5話 「君は誰。」
バンッ
激しい音と共に開け放たれた扉。
残り時間:32秒
カチカチカチカチ____
カッターを手にする。
妙にネジが硬い。机の上も整理しない男が無駄にそういう事だけきっちりする。回す時間も惜しいというのに。
そして、赤いコードを切った____
24、23、22……。
ダメか!!
21、……。……。
「……止まったッ!」
往復約2時間半も走った男は、事務所の床に横たわった。
「やりましたよ!!音喜多さん!!」
……。返事がない。
「音喜多さん??」
顔を上げ、入口の方を見る高千帆。
誰もいない____
それもそうである。行きであのザマだった男が、帰りも走れる訳もない。
「タ……、たかち、ホ……。」
道に倒れている男が1人。_
来ないのに気づき、行き倒れの音喜多を想像する。
「あなたって人は……。」
高千帆は、その日6度目の溜息をつく。_
「やぁやぁ、高千帆くん!事務所が吹っ飛んでいないということは解除に成功したのだね?」
「やぁやぁ高千帆くん!。じゃありませんよ!!探偵が体力なくてどうするんです!?犯人追いかけるとき困りますよ!?」
「高千帆。普通の探偵社は犯人を捕まえたりしないのだよ?普通は浮気調査や人探しだからね。走るとしても猫探し程度ではないかな?犯人を捕まえるのは警察の仕事なのだよ。」
「爆弾を解除するのも警察の仕事だと思うんですけどね!?誰かさんが請け負うなんてキメ顔で言わなければ!!」
「ノンノンノ〜ン。たしかにここは普通の探偵社だが。私は名探偵なのだよ!!」
「くたばれ。」
「うむ。先程までくたばっていたのだよ。」
「で?謎解きをお願いしていいですかね?名探偵?」
「うむ。まずは”悪”についてだね。」
悪を躊躇し。悪を目にし。
悪を咎め。悪に当てられ。
悪を決意し。悪に染まる。
「これは、ある下人が主人に暇をだされ、盗人になるか迷う中、死体の髪を抜きカツラにして売ろうとする老婆を見たその下人は老婆を問いただした後にその老婆から着物を剥ぎ取ったというお話だ。」
「羅生門ですか。」
「そう、羅生門。これは作者が生を得るために悪に堕ちる話のためそう変えたが。正しくは羅城門なのだよ。」
「そういう事ですか。なら、赤いコードは?」
「”手紙は挨拶の始まりが重要”とあった。それは挑戦状の挨拶のことだ。」
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挨拶から始めよう。ご機嫌麗しゅう。
仮にワタシはXと名乗ろう、ワタシX
を捕まえたくば、次の二つの問を解け
期待しているぞ?音喜多 助よ。幸運あ
れ。
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「挨拶の始まりが重要。つまり、最初の文字なのだよ。」
「挨、仮、を、期、れ?……、赤を切れ!!」
「そう、平仮名にした最初の文字だ。」
「始まりが終わりだった訳ですね。ほんと子供騙しばかりですね。」
「あぁ、私達はその子供騙しに振り回されていたのだよ。ところで、高千帆くん。」
「なんです?」
「今回の事件、whodunit、それは君じゃないのかね?」
※whodunit:誰がやったか
横目に高千帆を捉えながらそう言い放つ。
「はぁーー!?」
あまりの驚きに言葉を無くす。
「時限爆弾など。危害を加えるつもりはないと最初から言っているようなものではないか。」
「危害を加えるつもりなら、開けた瞬間に爆発するようにするはずだ。ということですか。だから、通報の必要はないと。ですが、それだけではないですか。」
「いや、今回君は私にヒントを与えすぎなのだよ。本能寺が元あった場所然り、規則性から外れた書籍然り。」
「本能寺跡の件は歴史が好きなだけですし、書籍においては音喜多さんがだらしないだけじゃないですか。」
「ふッ、記憶にはないが私なら戻すことすらせず。雑然とそれでいて美しい机のインテェェリ゛ア!として置いておいたことだろう。」
両手を広げさも自慢気な音喜多。
「なお悪いわ!」
ツッコミの後に音喜多は真顔になり
「しかし、私が話の中の一節『さがなくてよからん』と読んだ。なぜ無惡善、つまり悪と理解できたのかね?」
「前に一度お借りして読んでいたのを覚えていただけですよ。」
それを聞いて音喜多は微笑んだ。
それこそ、『小野篁、広才のこと』のように。
whodunit、君は誰なのか。