91.アムール
マーメイド祭の為、街中は賑やだ。陽気な音楽も聞こえてくる。音楽に合わせて踊る者、出店で買ったものを美味しそうに食べる者、カップルらしき男女が腕を組みながらお祭りを楽しんでいたりと街が活気に溢れていた。
「マスター! ここですー! ここですよーっ!」
待ち合わせの場所へ行くとゴンザレスがぴょんぴょん飛び跳ねながら、手を振り出迎えてくれた。美味しいものを沢山食べたのか、ゴンザレスはご機嫌元気いっぱいだった。
リリィとアイルは近くにある噴水の淵に腰掛けて休んでいるようだ。リリィはゲッソリしている。先ほどのやり取りから察するにアイルに振り回されてたっぽいな。
「おう。待たせた」
「大丈夫です。それでマスター、呪いの件は無事に解決したのですか?」
「ああ。問題はないよ。ただ、ちょっと訳あって『ミスリルソード』を譲渡してきた」
「はぁ!? ちょっと、どういう事よそれ」
リリィが驚素っ頓狂な声を上げる。簡単に事情を説明すると軽く溜息をつかれた。リリィの言いたいことはなんとなくわかる。
「まったく、シノはお人好しよね。あんな強力な武器をあげちゃうなんて。まぁ、私も貰っているから人のこと言えないけどさ」
「通りで『収納空間』から消えていたのですね」
「ああ。武器は一つじゃないし、ガチャで色々なもんが手に入るからな。宝の持ち腐れになるよりかは使ってもらった方がいいだろ? それに、悪用するような子じゃないと判断したから」
「ふーん。随分その子の事を買ってるのね」
リリィが「つーん」と拗ねる。
「でもそれだと、マスターから色々譲渡されたリリィのことも買ってるってことですよね? マスター?」
「ああ。そうだな。リリィには傷ついてほしくないし、強くなってほしい。だからこそ俺は良い装備が出たらこれからもリリィに渡すつもりだぞ?」
大切な人だからこそ――、喜んでもらいたいという気持ちがあるからこそ俺は譲渡するんだ。
「ぁぅ――。あ、ありがと」
顔を赤くして畏まるリリィに、ゴンザレスはニコニコしていた。
「こほんっこほんっ。皆さん、私の事をお忘れですの? まったく、見ているこっちが熱くて仕方がないですわね」
「アイル大丈夫ですか? 冷たい濡れタオルでも出しましょうか?」
「ぐっ……そう言う意味で言ったわけではないのですけれど。……まぁいいですわ。折角私たちマーメイド族の為のお祭りなことですし、楽しまないと損ですわ」
右手で髪を掻き分けるアイル。本来の姿に戻っている為、この場では異様に目立っていた。元よりマーメイドはこの街の繁栄の象徴。周りからは畏怖の念と、好奇の目が向けられていた。
周りをよく見るとゴンザレスやリリィにも視線が集まっている。
3人とも可愛いし視線を集めるのは当たり前か。そんな3人と一緒にいるとやっぱりというか、周りの男どもから羨む声が聞こえてきた。
「それにしても、シノノメはモテモテね」
「はい?」
何を言っているんだアイルは。
「気づいてないんですか? マスターが周りの方々の視線を集めているのを。ぁ――、あのお店美味しそうな食べ物置いてますね(小声」
「アイルといる時も結構視線を感じてたけど、シノが来たら急に増えた感じがするわね」
3人に言われて周りを見渡すと此方を見ていた女の子と目が合うと「きゃっ! 私彼と目が合っちゃった!!」「ばかっ! 目が合ったなら話しかけるチャンスじゃないの! なんですぐ背けるのよ!」と、友人であろう女の子と騒ぎ始めた。
冒険者らしき男どもは「げぇ! あの時の男じゃないか!」「なにぃ!? やべ、あの時喰らった爆発スキルの恐怖思い出しちまった(ガクブル」「お、俺もだ。うっぷ、土槍の感触が……。い、行こうぜ」と離れる者。
反応は様々だが確かに俺の話をしていた。
「あれ?」
「でも、皆が羨む男を隣に置くのはなんだかいい気分ですわね。ね、シノノメ」
アイルが上目使いで見つめ微笑んでいる。
「あ、こらアイルっ! なにシノに色目使ってるのよ」
「ふふんっ! リリィの男を誘惑ですわ」
「なっ――!! ちょっ!」
ストレートに言われてリリィは赤面してしまった。リリィはその手の話は恥ずかしいらしく、直ぐ赤面してしまう癖がある。
「はぁ~、リリィより先に私の所に訪れてくれてたら良かったのに」
なんか凄いことを言っているなアイル……。
「でも、仕方がないですわね。ほら、いつまで恥ずかしがっているのリリィ? 本当にシノノメ奪っちゃいますわよ?」
「や、やだ……。だ、だめぇ――」
リリィが涙目で見上げてくる。必死に訴えてくるその姿が愛くるしい。
「うふふ、冗談ですわ。にしても、リリィ貴女可愛い顔するわね。私、ちょっと胸がキュンとしちゃいましたわ。女の私でもそう思うのですから、シノノメはもっと胸キュンね」
悪戯な笑みを浮かべてるアイル。
同じ巫女としてだろうか、アイルはリリィには何処か砕けた感じに接しているように思えた。
「あ、あんたね~」
「ほらほら、お祭り終わっちゃうから次に行きましょ」
「ちょ、ちょっとー!」
アイルはそう言うと俺たちの手を取って進み始めた――。
なんだかんだでアイルは楽しんでいるようだ。
「ん? わー! 待ってくださいー!」
食い物に気を取られていたゴンザレスが気づいて追いかけてくる。
今この時は元素の宝玉の事を忘れて、お祭りを楽しもうと思うのだった――。
◇
日が沈むまで遊んだ俺たちはアムールの海岸まで来ていた。お祭りの最後は大量のお菓子を詰んだ積荷を船に載せ海へと流すイベントがあるためだ。
港では多くの人が集まっていた為、人の少ない海岸で遠くから眺めている。人の営みの光は港を柔らかく照らし、海へと視線をずらせば二つの月の光が反射している。自然の光と人工的な光が混ざり合い、マーメイド族と人族を紡ぐ光景に思えた。
「私ね、この街の人たちが大好きですの。マーメイド族の為にお祭りを開いてくれて、美味しいお菓子も送ってくれる。私たちが当たり前のように海を守っていることに対して敬ってくれる。だから、私は辛くても巫女としての使命を頑張れる」
月明りに照らされているアイルの瞳は何処か遠くを見つめている。
彼女なりに思う事があるのだろう。
海辺へと一歩ずつ進み、アイルがくるりと振り返る――。
「だからね――。この街を守ってくれた貴方には感謝してるの。――ありがとう、シノノメ」
お礼を言ったアイルの顔は優しく微笑んでいた――。
「ふふ、お礼もちゃんと言えたし、皆とはここでお別れですわね」
「行くのか?」
「ええ、そろそろ戻らないと。それに、人族にお菓子のお礼もしないとね」
「あ、それってお店の人が言っていた――」
カップルでその光景を見れば結ばれるって言う――。
リリィとゴンザレスは目を輝かせていた。
「ふふ、二人とも興味津々ね。――それじゃもう行くわ。シノノメ、世界を――。私たちが住む世界を宜しくね」
「ああ」
力強く返事をすると、アイルは満足したのか笑顔のまま海へと消えていった。
波の音が静かに響き渡る――。
暫くすると、海に異変が起きた。海が淡い輝きを放ち始めたのだ。その光景は神秘的だった。暗かった海がライトブルーへと変わる光景に思わず感嘆の声がでる。
「これは……凄いな」
「綺麗……」
「わぁ……これ程とまでは思いませんでした」
俺たちはアイルからの贈り物に、暫く黙って海を見つめていたのだった――。
◇
数日後――。
「なんだい。もう行っちまうのかい?」
「ええ。目的があって旅をしていますから」
俺は出発の挨拶でビックマムのいるギルドに訪れていた。
「そうかい。ま、今生の別れじゃないからね。またいつでも遊びにおいでシノ坊。その時はとびっきりの『 S 』ランクの依頼を用意しとくさね。わはははは!」
あ、あはははは……。
肩をバシバシ叩かれる。
「マム―っ!」
ゴンザレスがビックマムに抱き着く。
「お嬢ちゃん達も元気でな。もしシノ坊に意地悪されたら連絡よこすんだよ。ガツンとお説教しの飛んでいくからね」
「大丈夫です。マスターはいつも優しくしてくれているので。ね、リリィ?」
「ご、ゴンちゃん!」
「わはははは! こりゃ野暮だったねぇ! シノ坊は幸せもんさねぇ、暑い暑い。暑いねぇ!」
「うわぁ……ギルド長、ちょっとおっさん発言ですよー、それ」
通りかかったウサミがしれっと一言いうと、ビックマムはこめかみに青筋を立てた。
「ひゃわわわ。さ、さてと、お仕事お仕事ぉぉ!」
ウサミは脱兎のごとくこの場から離れていった。
いつも思うんだがあの子一言多いよなぁ。
「シノ坊――」
真剣な口調にビックマムへと振り向くと、頭を思いっきり撫でられた。
「うわっ」
「あんたには色々と助けれたねぇ。ありがとうよ。あと、たまにはここに帰ってくるんだよ」
慈愛に満ちた声に俺は笑顔で答えた――。
ビックマムへ挨拶を終えた俺たちがギルドから出ると、別の人物が俺たちを出迎えた。
「シノノメ様、出発のご挨拶は終えられましたか?」
王国騎士隊・隊長のソフィ=ジークハートだ――。
俺はソフィへと近づくと、彼女は頭を下げた。
「ああ。それじゃ行こうか」
次の目的地、王都へ――!




