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旅男!  作者: 吉岡果音
第五章 新しい絆の始まり
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親愛なる家族、そして仲間

 キースたちは町に着いた。


「あ! ポストだ!」


「手紙屋さんもあるわ!」


 思わずキースとアーデルハイトは声を弾ませた。

 手紙屋さんとは、店内で販売しているハガキや封筒、便箋を購入して手紙が書ける店である。

 書き終わった手紙はポストに投函すれば、異国でも配達してもらえるのだった。


「俺、家族に手紙を書きたいな。きっと、皆心配してる」


「私も書きたいわ」


 手紙屋に入ることにした。

 店内に入ると、見覚えのある後姿があった。

 肩くらいの長さのダークブラウンの髪を後ろで無造作に一つに束ねた、痩せた若い男性。背はカイよりは高く、アーデルハイトよりは少し低い。腰に刀を差し、着物に袴姿だった。


「チーム昼飯の、宗徳!」


「えっ? 『チーム昼飯』?」


 宗徳と呼ばれた若い男が振り返る。キースが勝手に命名した「チーム昼飯」については当然なんのことかわからないが、振り返った男は細長い釣り目で眼光鋭く――、やはり、以前キースが昼飯代をおごった宗徳だった。


「ああ! あんたは昼飯をおごってくれた――、キース!」


「また会えるとは思わなかったよ!」


「あのときは本当にありがとう。この礼は――」


「いいよ! いいよ! 実は、この前ミハイルにも会ったんだ。ミハイルにも、お返しなんていいよって断ったんだから!」


「ミハイル……?」


 宗徳は誰のことかわからず、きょとんとしていた。


「ほら! 一緒にあの食堂にいた、背の低くて目のぱっちりした、女の子みたいにかわいい顔した男だよ! 髪は栗色のちょっとふわふわしたくせ毛で、服装は、えーと、僧侶みたいな服で――」


 背は低い、とキースは説明したが、カイのほうがミハイルより少し背が低い。カイが一番小柄だった。


「ああ! なんとなく覚えている」


「すごいだろー! 『チーム昼飯』、なんか縁があるんだなあ!」


「……『チーム昼飯』ってなんなんだ」


 思わず宗徳が尋ねる。


「あのとき食堂にいた連中を、俺はそう呼んでるんだ!」


「俺も『チーム昼飯』か」


 わけのわからないチーム名のくくりに勝手に入れられ、宗徳は笑ってしまった。痩せていて、鋭い目をしているので、黙っていると怖い印象のある宗徳だが、細い目をさらに細めて笑うと、たちまち優しく親しみやすい雰囲気に様変わりする。もっとも、キースにとっては相手の印象が怖かろうが優しげであろうが、人に対する接しかたに変わりはない。


「へえ! 面白い道具で書いてるね!」


 宗徳は、筆に墨で手紙をしたためているところだった。


「俺の国では、こういうもので書いているんだ」


「そうなんだあ! 難しそうだなあ」


 流れるような美しい字だった。


「俺の、まだ顔も知らない家族への手紙だ」


 宗徳はそう呟いた。その薄い唇は、優しい笑みを浮かべていた。


「まだ顔も知らない家族……?」


「ああ。ノースカンザーランドという国にいるらしい」


「えっ……!」


 また、ノースカンザーランド。キースたちや、ミハイルの旅の目的地――。


「俺は心身の修行もかねて、この家族に会いにノースカンザーランドへ旅しているんだ」


 宗徳はそう言って遠い目をした。


「宗徳もか!」


 キースが驚きの声を上げた。


「……『も』って、なんだ?」


「俺たちも、そしてついでに言えば、ミハイルもノースカンザーランドを目指しているんだ……!」


「なんだって! それはずいぶん奇遇だな!」


「やっぱ『チーム昼飯』、すげえな!」


「不思議なものだな。世界はとても広いのに――」


 宗徳は、そっと手紙を封筒に入れ、封をした。


「……手紙は書いたが、これは出せないな」


 宗徳が呟く。


「えっ? どうして?」


「住所がわからない。ノースカンザーランドということしか――。そのうえ、今もそこに住んでいるかどうかもわからない」


「そうなのか?」


「だから、書いただけ。この手紙は、俺が持っていることにする」


 宛先には、『ノースカンザーランド、みつ様』、としか書いていない。


「……たった一人の家族である姉さんに、手紙を書いてみたかったんだ」


「出してみたら? 届くかもしれない」


「これじゃ無理だろう。配達人を困らせてしまう。そんな迷惑はかけられない」


「もう少し、地域名でもわかればいいのになあ」


「いいんだ。手紙を書いて、気持ちが落ち着いた」 


 そう言って、宗徳は封筒を大切そうに懐にしまった。


「住んでいるところがわからないのか……。でも、会えるといいな。お姉さんに」


「ありがとう」


 顔も知らない、ただ一人の家族――。宗徳は複雑な家庭環境だったに違いない、とキースは思う。幼い頃生き別れた家族なのだろう。宗徳の微笑みには、悲しみが透けて見えた。


「……『チーム昼飯』って、なんだかいいな」


 宗徳が呟いた。


「ん?」


「俺はずっと一人だったからな。自分がなにかの集まりに入れてもらうって、なんだかいいものだな――」


「謎の集団名だけどね。私も『チーム昼飯』なのね」


 アーデルハイトが少し呆れながら笑う。


「宗徳……」


 キースが呼びかける。


「もしよかったら、なんだが――。俺たちと一緒にノースカンザーランドまで行かないか?」


「え?」


「賑やかで、面白いぞ! 心身の修行にはならないかもしれないが、どうだろう?」


 寂しそうな宗徳が、なんだか放っておけなかった。

 宗徳は驚いた顔で、キースの青い瞳を見つめた。


「……いいのか?」


「もちろん! なあ、みんな!」


 アーデルハイトもカイもユリエも笑顔でうなづく。外で待っているドラゴンのゲオルクもペガサスのルークも大歓迎のはずだ。

 宗徳は思う。孤独の中生きてきた自分が、こんな仲のよさそうなあたたかい輪に入っていいのだろうか。


「……迷惑じゃ、ないだろうか」


「迷惑のわけないだろお!」


 キースが満面の笑みを浮かべる。


「もし、迷惑をかけるのだとしたら、キースのほうだと思いますよ」


 カイがさらりと言ってのける。


「カイー……。お前なあ……。でも、俺もそんな気はする! これから迷惑かけるかもしれんが、よろしくな! 宗徳!」


 キースが豪快に笑った。


「よろしく……、お願い申し上げる……。昼飯の礼は、俺の刀にて皆様を危険からお守りするという形で――」


「ははは! じゃあ、そういうことにしておこう! 頼んだぞ、宗徳!」


 心強い仲間が増えた――! キースは旅に感謝したい気持ちになっていた。




 キースは家族宛てに手紙を書いた。


『俺でーす! 元気でーす! 友だちたくさんできたよ! 詳しくは、帰ったら話すぜ!』


「……子どもですか」


 文面を見たカイが呆れた。


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