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旅男!  作者: 吉岡果音
第五章 新しい絆の始まり
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修学旅行的な、アレ

「まったく手応えがねえってのが、気に入らねーな」


 そう呟いて、キースは分厚いステーキにナイフを入れた。焼けた鉄板の上に肉汁があふれ出す。

 夕食と就寝のために次に訪れた町。旅人で賑わう大きな食堂。キースたちは、ドラゴンやペガサス、翼鹿と、それぞれ大型の動物に乗っているので、長期の旅人に対応できる店や宿を選んでいる。大型駐車場完備のレストランやホテルといった感じである。


「魔物との戦いですか」


 ミハイルが尋ねる。


「ああ。たとえ実体のない幻影だったとしても、もう少しなんか手応えってもんがねえと、なんだか釈然としねーな」


 ただ空気を切り裂いたような感じだった。

 ミハイルが、にっこりと笑った。


「そのうち、つかめてくるかもしれません」


「え……?」


「幻影だから、手応えがなくて普通なのですが、あなたならきっと、感覚的にわかってくるものがあるかもしれませんよ」


 ミハイルはそう言って、じっとキースの青い瞳を見つめた。


「感覚的にわかってくるもの……?」


「相手にダメージを負わせることができたか、そうでないかがわかるようになるかもしれません」


「どうやるとわかるようになるんだ?」


 キースが真剣な表情でミハイルに尋ねる。ミハイルは、穏やかな微笑みを浮かべた。


「妖精のユリエさんや、ドラゴン、ペガサス、翼鹿と親しみ、そして自然と語らうこと。不思議な存在に心を開き、そして、自分が自然の中でひとつの命として純粋にただ在る、そんな感覚をつかむこと――。そのうえで、魔物との戦いの場数が多くなること。研ぎ澄まされ、自我を越えた純粋な精神と真の肉体の感覚がわかるようになれば、あとは実戦の中で自然と身についていくかもしれません」


 ――自分が自然の中でひとつの命として純粋にただ在る、そんな感覚――?


「なんだそりゃ!? 難しいなあ!」


 思わずキースがフォークに刺したステーキをポロリと落とす。


「……なるほど。ミハイル殿はさすがだな……」


 宗徳がうなづきながら呟く。


「えっ!? 今の話、宗徳はわかったのか!?」


 思わずキースが宗徳の顔を見た。


「えっ!? キースはわからなかったのか!?」


 思わず宗徳もキースの顔を見た。

 カイとアーデルハイトは、宗徳が自然とキースについて呼び捨て扱い、ミハイルには「殿」をつけて呼んでいることに即座に気が付き、そして妙に納得していた。


 ナイス、宗徳。


 カイとアーデルハイトは心の中で、わかる、わかるよ宗徳、としみじみ同感していた。


「まあ、上のステージに上がるためには、それに応じた心身の修行が必要ということです」


 ミハイルが笑顔で言う。そして、付け加えた。


「でも、手応えが重要というわけではないですよ。あれはあくまで幻、手応えを感じるほうがあり得ないことです。そんなことを感じられる剣士は、まずいないのではないかと――」


「……そんなことをできるやつは、いないのか?」


「おそらく」


 キースが青い瞳を輝かせた。


「じゃあ! 俺がなってやる!」


 一同、テーブルに突っ伏した。


「な、なんというストレートな思考……」


 短絡思考、とミハイルは言いそうになったが、とっさに単語を変え表現を和らげた。危なく口走ってしまうところだった、とミハイルは素早く自主規制が働いたところに安堵した。


「キースは、単純なところがいいところなんです」


 ミハイルの努力はむなしく、さらりとカイが毒舌を吐いた。


「……カイ。それ、俺のこと褒めてんのか?」


「はい。褒めてるんです」


「じゃあ、いっか」


 いいのか!? とミハイルは心の中でツッコんだ。


「上のステージか……」


 キースが一人呟く。青い瞳は遥か遠くを見つめていた。


 ――せっかくこの世に生まれてきたんだ。ひとつ上でも格段に上でも、いっちょ挑戦してやろう! 自分自身の高みを目指すんだ――!




 今夜の宿屋に着いた。キース、カイ、ミハイル、宗徳は同室である。


「わーい!」


 どふっ!


 キースがカイの顔に枕を投げつける。


「なにをはしゃいでるんですかっ!」


 どふっ!


 叫びながらカイがキースの顔めがけて枕を投げる。


「やったな! カイ!」


 キースが楽しそうに笑う。


「やれやれ。なにを始めるのかと思えば……」


 どふっ!


 呆れ顔の宗徳の顔に、キースの投げた枕がちょうど当たる。


「俺にもか!?」


 そう叫ぶ宗徳の顔は笑顔だった。


「皆さん、というかキースとカイさんですけど、なにをやってるんです……」


 どふっ!


 ミハイルの顔のど真ん中にもキースは枕を投げつける。


「な、なんで僕まで……」


 どふっ!


 当惑しつつもミハイルは枕をつかみ、キースの顔をめがけて投げつけていた。

 そのあとは、お互い無差別攻撃だった。

 四人それぞれが枕をつかみ、投げつけあった。


「ははは! やったなー!?」


「あはははは!」


「さすが狙いが正確であるな!」


「あははっ! もー僕、なにやってんだか!」


 大の大人が枕投げを思いっきり満喫していた。


「面白かったなあ! やはり人数が多いと楽しーな!」


 キースがベッドに体を投げ出した。


「そうですね。思わず、のってしまいました」


 カイはキースのベッドの傍に腰掛けた。


「……なかなか楽しいものだな」


 宗徳が微笑みながら、床の上にあぐらをかいて座った。


「僕としたことが……。面白かったです!」


 ミハイルも屈託のない笑顔を見せて、ベッドに腰掛ける。


「……俺は」


 宗徳が呟いた。


「一人で旅をするのが己の鍛錬と思っていた」


 宗徳がゆっくりとかみしめるかのように言葉を発する。


「だが、俺は今までずっと一人で生きてきた――」


 キースとカイとミハイルは、宗徳の寂しそうな笑顔を見つめた。


「俺にとっての修行とは、鍛錬とは、逆に、皆と共に過ごすことなのかもしれない――」


「えっ!? 俺たちと過ごすことが我慢とか忍耐がいるとか、そういう修行ってことか!?」


 キースが、すっとんきょうな声を上げる。


「そうではない。俺の成長に足りないもの、必要なことは、皆と和やかな時間を過ごすようにすること、そういう意味だ」


 宗徳がまっすぐキースを見つめた。


「ありがとう。本当に。おかげで、かけがえのないものを学ばせてもらえそうだ」


「……枕投げが、かけがえのないもの……?」


 キースが思わず尋ねる。


「はははっ! そうだな! それは決して一人では出来ないしな!」


 宗徳が笑う。


「宗徳さん……」


 カイにはわかっていた。誰かと交わすなにげないやり取り、くだらないと思えるふざけ合う時間が、どれだけ貴重なものかを。


「そうですね……。宗徳さん、それは僕にとっても、必要で大切な学びです」


 ミハイルもうなづいた。


 どふっ!


「だから、そこでなんで僕に枕を投げるんですかーっ!?」


 思わずキースはまたミハイルの顔に枕を投げつけていた。


 どふっ!


 また無差別枕投げが再開された。


「これも俺の修行になんのかな?」


 キースがそう言いながら枕を投げる。

 皆が声を揃える。


「キースには、この修行は充分です!」


 キースには普通の修行が必要である。


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