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旅男!  作者: 吉岡果音
第四章 光溢れる道を歩む者、闇をさまよう者
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マジカルチェック!

 キースたちは、国境に来ていた。


『ようこそ。ネクスター国へ』


 この国は、ネクスター国という国だった。


「皆さん、ご旅行ですね」


 国境の役人が、キースやアーデルハイトの身分証に判を押す。カイは、剣の姿になっていたし、妖精のユリエやドラゴンのゲオルク、ペガサスのルークは、人間ではないので、身分証がなくても問題なかった。


「マジカルチェックをしますので、皆さんあちらの部屋にご移動願います」


「マジカルチェック?」


 キースもアーデルハイトも聞いたことがなかった。


「国境検問所を訪れるかたはすべて、この国に脅威を及ぼす者であるかどうか、我が国の優秀な特殊能力者に面接を受けていただくことになっております。彼らの審査を通してから入国の許可が下りるシステムなのです」


「脅威を及ぼす者かどうかって……、どうやって判断できるんだ?」


 思わずキースが尋ねた。


「それはまさに、マジカルチェックです。三人の特殊能力者が感じる感覚によって判断されます。簡単ですぐ終わりますので、ご安心ください」


「ふうん」


 ふと、キースは思った。クラウスは、この国を通って行ったのだろうか。それとも、遠回りになる別ルートでノースカンザーランドへ向かったのだろうか。もしこの国を通って行こうとした場合、やつはこの審査を通ったのだろうか――?


 上空には、ドラゴンに乗って国境を守る警護団がいる。入国にはこの国境検問所を通らねばならない。


「ずいぶん厳重な入国審査があるのね」


 アーデルハイトも驚いていた。


「私の故郷でもここまでのことはしていなかったわ」


「俺の故郷でも今まで通った国でもなかったなあ」


「この国独自のシステムなのね」


 言われた通り、国境検問所の中を進み、ある一室に案内された。


「お一人ずつ入室願います。それから、ペガサス、ドラゴン、妖精も一個体ずつ入ってください」


「へえー。人間以外も確認するんだあ」


 ――あれ。ということは、カイはどうしよう。


 しらばっくれて剣のまま一緒に入るか、でも見破られて変なふうに目を付けられても困るなあ、とキースは迷う。いったい、その三人の特殊能力者の能力ってどれほどなのだろう――。

 キースが迷っていると、カイは自分から人の姿に変わった。


「下手にばれて、問題視されても困りますからね」


 それから、カイはちょっと首をかしげた。


「俺が、以前エースさんとこの国を通ったときは、そんな審査はなかったのですが……」


「そうか。カイがひいじーさんと俺の故郷に来るとき、やっぱりこの国を通ったのか」


「はい」


「特殊能力者って、どんな連中なんだろう」


 ――俺たち、普通の人から見たら、怪しさ満載の団体だよなあ……。


 もし審査に引っかかったら、別ルートを通るしかない、そう覚悟した。


「じゃあ、とりあえず私から行くわね」


 アーデルハイトから審査を受けることにした。




 数分が経った。室内から、声がした。


「次の方、どうぞお入りください」


 キースとカイは顔を見合わせた。

 アーデルハイトが戻ってこないところを見ると、アーデルハイトは無事審査を通ったようだ。そして、部屋を抜けたどこかで待機していると思われた。


「私! 私が行ってみるーっ!」


 妖精のユリエが小さな手をめいっぱいあげ、立候補した。

 その後、ドラゴンのゲオルク、ペガサスのルークを入室させることにした。


「キースが先に行ってみますか?」


 一番の問題は、カイである。人の姿はしているが、身分証は持っていない。人ではないと説明しなくては、審査を通ることができないだろう。でも人の姿に変身できる剣の入国審査など、おそらく前例がないはずだった。


「せめて俺が、ラーシュ兄さんか妹のセシーリアのような武器ではない存在だったらなあ……」


 魔法の杖のコンラードも微妙なところである。


「でもさあ、剣なんて多くの旅人が持ってるだろ? きっと大丈夫だよ!」


「でも、人の姿になれて自分の意思も持ってる剣は、やはり相当怪しいですよね……」


 そうこうしているうちに、また扉の向こうから入室を促す声がした。


「まっ、あちらの国の事情だから、あちらの判断に任せるしかねーな! カイ、お前先にいけ!」


「俺ですか?」


「うん! 俺もお前の存在がどう判断されるか気になるから、お前先に行ってみろ!」


 カイが入室した。




「カイは礼儀正しいから、きっと大丈夫だろー」


 礼儀正しいかどうかは入国審査にあまり関係ないはずだが、キースは一人納得していた。


「礼儀が正しくねー俺のほうが問題児だったりして!」


 キースは廊下で、自分で言って自分で笑ってしまっていた。


「では、団体様の最後の方、入室どうぞ」


「はーい!」


 カイも無事審査を通ったらしい。キースは必要以上に元気いっぱい扉を開けた。


「よろしくお願いしまーす!」


 目の前に座っていたのは、三人の――、子どもだった。


「子どもっ!?」


「子どもでは、いけませんか?」


 真ん中の、十歳くらいの男の子が微笑む。


「いやあ、ごめんごめん。ちょっと、意外だったから驚いたんだ」


「私たちが特殊能力を持つ入国審査員です」


 右端の十歳くらいの女の子が話す。三つ編みのおさげ姿がよく似合う。


「あなたのお名前を教えてください」


 十五歳くらいの女の子。声から察すると、入室を促していたのはこの子だったようだ。


「あ。俺の名はキース。これが身分証……」


「身分証は、先ほど確認したはずですので、大丈夫です」


 ――そうか。さっき判をもらったもんな。


 入国審査員は、じっとキースの青い瞳を見つめていた。


「…………」


「…………」


 ――あれ。あとはなにも訊かないのかな。


「キースさん」


 十五歳くらいの女の子がキースの名を呼んだ。


「は、はい」


「あなたは、とても眩しい光をまとっていますね」


「へ?」


 ――「かっこいいパンツの占い師」のじーさんも同じようなことを――。


「不思議ですね」


 男の子がにっこりと笑った。


「……俺にはよくわかんねーけど……」


「あなたは、聖なる任務を持つ者ですね」


 おさげの女の子も微笑む。


「……うーん、そう、なのかな?」


 ――この子たちといい、「かっこいいパンツじーさん」といい、いったいなにが見えているんだろう――。


「当然、入国を認めます。ようこそ、ネクスター国へ!」


 十五歳くらいの女の子が満面の笑みを浮かべた。




「不思議な審査だったなあ」


 キースが呟く。


「……歌を歌わせられたわ」


 アーデルハイトが恥ずかしそうに告白した。


「えっ!? そんなことしたのか!? 俺はなんにもなかったぞ!?」


「私、踊ったよ」


 ユリエが楽しそうに言う。実際楽しかったらしい。


「なんだ!? マジカルチェック、謎すぎるな!?」


 ――アーデルハイトもユリエも、ずいぶん楽しそーな審査じゃねーか! なんで俺のときはなにもないんだ!?


「カイは!? カイはどうだった!?」


 カイが少しびくっとした。訊かれたくないようだった。


「なぜか……」


「なぜか……?」


「……女の子の服を着せられました……」


 カイは頬を赤くし、うつむいた。


 ――あの子たち、ただ遊んでるな!?




 入国審査員の子どもたちは、三人だけで楽しそうに話していた。


「今日も楽しかったね!」


「悪い人が来なくてよかったね!」


「平和っていいね!」


「キースさんとも、なにか遊べばよかったかなあ?」


「いやいいよ。あの人、存在自体が面白いから」


 入国審査員たちは、特殊能力でキースの魂に触れ、そのユニークさを感じ取り、それだけですでにおなかいっぱいになっていた――。


「あの人、きっと世界にとって大切な人だね」


「うん。きっと、あの人が世界の危機を救う人なんだ」


「信じよう。あの眩しい光を――」


 特殊能力者たちは、北の巫女の予言こそ知らなかったが、世界の危機が近づいていることを肌で感じて知っていた。

 ネクスター国に、マジカルチェックが配備されたのは、この世界に忍び寄る不穏な黒い影を予見してのことだった――。

 一方、クラウスたちはネクスター国を避けて別ルートを通っていた。

 他方、フレデリク先生の一行は、入国審査を受け入国していた。そこで各自、十八番の宴会芸を披露している。入国審査員たちは大喜び、満点合格を出していた。




「あの子たち、まだまだだなあ!」


 キースは呟く。


「俺と遊べば、絶対面白いのに!」


「……なに悔しがってるんですか」


 カイが呆れる。


「ああーっ!」


 突然、キースが残念そうに叫んだ。


「なに叫んでるんですか」


「見たかったなあ! カイの女装姿!」


 次の瞬間、カイの回し蹴りがさく裂した。



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