【第一章①】先生やることになりました
自称神との電話で言われた大木の下にいたのは一人の少女
リヒトは少女に話しかける決意を…
というか、自称神に言われたままの行動をとってみることにした。
そこにいたのは一人の少女。
本を抱えて肩を震わせている。
いやいや、いきなりこんなハードモードなエンカウントから始めるんですか?
自称神ほんとにうぜぇな。
もっと簡単に力仕事とかにしてくれよ。
「あ、あの…。どうかされましたか?」
いやいやいやいやいやいやいや、どう見てもこれやばいでしょ
だって考えても見てくださいよ。
記憶が確かなら俺は20代中盤の男性で、目の前で泣いている子はどう見ても学生さんじゃないですか!
こんなところ警察官のお兄さんたちに見られたら完全にアウト
身の潔白を証明したところでどうせ聞いてもらえない!
最悪豚箱生活の始まりじゃないですか!
会社クビになって、自称神様を名乗るやつにそそのかされて女の子に話しかけましたなんて絶対に黒だ。
あの自称神いつか絶対復讐してやる
そんな軽率に声をかけてしまったことに超反省していた俺のほうを少女が振り向く。
目を赤くしているところを見るとやはり泣いているようで
これはやっぱり見つかったら完全アウトな雰囲気。
「え?…わ、私ですか?特にどうってこともないんですけど…」
ですよね~
見ず知らずの男にそんなこと言われてもそうですよねー。
どっからどう見ても怪しいですもんね。
そうして少女は俺のほうを黙ってみている。
なんか、すげーじろじろ見られている気がする。
「あ、あの。その恰好もしかして学校の先生か何かしてらっしゃいますか?」
そう、俺のことを観察し終わった少女は問いかけてくる。
その恰好といわれてもただ普通のビジネススーツなのだが
「いや、そういうわけではないんだが、ここでこういう格好しているのは教師だけなのか?」
子どもからの問いかけに対して問いかけで返してしまった。
「あ、そ、そうですね。そのようにタイを巻いている方はたいてい教師ですね。ちょっとビックリしましたが、教職の方なら安心です」
おいおい、ちょろすぎんだろ。
世の中悪いこと考えている教師も少なからずいると思うんだけど。
「で、あんたはなんでこんなところで本を抱えて泣いてたんだ?」
「えっと、見られてしまっていたのですね。恥ずかしいです。悩みがあるときにはここに来るようにしているんです。そしたら自然と涙が出てしまっていて…。どうしてもわからないんです…」
そう頬を少し赤くして答える少女は大事そうに抱えていた本を見せてきた。
数学だ。
大学入試の時に必死に勉強していた数学がそこにある。
「あー。数学の問題がわからなくて悩んでここで泣いていたと…?そんなに難しい問題なのかそれ」
こくりと小さくうなずく少女。
「あー、ここであったのも何かの縁だ。俺もそんなにできるってわけではないが、俺でわかるんだったら教えてやるから。ところであんた年はいくつだ?それで習っていることがだいたいわかるから教えてくれ」
大学時代に塾講師をやっていたから、だいたいだが、何年生で何をやるかくらいは覚えている。
見たところだいたい中学生くらいの見た目なんだけど、女の子は見た目ではあんまり年齢わかんねーからな。
「あ、はい。今年で15になります。名前もまだでしたね。私、アリスと申します。あなた様は」
「あー。すまん。俺もまだだったな。えーっと、リヒトだ」
さっき自称神に与えられた名前だからすぐ出てこなかったわ。
「で、アリスさんどの問題なんだ?」
「あ、えっと、これです」
そう指をさしたのは二次関数の問題。
15歳って中学三年くらいの年だから、教わる内容も同じなんだな。
「この、関数y=ax^2のaを求める問題で、どうしてもまだこの問題に慣れていないようで、aが求められないんです」
そういってうつむくアリス15歳。
習いたてってことらしい。
習いたてで二次関数と一次関数の複合問題ってのは少ししんどいかもな。
「あーオッケーわかった。この問題は、まず、与えられた点Aがあるだろ?こいつを通ってる直線がy=2x+8だ。二次関数のaを求めるために必要なのは何だったか覚えているか?」
「えっと、関数y=ax^2上の点を代入すれば求められます」
「よし、よく覚えているな。そしたら、その関数上の点は今回x座標のみ教えられている。この直線の式を使えばその点Aのy座標が求められるんだが、ここまで大丈夫か?」
「はい。では、この点Aのx=-2というのを使えばいいんですね」
「そりゃそうだ。じゃなければ、この問題は解けないからな。その値をどこに代入するかだな」
「えっと…直線の式に代入すれば、y座標が求められます」
「そうだ。そうするといくつになる?」
「えっと…y=6になるので、点Aは(-2,6)になります。それじゃあ、これをy=ax^2に代入すればいいんですね」
「そのとおり。できるじゃないかアリス」
「できました。y=3/2x^2になりました!解答にもそうなってます!」
悩んでいた問題が解けたようですごくうれしそうな表情を見せるアリス。
「よかったな。これで悩みは解決したようだな」
「はい!ありがとうございましたリヒトさん!それにしてもリヒトさんとても教えなれていましたね。やはり教師なんですか?」
「いや、教師になったことはないが、昔少しだけ、教えた経験があるだけだよ」
なんだかすごくキラキラした目でこっちを見て質問をされている。
そんな視線いつぶりにもらったよ。
あーそうだ。前も同じように塾講師してた時だな。
「リヒトさんはかしこい方なんですね。どこか大学なども出られたのですか?」
かしこいね…。
かしこかったらクビになってなかっただろうよ
「いや、別にそんなかしこいってことは全くないんだけど。大学は有名じゃないけど4年制のところは出ているよ」
「すごい!4年制大学に入るのもすごいですが、しっかりと卒業される方は本当に多くないんですよ!」
マジか、ここの感覚だとそんな感じなのか…。というか、ここがどこなのかとかも知らんからな。
「ところで、私はたまにここに来るくらいですが、リヒトさんはここで何をされてたんですか?」
ですよねー。
いい年下大人が日中からぶらついてたらそりゃ気になるよね。
「え、えーと。実は、あんまり記憶がなくてだな。気が付いたらこの木のそばで目を覚ました。ここがどこなのかも知らないんだ」
うん。ウソは言ってないんだよねー。
ほんとになんでここにいるのかわかんないんだよねー
「記憶喪失というものですか…。それでは、私の悩みを解決してくれたお礼をさせていただければと思うのですがいかがでしょうか?」
中学生にお礼って、そんなたいそうなことしてないんだけどな。
「ぜひ、私の城まで来てほしいのですがいかがですか?」
うーん。どうしたものだろうか。
中学生に誘われるがままついて行って結果豚箱行きは嫌だけど、行くところなんかもないからなー
「では、アリスさんのお言葉に甘えることにしようかな」
でもどうやって行くんだろうか?
「たぶんそろそろお迎えが来るでしょうからそれを待ちましょうか」
お迎え?え?警察とか嫌だよ?
そんなことを悶々と考えていると遠くから声が聞こえたような気がした。
「・・・・さまー!アリス様!!またこちらにいらしていたんですか!!」
そう息を切らして走ってきた男が叫んでいる。
それより様ってお姫様かよ。
「ああ、やっと来たのねショーン!遅いじゃない!いつもよりも15分くらい迎えに来るのが遅いわよ」
15分って厳しいな。というか毎回同じ場所なのになんで遅れてくるんだ?
「アリス様!そんなこと言われましてもいつの間にかいなくなるのを私は何とかしてほしいのですが。今回は私が気が付くのが遅れてしまったのが遅れてしまった原因です。申し訳ございません」
うわ、こいつ失踪癖ある感じの子なのね。
「ところで、この男性は誰なのですか?」
まぁ、そうなりますよね…。アヤシイモノジャアリマセーン。
「ショーン!そんな敵を見るような目をしてはいけません。この人はリヒトさん。私の悩みを解決してくれた人なのよ。どうも行く当てがないらしいから一度お礼をするためにも城に呼ぼうとしていたのだけど問題ないわよね?」
完全にわがままお嬢様じゃんショーンさんなんかすいませんね。
「かしこまりましたアリス様。では、お城までは少し距離がありますので、馬車に一緒にお乗りくださいリヒト様」
お城って言ったよね今?
マジでお姫様なのかアリスさん。
「では、行きましょうリヒトさん」
そう、素晴らしくまぶしい笑顔をして馬車にエスコートしてくれるアリスに俺はただついていくしかなかった。
馬車での移動途中で俺は、ショーンからかなり疑わしい目をされながらいくつか質問を受けた。
どこから来たのか、今まで何をしていたのかといったことだったが、俺は分かる範囲と答えてよさそうな範囲の内容をのらりくらりと返した。
「それで質問は終わりかショーンさん。俺も俺自身がなんであそこにいたのかなんかわからないんだ。わかる限りのことは話したぜ。
「ショーンもそんな怖い顔して聞かないの!ダメでしょ?リヒトさんは記憶喪失なんだから本人も混乱しているのよ」
「で、ですがアリス様。さすがに得体のしれない男性をお城にお連れするのはさすがに問題になるのではと思いまして…」
まぁ、そりゃそうだよな。
「ところで、俺からも質問してもいいか?ここがどこで、今向かっている場所についてなんだが」
「ここは、極東の島国サラシヴァン王国。そして今向かっているのはサラシヴァン王国の首都シュメートよ。私の城もそこの中心部に近いところにあるの。今はそこに向かっているわ」
これ、マジで日本じゃないんですね。
あの自称神様なんてことしてくれたんだよ。
「ほかには質問はある?」
「え、えーと。日本って単語聞いたことある?」
「ニホン?ショーンは知ってる?」
「いえ、聞いたことありません。何かの専門用語ですか?」
あ、えーっと俺のいた世界の専門用語の一種になるのかな…。
「うーん。そしたら、俺はやっぱり何も覚えていないようだ。今の単語と名前くらいしか覚えてなかったから。何かの手掛かりになるかと思ったが忘れてくれ」
「そーなの。わかったわ、そういえばさっきリヒトさんは子供に勉強を教えていた経験があると言っていたけれど、職業は違ったの?」
痛いところついてくるなー。
無職ですってのもあれだし、アルバイトって言葉も通じるかわかんないからなー。
「前の職に就く前に数年間雇ってもらっていたところです。学生時代でお金も足りなかったので」
「え?学生時代に働きながら勉強をしていたの?本当に優秀な人なのねリヒトさん!」
日本の学生の大多数がそうなのだが、ここは黙っておこう。
「教えるって言っても、自分が勉強してきたことを伝えているだけでしたから、そんなたいそうなことはしてませんよ」
「そうなの。十分にすごいことだと思うのだけれど…ショーンあなたはどう思う?」
「そうですね。私は義務学校までしか行っておりませんでしたので、アリス様のように高等学校の内容は正直さっぱりで…。大学まで進まれていたとなるとかなり名家のお生まれなのでしょうね」
日本の大学進学率が、全国平均でだいたい6割に届かない程度だったと聞いたことはあったが、こっちの世界はお金持ちしか上に進めないんだな。
「ちなみに、アリス…様は高等学校に進まれているということですが、こちらではどのような区分になっているのですか?」
「さっきみたいにアリスでいいわよ。みんなショーンみたいにかしこまっちゃうと息が詰まりそうだから普通に接してくれていいわ」
「ああ、すまない。わかったよアリス」
でも、ショーンさんの目がめっちゃ怖いんですよね…。
「ショーンの出た義務学校は6歳から13歳までの7年間で、私の今いる高等学校は14歳から18歳までの5年間。そこから大学であったりという形で進学もできるわ。リヒトさんの行っていた4年制大学はその中でも進学は最難関よ」
そしたら、高校卒業の年は変わらないのか。
やっている内容が変わらないからその部分は同じような感じなんだろうな。
「ちなみにリヒトさんはその先生をしていた時期には何を教えていたのかしら?」
だいたい全部教えていたが、ここまでの話をまとめると社会に関しては専門外になりそうだな。
地理もわからなければ、歴史も全く違うものだ。国の制度等も全く違うだろうからな。
「そうだな…。メインは数学かな。外国語と理科もそれなりにって感じだ。国語についてはあんまりだったかな。社会はちょっとブランクがあるからほとんど教えていなかった」
「まぁ、外国語までできるのね!どこの国の言葉ができるのかしら?もしかしてこれも読めたりするんです?」
すごく興味津々にかばんをあさり始めるアリサさん。
ほんとに楽しそうな表情をしているのでこっちまで幸せな気分になってくる。
「私たちが今使っている言葉とは別のもので、ブラキッシュ王国の言葉のだけど」
そういって広げてくれた本に書かれていたのは、アルファベット。
しかもよく知っている英語だった。
「これは、ブラキッシュ王国の言語なのか?俺が以前勉強していた言語と同じようだ」
「まぁ!じゃあ、これもできてしまうのね!素晴らしいわ!」
そんなべた褒めされたところで、俺はただのニートですよ?
「さあ、ついたみたいよ。ようこそクリスフォート家へ」
馬車を降りると本当に目の前にはお城が立っていた。
某夢の国にありそうな感じのお城がそこには立っていた。
「ほんとにお城なんだな…。すげぇ…」
「こっちよ。ついてきて」
そういわれるがままについていくとお城の中にある部屋に通された。
客間なのかいろんなものが飾ってあったりする。
そこで待っていてといわれ座ったソファはとてもフカフカで高級なんだろうというのが伝わってきた。
少し待つと、アリスが男の人を連れてやってきた。
「君かね?リヒト君というのは、私はアリスの父でケイン・クリスフォートだ。記憶喪失との話も聞いたが、どうかね少しの間私たちのところにいるというのは」
願ってもない言葉だった。
無職で帰る家もない俺はこれからどうすればという状況だったのだ。
こんなに素晴らしい家に居候できるなんて最高じゃないか!
「ただし、条件があるのだが、どうだね悪い話ではないと思うのだが」
「そうですね。正直帰る場所もわからない状態でしたので、素晴らしいお話だと思います。ところで、その条件というのは?」
「働かざる者食うべからずだ。そこで君には少し働いてもらおうと思ってね。聞くところによると君は以前教師のようなことをしていたらしいではないか。そこでだ。アリスに勉強を教えてやってくれないか?この子は人一倍努力家なのだが、わからない問題が出てくると今日みたいにすぐにあの木の下に行ってしまうのだ。高等教育まで学んだものは居なくはないが、教えるのとなるとまた別だ。だから、君がここに住む条件としてアリスに勉強を教える家庭教師のようなものをしてほしいのだが、どうだろうか」
「えっと、本職でもない者がそんなことしても大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。現に君は先ほど問題を教えてくれたそうじゃないか。アリスも気に入っているようだしぜひお願いしたいのだがどうかな?」
あの木の下でやったみたいにやれば、家も飯にもありつけるのか。
これはバイト以上にやる価値がありそうだな。
「わかりました。私でよければよろしくお願いします。ただ、数学はいいのですが、それ以外の科目に関しては若干ブランクもあるのでおいおいという形でもよろしいですか?」
「かまわないよ。できる限りで大丈夫だ。自分で学びたいということであれば、部屋も書庫もあるからそこでやればいい」
「ありがとうございます。ぜひこれからよろしくお願いします」
「これからよろしくねリヒトさん」
「ああ、よろしくなアリス。それと俺のことはリヒトでいいよ」
「わかったわリヒト。部屋で準備をしたらさっそく聞きたいところがあるからこの後お願いしてもいいかしら?」
「ああ、わかった。準備が終わったらすぐに行くよ」
何とか、衣食住関しては手に入れることができた。
何だかんだあの自称神様の言う通りにしてみてよかったみたいだな。
部屋に案内され、空き部屋というには豪華すぎる部屋を貸してもらえることになり若干困惑したが、もったいないからちゃっかり貸してもらうことにした。
――――ヴーヴーヴー
また、非通知での着信が来た。
というか自称神どうやって携帯動かしてるんだ?
「はい。どなたですか?」
「えーひどーい。神様からのラブコールだよー?」
「切っていいですか?というか、切りますね」
「ちょ、ちょっと待って!ほら、いう通りにしたらいいことあったろ?これで念願の先生にもなれたわけだし、頑張ってねリヒト先生!」
「あーはいはい。あんたのいうこと聞いたらうまいこと言ったとは思うよ。ただ、これ失敗したら俺どうなってたんだよ」
「うーん。それはー。サバイバル生活しかなかったよねー。でも、ちゃんと生徒もいるわけだし、アリスちゃんだっけ?仲良くやるんだよ?」
「何が仲良くだ!サバイバル生活とか無理だわ!で、自称神様はこれを言うためだけに電話してきたのか?」
「そだよー?とりあえず新しい世界の新しい生活頑張ってね!応援してるぞ★あ、ちなみにー君が心配していたことだけどー。社会の地理歴史は無理だと思うけど、政治経済分野はほぼ同じだし、それ以外の科目も若干名前は違っても同じだから気にしなくて大丈夫だよー頑張ってねリヒト先生★」
「あ、自称神様一つ聞いてもいいか?」
「いいよー。元の世界に戻る方法はあるけど、私を殴りに来る方法はないからねー」
「あーわかった聞きたいこと全部答えてくれてありがとう。どちらかといえば、後者のほうがあってほしかったんだがないのか」
「なくはないけどー、教えたら絶対殴りに来るから教えませーん★じゃ、また暇なときに電話するからねー。今度からは非通知じゃなくて普通にかけるから『GOOD』って通知が出たら必ず出てね」
「お前、ほんといい製革してるよな」
「わーい褒められた―。んーじゃーねー」
「ほめてねーよ!!」
こいつの相手するとほんと疲れるな。
ほんとに何なのこいつ。自分の登録GOODって。しかも見たらGOOD以外の登録なくなってるし。
友達いないんだろうなあいつ…。
―――ヴヴッ
お、今度はメールが来た。
「いるもん!友達たくさんいるもん!フーンだ(# ゜Д゜)」
絵文字までつかってきて…暇かよ…。
―――コンッコンッ
「リヒトさん。お嬢様がお待ちです。準備はもう済みましたでしょうか?」
「ああ、今行く」
何だかんだ願ったことが少しずつ始まり始めたみたいだ。
どうも唯織です。
xの二乗ってどうやったら打てるんですか?
とりあえずでx^2ってしてみましたが、読みにくさMaxですね。
あと、問題の数字テキトーに作ったら分数になってさらに読みにくさ上がりましたね。
英語あんまり得意じゃないんですけど、次回は英語も頑張ってみます。
基本中学までの内容を中心にやっていくつもりです。
数学と理科のみ高校範囲は入るかも…?