プロローグ 「始まりの記憶」
____暗闇。血の巡らぬ頭。軋む体。重たいまぶた。
目を開こうと、薄目を開ける。
…ッ
開こうとした目に、強い光が入る。
レンズを通り、網膜に焼き付き、視神経を刺激する。
唐突な痛みに目を瞑る。再び暗闇。目に残留する微かな痛み。
ふと、体の一部に違和感を感じる。右手だ。右手だけが他に比べ温かく、少し湿り気を感じる。不思議と不快ではない。なぜなら、その温かさの正体は強く握られた誰かの手から伝わってくるものだからだ。
そうしてる間に、頭に血が巡り、痛みの消えた目を、再び開こうとゆっくりと薄目を開ける。虹彩が収縮する。真っ白な天井、壁。反射光が目に入り、また少し痛みを覚える。
視界の左側に、T字に別れその先が曲げられた金属棒。そこにぶら下げられた、透明な液体の入ったポリエチレン製のパック。ポツポツと一定の間隔で落ちる水滴。その下から伸びる管。
どうやら、病院らしい。____
視界の右端でなにかが動いた。手を強く握った、その人である。
「__たすく…さん!!」
目がかさついて顔がボヤけてしまう。しかし、長い黒髪が良く似合う女性だ。カサついた目尻を潤すように、涙を流しながら、今にも消え入りそうな声を発した。
____この人は誰だろう...。
それが私の始まりの記憶だった。