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もしも、生まれ変わったら

ねえ、もし、私が君のこと、好きって言ったら、君は、どんな顔をするのだろう。


困るのかな?


苦笑いするのかな?


それとも、私が言ったことを何事もないように流すのかな?


いつもと同じように弄るだけなのかな?


もし、生まれ変わったら…


桜の木を見上げて願う。



まだ、私が高校生の時である。


もう、卒業する頃だった。いや、ちょうど、卒業したばかりの頃である。


進路も決まり、春休みを送っていた。


毎日、ダラダラとした生活。


出された課題に手がつかない日々。


ただ、ベットの上で、ゴロゴロした日々。


時々、ベットの横にある本が並べられた棚である本棚の中から、何となく、漫画を手に取り、読み出始める。


1冊、2冊、3冊…


飽き始める。


「…うーん…」


ゴロゴロと転がる。


そんな日々ばかり過ごしていれば、そうなるのも無理はない。


「これ、何回目だろう…」


つぶやきながら、ぽんと床に落とす。


はーぁ


ため息。


……


「つまらない…」


……


そんなある日だった。


母に買い物を押し付けられ、仕方なく、外に出た。


重い身体をベットから起こし、起き上がる。


……


普通の白いTシャツとジンズの短めの半ズボンの私服に、着替え、外に出ても大丈夫な格好で。


自転車に跨り、


「行ってきます…」


だるそうな態度で、声を掛け、家を出た。


買い物に向かっている途中だった。


あの坂道に当たる。


「…」


はーぁ


息を吐く。


そして、あの坂道を自転を押しながら登っていく。


はあはあ


暖かくなった風。


「…」


はあはあ


息が荒れながら、あの坂道の天辺まで来た。


はーぁ


息を吐きながら、


「やっと、登れた…」


口から溢れた。


あの坂道の天辺には、桜並木のように、短いが、桜の木が並んでいる。


その桜の花びらが、桜吹雪のように降って来た。


ひらひらと次から次へと吹いてくる。ゆっくりと。


私の目の前には、男の人がいる。


そんな桜の木の下で、桜の木を見上げて、横には、自転車のハンドルを持って、見上げている。


私は、そんな彼が目に入った。


そして、その彼がキラキラと見えた。


桜吹雪は、止まらない。


だんだんと、風のせいか、さっきよりも降るスピードが増す。


彼の目線になんて、全く一ミリも入っていない。


ただ、桜吹雪が降っているだけ。


時は、一瞬だけ、止まったかのように。


絵で描かれた展示物のように。


私の目に止まった。足も止まる。そして、彼を見て気持ちがふんわりとした。


一目惚れをした。


何でだろう。


あの時、なんで彼に一目惚れなんてしたのだろうって、今でも私は、そう思う。


歳は、私と離れていそうで、大人な人。


髭は生やしていなく、黒プチの眼鏡をしている。


黒髪で、短め。


どこにでもいそうな人だ。



春休みが終わり、大学生になった。


だるそうに、家を出る。


「行ってきます…」


自転車に跨り、漕ぎ出す。


暖かい風が私を覆う。


大学に向かっている途中である。


「はーぁ」


大きな欠伸を手で覆いながら、自転車のペダルを漕ぎ続ける。


あの坂道に当たった。


……


ふーぅ


息を吐き、自転車を押しながら登っていく。


あの坂道の天辺では、まだ、桜は、咲いていた。


登り、前を向くと、ひらひらと散っている桜吹雪。


目の前に男の人。彼だ。


これは、運命だと思った。


桜の木を見上げている。


あの時のように。


桜の花びらは、散り続ける。


私は、その場に立ち止まり、見惚れてしまった。


ただ、見ているだけ。


彼は、気付かないのか、私を見ない。目線に全く入らない。


ぼーっした私は、はっと、現実に帰り、腕時計を見る。


腕時計の時間は、8時半を指していた。


「やばっ!」


慌てて、自転車に跨り、彼の横を通って過ぎて行った。


大学に着き、オリエンテーションの時だった。


ギリギリ何とか間に合い、部活紹介など、様々な概要のやっている中、私の頭の中には、桜の木を見上げている彼ばかりだった。


それから、2.3ヶ月して、大学に慣れ始め、アルバイトを始めることにした。


そのアルバイト先で緊張しながらも、電話して応募し、面接を受け、2.3日して、


"いつから、来れますか?"


電話で話し、それから、1週間して、勤めることになった。



1日目。


オリエンテーションが行われ、色々と説明された。


……


そして、そこにいるメンバーを紹介された。


そこに…


いた。


心がふんわりとした。


彼が。


あの坂道の桜の木の下で、桜の木を見上げていたあの彼が。


3度目。


運命ではないか。


しかも、私の指導員として、私に付くことになった。


もう、これは、運命と言っても過言ではないではないだろうか。


緊張し過ぎて上手く、彼の言葉に、蚊が泣いたような掠れた声でしか、答えられない。


見惚れてしまいそう。


しかし、彼の目線には、全然、一ミリも、私は、入っていない。


全然目が合わない。


……


その日、誕生日が一緒だということを知った。


もう、運命でしかないじゃないか。


なのに、彼の目線だけは、入らない。



他の人と付き合い始めてから、気が付けば、彼のことを突然、好きになっていたことに気付き、勝手に想いを寄せていた。


最初は、片想いでいいと思ってた。


そっと、想っているだけで。


初めての恋だったから。


彼のことが好きだと知ると、思い出し笑いをしてしまったり、ニヤニヤとしてしまうようになった。


彼のことが毎日、頭の中に浮かぶ。



しかし、それから、1年半が経って、ある女の人が退職することになり、送別会が行なわれた。


雑談から、どうでも良いような話だったのに、突然、恋話みたいな感じになり、彼の名前が出てきた。


……


よく、わからなかった。


突き止めようとしたが、それ以上は誤魔化され、聞くことが出来なかった。


え?


でも、何となく、わかった。


私が知りたかったこと。


それは…


彼に彼女がいるかもしれないってこと。


断定は、できない状況だった。


でも、その夜、お風呂で泣いた。


失恋だろうか、そんな気分。


シャワーから勢いよく出る涙が、冷めるまで、流し続けた。


なかなかなもんに、涙は出た。


自分で驚くくらいに。



二人で帰る帰り道の時。


ドキドキした。


何を話せばいいのだろう。


……


彼女いるのかな?


聞いてもいいのかな?


……


聞けない。怖い。


聞いてどうするんだろう…


気になっていることを話すいいきっかけなのに。


……


聞きたい。


でも、怖い。


そんな葛藤していると、彼から話題を出してくれたが

結局、何も聞けなかった。


あー


心の中でそう思う。


君と二人の星空なのに、その日の夜空の星は、どこかいつもよりも遠くて悲しくて、切なかった。


私の心のように。


どんな彼女さんなんだろう…


やはり、その日も、何気なく、雑談を彼と話しているのに、彼の目線だけは、入らない。



さらに、時は、経ち、アルバイトの帰り道だった。


辺りは、真っ暗である。


近くにある家の電気の灯りさえ、見えない。


まだ、10時半過ぎなのに。


そんな日である。


私は、突然、聞かれた。


「早川さんって、彼氏とか、付き合っている人いないの?」


その答えに即座に、


「いないです!」


すると、


「若いのに!」


「…」


「どういう人がいいっていうのあるの?」


続けてそれを聞かれ、頭の中には、彼が浮かんだ。


だけど、彼とは言わない。


「そんなに優し過ぎない人…」


そう言うと、


「え?優しくないひとがいいの?」


「あー、そう言うわけではなくて….」


すると、もう一人いた女の人が、


「弄ってくれるみたいな人?」


「…はい…」


「長沼さんみたいな?」


「…」


首を傾げながら、苦笑い。


「でも、長沼さん、彼女いるらしいよ」


「…」


一度、言葉を失う。


少し間が空いて、違う話に変わりそうだったが、


「そうなんですか?」


「うん、なんか、前に聞いた気がする」


「…」


あー!


断定してしまった。


いるんだ….彼女…


胸が苦しくなった。


思わず、聞いてしまった。


「どんな彼女さんなのか、知ってるんですか?」


「会ったことないから、わからないけど、本人に聞いてみれば」


「…」


聞けるはずない。


そんな勇気なんてない。



また、違う日に、入って来てから、結構、時が経った後輩が、突然、アルバイト先のみんなで、車が止まっている駐車場まで、歩いて帰っていた帰り道の時だった。


「彼女、いるんですか?」


その言葉に彼は、少し間を空けてから、


「…いるよ」


それを聞いて言葉が出なくなる。


「…」


「彼女さんとは、上手くいってるんですか?」


再び、少し間が空きながらも、


「うん…まあ」


そう応える。


それを聞いた後輩と視線が合い、なんか言いたそうな顔を向ける。


少しの間、私の顔を見る。


なんで、見るだよ!


っていうか、何でこのタイミングで聞くんだよ!


あー!


もう、本人の口から聞いてしまった…


彼女いるんだ….


何なんだ!こいつ!


はーぁ


思わず、その場でため息。


その後、


あっ!って思った。やばい!


でも、周りには、気付かれていたのかどうか、知らない振りをしてたのかどうか、わからないが、私のため息に対して、何もなかった。


少しホッとした。


君への想いをそっと寄せるだけ。


私のこの想いは、どうしたら良いのだろう…


いつか、消えるのだろうか。


苦しい。胸が少し痛い。


ぽかんと穴が空いたような感覚もするが…


どんな彼女さん何だろう…


かわいいのかな?


美人なのかな?


気になる。


いつか、聞ける日が来るといいな。何気なく。


彼の目線には、今日も入らない。


こんなに近くにいるのに、私をいじる癖に。


彼の目線だけは、いつも、入らない。



時だけは、あっという間に過ぎて行った。


そして、あの坂道で、彼と会うことは全くなくなった。


輝いていたあの景色は、消え、今は、何も変わらない以前の坂道へとなった。


桜が咲く度、あの坂道で会った君に会いたいと思う。


君への恋は、まだ、終わらない。


なかなか、君への想いは、消えなかった。


「好き!」


あの坂道の桜の木を見上げてそう呟いた。


桜の花びらの桜吹雪が散り止まない。


そして、優しく私を包み込むように暫く吹き続けた。



もしも、生まれ変わったら、私は、君の目線に入る人でありたい。


近くにいれなくていいから。


君に好きになんてなってもらわれなくてもいいから。


彼女になれなくてもいいから。


全然知らない人でもいいから。




ただ、もしも、生まれ変わったら、桜の木のように、君の目線に入りたい。


日々、そう願い続ける。

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