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《暴徒》  作者: 低学歴snob
Case 1.
9/15

Case 1.「その理由。」

物語のストーリー上、少し差別的なニュアンスや軽度の下ネタが含まれます。留意の上お読みください。

ある晴天に恵まれた日のことだ。こんな日に野郎と事務所に籠るなど正気の沙汰ではない。


「あれ?音喜多さん。音喜多さーん?チョット!どこ行くんですか?書類たま…


ガシャン_


河原町通を南下して四条通に差し掛かった時だった。シックなお店を見つけた。


「いらっしゃいませ。当店は初めてでしょうか?」


顎先ほどで切り揃えられた黒髪。オフホワイトのブラウスにモスグリーンのガウチョパンツ。清楚な装いの麗人だ。


「通りがかりに雰囲気の良いお店を見かけたので立ち寄らせていただきました。」



「そうだったのですね、ありがとうございます。当店はオーガニックにこだわった食品や化粧品、アロマオイルなどを取り扱っております。なにか体調などでお困りのことはありませんか?お役に立てることがあるかと思います。」


「アロマか。なにか睡眠に効くものはないか?」


3年前、記憶がある日からだ。何か夢を見る、そして夜中に飛び起きることが月の半分ほどある。目が覚めてしまえばなんの夢だったかは忘れてしまう。ただ額から頬へと冷たい汗が伝う。


「睡眠ですか。それだとやはりラベンダーが一番人気ですかね。ですが、個人的にはフランキンセンスやミルラのようなウッディな香りもお勧めです。」


おそらく、彼女に意図はない。偶然だ。


「それと黄金でもあれば私は救世主ですね。」


乳香と没薬。


「はい?」


キョトンとした顔をする。


「いえ、なんでも。では、ミルラの方をもらえますか。」


悪趣味だ。知っていて選ぶのだから。ただ、祈るよりもそちらの方が救われる気がした。


会計のカウンターへと向かう道すがら。


「お仕事はなにかの社長さんか何かですか?」


彼女が質問をしてきた。


「なぜそうお思いに?」


カウンターにつく。


「平日の昼下がりに時間に自由が利くということは、自営業かなと。」


レジスターを叩き、紙袋を広げる。


「間違ってはいないですが、こういうものです。」


商品を紙袋へ入れる彼女に、コートの内ポケットの中の名刺を差し出した。


「探偵事務所?探偵さんなんですか?初めて本物の方を見ました。」


「えぇ、まあ。職業柄あまり口外することもありませんが。」


「そうなんですね。やっぱり、難事件とか解決するんですか?」


若干目を輝かせている。


「いえ。実際のところ猫探しか、人探し。一番多いのは浮気調査とかですよ。」


浮気調査。と口にした時に少し顔が曇った。


「あのう。ご相談したいことが。」


彼女とは日を改めて話を聞くことになった。____


明くる日、彼女から連絡を受け。仕事帰りに職場の近所の公園で話を聞くことになり。彼女の仕事が終わる時間を目掛けて足を運んだ。


約束の時間に数分遅れでやってきた彼女は、私の姿を視界に捉えると駆け寄ってきた。


「すみません、少し長引いてしまって。待ちましたか?」


「いえ、私も丁度ついたところです。」


そんなテンプレートな会話をしてから、どうせならと公園を回りながら話を聞くこととなった。


「それで、その彼氏が最近休日になると一人でどこかに行ってしまうんです。理由を聞くとあやふやにはぐらかしてばかりで。あまりモテる人ではないし、真面目な人なので浮気ではないとは思うんですが。悪い女に引っかかってるのかと。付き合って2年にもなるのに私に触れようともしないですし。」


しばらくの談笑の後に本題へと話が流れた。


「相談したいこと。とはそのことですか。その彼の身辺調査のご依頼でよろしいですか?」


その日から調査を始めた。調べれば調べる程、真面目で実直な人だとわかった。だが、休日になると宝飾店に足を運び、高価そうなアクセサリーを見ては店員に声を掛けられると逃げ出すように店を後にしていた。キャバ嬢にでも貢いでいるのかと調査を続けたが収穫はない。


そして問題が起きた。


「考え難いとは思ってたのですが、やはり以前に報告した特定の人物と深い関係にあるようなんです。」


その日報告の約束があり依頼者の職場の近くへと向かっていた。しかし、依頼者の彼女から急用が入ったと連絡を受けた。


仕方がないので事務所を戻ろうとした時だった。その人物がホテルへと入っていったのだ。慌てて追ったが完全に見失ってしまった。


「正確な情報ではないので真偽はまだわかりません。ですが、信じがたい事実ですが…」


「やはり女性の影が…。」


「いや、男性の影が。」


依頼者との報告にいつも利用している喫茶店で話していた時だった。


「澪!!」


後方から男の声がした。


「新次さん!!なん…」


振り向くと調査対象者とその男が立っていた。


「お連れ様ですか~?どうぞ~!」


能天気な店員。


Uの字のソファのボックス席だ。自然か不自然か私は彼女の横へと移動し。彼らと向かい合わせとなった。


そして、沈黙が落ちた。アイスコーヒーの氷が、場違いなほどカランと軽快な音を立てた。____



沈黙に最初に耐えられなくなったのは。


「すみません!状況の整理を始めてもよろしいでしょうか!!」


テーブルを叩き立ち上がった男色。


「あぁ、許可しよう。だが、驚いたよ高千帆くん。いや、悪いことではないのだよ!いまでは各方面でもそういう方は活躍しているし。偏見も、最早ないに等しい!だが、これまで結構な時間を共にしてきた君がそうであったとは。そういう”()”は全然気が付かなかったため、少し。少しばかり驚いただけなのだよ。今後については少し広めのエアギャップを持って話し合っていこうじゃないか!」


「なんの話ですか!!それよりも貴方って人は!その方に未来を誓い合った方がいると知っているんですか?」


「あ!!それはまだ!!」


「わたしに触れないとは思っていたけど。真面目なんだなぁ。結婚まではプラトニックな関係が良いのかなぁ。古いけど素敵だなぁ。なんて思ってたのにィ!ソッチならソッチと言ってくれたら…それ以前にそれならなんでわたしと!!」


相棒の相棒に危機感を覚える者。呆れながらもどこか信頼していた人が人妻を寝取ったと落胆する者。まだしていないプロポーズを他人にされそうになり焦る者。周りの話など耳に入らず泣き出す者。


阿鼻叫喚である。____



その後、落ち着いてから話を整理すると偶然とタイミングの悪戯(いたずら)だったとわかった。宮内さんが心配していたのは、遠藤さんがプロポーズの準備をしていただけだった。そして互いが互いの担当者との報告を目撃していた。


「変な形ですが、一生忘れられない両方にとってサプライズプロポーズになりましたね。音喜多さん。それにしても、どんな勘違いですか。そんなわけないでしょうが!!」


「いや。しかし、君は何しにホテルへ?」


「なにしにって、宮内さんを追って…って、音喜多さん手出してた!!」


「いや、私は行っていない。君を見かけた立場だからね。」


「では…。」


「人が他人(ひと)を疑う理由は大きく2つだ。遠藤さんのように自身に極度に自信がないか、もう一つは自身がやましいかそれに準ずるものだ。」

前書きに書いたことですが、不快感を覚えた方がいなければ幸いです。


次からは2章へと入っていきます。音喜多と高千帆の出会いの物語です。

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