勇者パーティーの隠居生活 2
勇者と小悪党の喧嘩による爆発音に引き寄せられ、森の奥から姿を現したのは魔物ではなく人。
黄褐色の髪、マリーゴールドのローブに身を包み、毛先を自由に遊ばせている女性。
乱れた息と染まった頬から、慌てた様子が伺える。
「2人とも!やめてって何度も言ってるじゃん!」
2人の身を案じる健気なヒロイン-
ではなく。
「私の子供たちをこんな所で散らせないで!命を削るような戦いの中でこそ私の子供達は輝くの!」
道具を生み出す事に人生を捧げ、自分の作品を子供と称し、しかしそれを争いに使われる事を望んでしまった邪道の錬金術師 マリーナ。
勇者パーティーで唯一回復薬を調合することができる人物であり、このパーティーの核と呼べる存在。
尤も、薬師が作る物には及ばないレベルの代物ではあるのだが。
「せめて俺の心配をしてくれないか」
「ヒッ、魔王を一人で倒せるような勇者様に何の心配があるってんだよ」
「そーよね。
その化け物に一人で向かっていく貴方の方が心配だわ」
全く身を案じられない今代の勇者。
このパーティーは変人・奇人で構成されている。
「向こうでエリーが待ってるから、早く戻ろうよ!」
「こいつを殺してから走って行く」
「また随分とご立腹だな」
勇者パーティー4人目、魔法使いの女の子。
明るいピンクのフリルを揺らしながら、ピンクのステッキを振るう魔法少女。
であればどれだけこのパーティーが明るい物に見えただろうか。
いや、それだとただの気狂い集団かもしれないが。
実際の彼女は漆黒の古びたローブで全身を包み、呪文ではなく呪言により事象を起こす漆黒の魔女。
勇者パーティーではなく、世界征服を企む組織の幹部達。
そういった役職の方が似合ってしまう人達である。
「へぇ、エリーが早く来いって言ってたけどいいんだー」
「え」
硬直するガム。
彼は彼女、エリー・ジョンソンに頭が上がらないのだ。
「ここまで来るのにも時間かかっちゃったしー。
早く行かないと怒っちゃうんじゃないかなー?」
ここまで言われてしまえば、もうガムに思考の余地はない。
どれだけ早く彼女にたどり着くか、それだけだ。
「クソッタレが!!
覚えとけや糞勇者が!いつか絶対にブッ殺してやる!!」
そう捨て台詞を残し、彼は風のようなスピードで森の中へと駆けて行った。
なんとも締まらない結果になってしまったが、戦いが収まった事に変わりはない。
「済まない、助かった。」
「別にー。私はこんなくだらない事の為に息子達を使われたくないだけだし」
相変わらずだな。
と、それだけ言葉を交わし二人は森の中を歩く。
この森の中に、勇者パーティーが隠れ住む家がある。
『呪いの森』
そう呼ばれるこの森の中に。
この勇者達は隠れ住んでいる。