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《暴徒》  作者: 低学歴snob
二章 偶然か必然か
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8話 「貰った物の重さ」

太陽は一番高いところへと昇ろうとしている。それにも関わらずその顔は出さない。未だ暑さは抜けず、空を覆う雲は蓋をした蒸籠(せいろ)のようだ。


だのに、()れた白いTシャツの上にカーキ色のモッズコートを着ている。


「暑くないんですか?音喜多さん。」


額に浮かべた汗を腕で拭いながら問いかける。


「あぁ、これか。貰い物でね。良くも悪くも(くびき)のようなものだ。」


不自由は時に便利なものだ。やらねばならないことだけを強制的に見せてくれる。


約束なんかしてはいない。まして、その人のためなどでもない。たまたま都合がよかっただけだ。貰った時からボロボロだったコート、それの重さが目的を常に指し示してくれる。他人のためなんかではなく、自分のためでしかない。


「で、くびきって何ですか?」


「そこはツッコむところではないであろう。君は案外友達少ないだろう?」


それを面と向かって言う方も言う方である。


「おー、あんちゃん達ご苦労ご苦労。で、なんかわかったかいの?」


ゴムの伸びた麦わら帽子を被り、汗かいた薬缶(やかん)を掲げながら近寄ってきた。


「熊夫のじいちゃん、進展なんてないですよ。荒らされたっていう、かろーと?を調べられないんですから。」


熊夫じいちゃんから薬缶を受け取り、口を付けないで中身を流し込む。(たばこ)の葉のような香りのする、少し出しすぎた麦茶だ。しかし、喉の渇きはそんなことなど気にも留めさせず、口の端から溢れるほどに流し込ませる。


「そうですね、実際のものを見ないことには。周りを探すだけでは手掛かりが見つかるとも思えませんね。」


数時間辺りを調べたが目に留まるのは、墓石と周りの砂利と、あとは風に舞い転がされる黒い灰くらいだ。


荒らされたという墓の納骨室を調べようと管理者である守屋に許可を取りに行ったところ、


“前にも義父(ちち)責付(せっつ)かれて調べましたが何もありませんでしたし、何度も何度もカロートを開いては故人が安らかに眠ることができません。それこそ、私たちが墓荒らしになってしまいますよ。ご家族の方に何度もなんと説明しろと?みんなアナタたちのように暇ではないんですよ。"


けんもほろろに却下された。


「でも、さっきアレだったんですから。どうなるわけでも無いんじゃ。」


音喜多へと薬缶を回す。


「進展が見られないのだから、無理を承知でも…、やはり君は友達いないだろう。」


先程の会話の仕返しがネチっこい。薬缶を傾けても、逆さにしても舌先に数滴落ちるばかりである。_



「バレたら両方終わりなんだぞ?なんなら爺も…」


「待ってください!それだけは…。」


「なら、目障りな奴らをさっさとどうにかしろ。そのせいで、アッチだって片さなならねぇんだからよ。」


派手な柄シャツを着て、金のチェーンを下げた今時珍しい古風なチンピラだ。穏やかならぬやり取りを終え、男達は立ち去った。


「思わず隠れてしまいましたが。守屋さんと、あの男は誰でしょう。」


事務所の裏手で行われた会話を盗み聞きしていた音喜多ら。


「全うではないのは確かだろうな。男を追ってくれ。」


「どっちをですか?…冗談ですよ。そんな顔で見ないでくださいよ。」_



「守屋さん。」


「は!はい!?」


さっきの今で動揺が顔を出す。最初から妙な忙しなさを見せていた守屋。今事件のキーマンであることは間違いないのだが、なにか被害が露顕した訳でもなく詰めには数手足りない。


「親族の方に了承を取って頂くことは、やはり難しいでしょうか。」


「し、執拗(しつこ)いなアンタも。そもそも、なんの権限があって警察紛いのことをしているんだ!それこそ、警察を呼ばせていただきますよ!」


最初から守屋の言い分は正しい。なんの権限も、指したる関係もない音喜多らは人様の土地を明確な了承を得ずして闊歩(かっぽ)し、あまつさえ墓を暴けと言うのだから。


年の功なのだろう。降りかかる火の粉の払い方を心得ている。


「そうですか、わかりました。しかし、私達は必ず真実を白日の下に晒すことをお約束します。」


音喜多からの宣戦布告である。


「なんだと!」


蟀谷(こめかみ)に青筋が浮かび上がる。


「あれ?なぜお怒りになられているんです?管理者として、問題があるならば解決するのが道理。なにか問題でもお有りですか?心許(こころばか)りのお手伝いをと言っているのですが。」


反応から察するに墓荒らしの一件に関与してるのは自明の理であり、守屋自身もそれに気づき真っ赤になった顔で平静を取り戻そうとするも、取り繕い切れていない。_



「で、あのチンピラは?」


守屋への煽りを終え、墓周辺に手掛かりが無いか探しているところに助手が戻った。


「この先を少し行ったところにボロボロの廃工場みたいなものがあってその中に入っていきました。中でなんか作業していたみたいですけど。」


「なぜ止めない!証拠隠滅を計っているのかもしれないだろう。」


「や、怖いです。」_



「ここかね。」


廃工場。そう言い表すのに相応した煙突が備えられた建物だ。外壁は黒ずみや錆などに覆われ、錆で浮き落ちた塗料だけが元は白かったのだと教えてくれる。持ち主がいなくなったと、その佇まいが物語っているためか不法投棄が横行しているようだ。


「あ、音喜多さん隠れてください。」


建物内から例のチンピラが出てきたのだ。


ガタン_


「クソ!いつまでこんなことしなきゃならねぇんだよ。」


転がされていた一斗缶に当たる男。その男の言葉からは彼自身が首謀して"なにか"をしている訳では無いことが感じられる。彼の上にも何者かの存在があるということだ。存外に大きな事件なのかもしれないと音喜多は感じ始めていた。


男は近くに停められた車に乗り込むと荒っぽくドアを閉め、そのまま走り去った。


「廃工場…ねぇ。」


一見すると廃工場と間違えても致し方ないことだ。周囲には多くの黒い灰がころかっていた。

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