
「これが発売されてから、だんだん魔法使う人が増えたのよね。その1ヶ月後には学校の授業でも魔法の技能が追加されたのよね。」
「へぇ…夏花姉もこの本見て魔法習おうと思ったのか?」
「いやいや、私は浪漫を求めて魔法使えるって知った時点で魔法を習ってるのよ。あんたと同じよ。柊磨も力が欲しいかって言われたらもらうでしょ?」
「確かに、そりゃ浪漫求めるな。」
柊磨は即答した。
異世界に憧れている柊磨には答えはYESだけだろう。
「あ、そろそろ到着するわよ」
と、夏花は車の速度を一定に保ちながら安全運転で前方の遠くを見る。
微かに大学らしき先程聞いた教会に似た建物が見えてきた。
「りょかい」
柊磨はかるく答えシェルミアにスマホを返す
「ありがとな」
「うん」
未だに、柊磨の右手とシェルミアの左手は繋いだ状態である。
「あのさ、そろそろ手離そうか」
「まだ着いてない」
「いや、もうすぐ着くからさ」
「到着するまでが恋人繋ぎです。」
「遠足みたいに言うなよ。」
「私と手を繋ぐの嫌なの?」
シェルミアが少し怒った口調で左手に力を入れた。
「嫌なことは無いけどさ、やっぱ手汗が」
「だからさ、私は気にしないって」
「…」
柊磨は少し呆れながら
「はぁ、わかったよ」
ため息混じりに答えた。