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旅男!  作者: 吉岡果音
第十章 忍び寄る追跡者
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逃れられない戦い

 暗闇。

 暗闇の中に、不気味に浮かび上がる――、一つの目。


「受け継ぐ者……」


 聞き覚えのない低い男の声――。

 虚空に、ニタリと笑う口が見えた。

 そして、その男の背後には――。


 ゴゴゴゴゴゴ……。


 得体の知れない圧迫感。空気が震えている。


 誰か、もう一人いる……!


 一つ目の笑う男の背後に、圧倒的な魔力を持つ存在が――。


「魔族……!」


 アーデルハイトは、そこで目が覚めた。

 体はこわばり、全身冷や汗をかいていた。


「夢……」


 胸騒ぎがした。




「すっげー! 真っ白だあ!」


 早朝、窓から外を見てキースが叫んだ。

 辺り一面、うっすらと雪に覆われていた。

 毎年見ている雪だが、その年初めての積雪、純白で覆われた新しい風景を目の当たりにすると、いつも新鮮な感動がある。

 

「どおりで! 夜中冷えると思ったわけだあ!」


 謎が解けた、とでもいうように、キースは一人うなづく。


「……キースの場合、寝相が悪すぎて思いっきり布団から手足が出てたから冷えた、というのもあると思います」


 カイが、昨晩見た状態をそのまま報告してあげた。


「確かにー! 枕がねえ、と思ったら、足の下にあるんだもんねえ、びっくりしたよー」


 びっくりした、とキースは言ったが、いつもでしょ、とカイとミハイルと宗徳は心の中で呟く。結構見慣れた光景だった。


「朝ごはんまで時間あるし、ちょっと外に出てみようぜ!」


「そうですね!」


 キースの提案に、一同笑顔でうなづく。

 服を着こんで、外に出ることにした。


「あっ!」


 キースがドアを開けると、こちらに向かって歩いてくるアーデルハイトと、妖精のユリエの姿が見えた。


「おはよー! アーデルハイト、ユリエ! 早いな! どうした? アーデルハイトたちも雪を見て、雪合戦したくなった?」


 キースは、思わず顔を輝かせ声を弾ませた。


 えっ!? 「アーデルハイトたちも」、ってことは、キースは雪合戦をするつもりで外へ出ようとしているんだ……!? 自分は別にそんなつもりなかったんだけど……。


 キースの言葉を聞き、カイとミハイルと宗徳は、ちょっと引く。そして、うかつにも同意してしまったことを後悔する。


 そうだよな。キースなら絶対やるよな……。


 起き抜けで判断力が鈍っていたんだ、カイとミハイルと宗徳は、そんな簡単なことを想像できなかった自分の甘さを反省する。


「あれ? カイ、ミハイル、宗徳、なに唇を噛みしめてるんだ?」


「己の軽率さを自戒していました」


 カイは、諦め気味に呟く。雪合戦の開戦はもう逃れられまい、そう感じていた。


「軽率? なんのこっちゃ」


 キースは意味が分からず首をかしげる。


「おはよう……、キース、カイ、ミハイル、宗徳。皆、外に出るつもりだったの……?」


 アーデルハイトの笑顔はどこか元気がなかった。ユリエも、心配そうにアーデルハイトを見つめていた。


「あれ? どうした? アーデルハイト。具合でも悪いのか?」


「ううん。なんか、じっとしていられなくて……。でもよかった。皆が起きていて。起きていたらいいな、と思ってたけど――」


 アーデルハイトは不安な表情をしていた。


「……いったい、どうしたんだ?」


 じっとしていられないと言っても、積雪を見て遊びたくてじっとしていられないキースとは、理由が違うようだ。


「ちょっと、キースや皆に話しておきたいことが……」


 皆、顔を見合わせた。




「さっき、夢を見たの」


 アーデルハイトが呟く。


「夢?」


「ええ。夢。でも、ただの夢じゃないの」


「ただの夢じゃないって……?」


 思わずキースは聞き返していた。


「あれは、ただの夢なんかじゃない。あれは、私が感じ取った新しい敵の気配――!」


 アーデルハイトは、本能的にわかっていた。全身で感じる肌に突き刺さるような感覚、あれは、普通の夢などではない――!


「新しい敵!?」


「ええ。一人は人間。一つ目に見えたけど、たぶんそれは象徴。普通の人間だと思う。でも、その男はなにか、魔術を使えるような気がする。そしてもう一人――」


「もう一人……?」


「ええ……。魔族の男。それも、並みの魔族じゃない。とても強い魔力の持ち主よ……!」


 アーデルハイトは夢の詳細を思い出したのか身震いし、自分の両腕を抱えるようにした。


「あの、『目』や『手』の持ち主とは違う……! もっと、もっと恐ろしい強敵よ!」


 アーデルハイトは叫んでいた。


「たぶん、まだ私たちの詳しいことや私たちのいるところは悟られていないと思う……。でも、やつらには私たちを探し出そうとする意思が感じられた……」


 一つ目は、探るような目に感じられた。そしてきっと、どこまでも追いかけてくる――。


「そうか……。それじゃあ現時点でわかる敵は、クラウス、象徴として一つ目を感じさせる男、それから幻影を使うおそらく女の魔族と、さらに強力な魔力を持つ魔族の男……。人間二人に魔族二人の合計四人か……」


 キースは腕組みをした。それから叫ぶ。


「まっ! 数の上では勝ったな!」


「うん! 勝ってるう!」


 ユリエがキースの言葉に笑顔になる。ユリエは「数の勝利」というものが好きである。


「問題は数ではないですよ。しかも、数の上では勝ったって言っても、大した違いはないじゃないですか」


 カイが冷静に言う。


「なに言ってんだ! カイ! 一人の力を甘く見てはいかんのだぞ! 一人でも二人でも、多いってのは有利なんだ! いいか、一本の矢では折れても、三本の矢だと折れない、チーム戦のクイズ大会だって、解答者の残存数が多いチームが高得点を――」


「キース。話を脱線させないでください」


 カイはキースを冷静に諭しながら、クイズ大会の解答者の残存数ってなんなんだ、と少し考えていた。脱線に巻き込まれている。


「ミハイル。魔物に囲まれたときに私たちにかけてくれたような、防御の魔法、敵から身を隠す魔法って出来るかしら……? 私は、接近してきた敵から一時的に結界を張って隠れる方法なら出来るんだけど――」


 アーデルハイトがミハイルに尋ねた。


「僕の術も、一時的で、かつ近距離の相手から隠れるものです。遠距離、長時間の防御は出来ません。しかも、相手の魔力が強力な場合は、効き目が薄くなると思います」


「そう……。たぶん、クラウスは強力な身を隠す術を使っているわ。私、探索の魔法を使ったことがあるの。でも、不自然なくらいまったくクラウスの痕跡が読み取れなかった。あれは、距離があるから掴めなかったのではなく、魔術でガードしていたんだわ……」


「えっ! そうなのか!?」


 キースが驚きの声を上げた。


「ずるいぞ! クラウス! なんかずるい!」


「ずるいぞって言ったって、出来る技は行使するでしょう。クラウスは、やはりそれだけ強力な魔力を持っているというわけですね……」


「カイ! 感心してる場合か! やつは卑怯にも身を隠しながらこっちを探ってんだぞ!」


「普通、出来るならそうするでしょう」


「……んー。そうだなあ。俺だって、出来るならそうするよなあ! ははははは!」


「キース! 笑ってる場合ですか!」


 笑っている場合ではない。どうも、脱線する。

 アーデルハイトは思う。恐ろしい敵の魔の手から、せめて見えないようにすることが出来ればいいのに、まるで、すべてを覆い隠す雪のように……。


「向こうが来たら、迎え撃てばいいだけの話だよ」


 キースがさらりと言った。


「そんな……! 簡単そうに言って……!」


 アーデルハイトは、キースに叫んでしまっていた。


「……俺たちは、俺たちの出来ることに目を向けていくしかない。確実に出来るのは、迎え撃つことさ」


「そんな……、危険すぎる……!」


「そりゃあ、奇襲出来ればそのほうが絶対に有利だろう。でも、だからといってそれで必ず勝つというわけではない。戦いは、一瞬一瞬が大事だ。襲撃を受けたら、どう立て直し、どう切り返すか。そちらに意識を向けようぜ!」


 キースは、ニッと笑う。


「とりあえず、アーデルハイトは夢で相手を察知した! それがこちらの出来ること! それに俺もカイもミハイルも宗徳も、常人より鋭い感覚を持っているし、相手の殺気を感じることが出来る! 俺たちだって、めっちゃすごくねえ? 必要以上にビビることはねえ、俺たちの出来ることを伸ばすようにしていこーっ!」


「キース……」


「大丈夫だよ。アーデルハイト。でも、もし怖かったら、いつだってアーデルハイトは旅をやめても……」


 旅をやめてもいいんだよ、そうキースが言いかけたときだった。


「だーかーらーっ! 私は旅をやめないって言ってるでしょーっ!」


 キースの鼻先に人差し指を突き付け、アーデルハイトが叫んでいた。


「アーデルハイト……」


「……別に! 怖くなんか、ないんだからっ!」


 ぷいっ!


 アーデルハイトは、そっぽを向いてしまった。


「……まあまあ。キースはアーデルハイトさんを心配して言ってるんですし……。それより、敵の情報が少しでも明らかになったのはよかったですね。アーデルハイトさんの感覚、確かだと思います」


 ミハイルが笑顔でとりなす。

 アーデルハイトは思う――、わかってるよ。キースが私を心配して言ってるってこと――。


「……そうだな。敵についての情報は少しでも多いほうが助かる。そして、俺たちは、俺たちの出来ることをするしかない」


 宗徳が、呟いた。ダークブラウンの瞳には、決して諦めない強い光が宿っている。

 皆、うなづき合った。覚悟は出来ている。


「……んー。それじゃあ、そろそろ、飯の時間かな! そいじゃ、食堂に行くかあ!」


 キースが笑顔で叫ぶ。恐ろしい敵の存在を聞いても変わることのない、いつものペースである。


「じゃあ、ごはんに行きますか」


 カイ、ミハイル、宗徳は内心ホッとしていた。


 免れた! 雪合戦、無駄な戦い……!


 キースの気が変わらないように、カイとミハイルと宗徳は、そそくさと食堂に向かう。別にカイは食事を取らないので人の姿でなくてもいいのだが、食事中のみんなの楽しい会話に加わりたいので、そのまま歩いていく。


「ごはんー、ごはんー!」


 ユリエは、先頭を歩くミハイルの肩にちょこんと座った。

 気が付けば、キースとアーデルハイトが二人きりになっていた。


「アーデルハイト」


「……さっきのこと、ごめん……。私、つい……」


 アーデルハイトは、エメラルドグリーンの瞳を伏せた。


 ぎゅっ……。


 キースは、なにも言わずアーデルハイトを抱きしめた。


「キ、キース……?」


「……怖かっただろ……? ごめんな。夢の中までは行けなくて――」


「キース……!」


「一人で怖い思いをさせてごめん。行けるんなら、夢の中でもアーデルハイトを守りたい――!」


「キース……! ありがとう……!」

 

 キースは、アーデルハイトの長い髪を優しく撫でた。


「……よしよし……。もう、怖くなんかないからな!」


「うん……!」


 キースの腕の中、アーデルハイトの不安な気持ちは消えて無くなっていく――。


「大丈夫……! きっと、俺たちは大丈夫……!」


「うん……!」


 キースの手って、おっきくてあったかいな――。


 先ほどまで恐怖で震えていたアーデルハイトの心は、安らぎで満たされていた。




「朝ごはんも美味しくいただきましたし……。さあ! 出発しましょう!」


 ミハイルはドラゴンのオレグの背に乗ろうとした。


 ばしっ!


「はははは! 当たりー!」


 キースが、雪玉をミハイルの顔に投げ当てていた。


「なにするんですかーっ!」


 ミハイルは急いでかがみ、新雪をかき集め雪玉を作ろうとする。


 ああ。やっぱりこうなりますか……。


 呆然とキースとミハイルの様子を見つめる、カイと宗徳。


 ひゅっ!


 そんな二人の元にも雪玉が飛んでくる。


 やはり、逃れられないんですね……!


 ばしっ! ばしっ!


 雪合戦の開幕だった。


「キース! やりましたねーっ!」


 カイが叫びながら応酬する。


「やるからには、本気出す! 覚悟!」


 宗徳の手にも、しっかりと雪玉。


「あーあ。やっぱりこうなっちゃうのね」


 ため息をつき、呆れながらも笑顔のアーデルハイト。


「みんな、頑張れーっ!」


 応援係のユリエ。

 青空に一同の笑い声が響き渡る。平和な時間はしばらく続いた。


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